前回パリのフリーマーケットレポートをお届けした、ななおです!大学も冬休みとなり、以前から話題になっていたグラン・パレにて開催中のIrving Penn(アーヴィング・ペン)写真展へ行ってきました。
From Paris 60年以上に渡りVOGUEで活躍した写真家アーヴィング・ペン写真展
アーヴィング・ペンは60年間以上に渡ってヴォーグで活躍したことで特に有名なアメリカの写真家。モード写真だけでなく、白い背景に鮮やかな色彩の花を撮影したシリーズ、イヴ・サンローランやトルーマン・カポーティなどの著名人のポートレイト、ストーリーを語りかけてくるような静物写真などなど幅広いジャンルで素晴らしい作品を残しています。写真を見てみると、どこかで見たことがあったという方も多いのではないでしょうか。
1938年に初めてローライフレックスのカメラを手に入れた当時21歳ペン。その後2009年に亡くなるまで、精力的に活動を続けました。今回の大規模な展覧会では、2フロアを使い11ブースに渡って各ブース毎に異なるシリーズを展示しており、多岐に渡った彼の作品世界の一端に触れることができます。
写真を撮っている身としてアーヴィング・ペンのことは特にVOGUEの写真や花のシリーズを見たことがあり知っていたのですが、正直花の写真ならロバート・メープルソープ派。ペンにはあまり興味を持ったことがありませんでした。そんな私の印象を変えたのが彼の静物写真。身近なオブジェや果物などを組み合わせ、一枚の写真の中に時間の流れを感じさせるとても独特な作品に一目惚れ。今回の展覧会もお目当ても彼の静物写真でした。
エポックメイキングなこの作品のタイトルは”After-Dinner Games”(夕食後のゲーム)。
夕食後、お酒を片手にタバコを吸いつつ賭け事を嗜む夜の時間を想起させる、ストーリー性のある一枚です。他にも、観劇に来たマダムのカバンの中身が床に散乱してしまったかのような“Theatre Accident”(劇場での事故)、その名の通りサラダの材料を美しく配置した”Salad Ingredients(サラダの材料)”など、たった一枚の写真の中に物語を込められたこれらの作品は見るものの想像力を刺激します。写真に写る全てのオブジェが完璧なバランスの元に配置されている、その果てしない美しさに圧倒されました。
VOGUEの仕事では、エレガントかつ時に挑発的なポージング、グラスやオブジェを効果的に用いた数々の印象的な作品を残しました。ペンは特にスタジオで自然光の下、劇場の幕に使うニュートラルな色の布を背景として撮影するのを好んだそうです。
モード誌のVOGUEですが、当時はルポルタージュ的な役割もありました。
例えば、1950年から51年にかけてパリ、ロンドン、ニューヨークで行われた”SMALL TRADE(小商い)”は、同じくスタジオで自然光を使い、街の職人や商人をモデル撮影と同じ手法で撮影したシリーズ。これらの作品はアメリカンヴォーグだけでなく各国のヴォーグにも掲載され、ペンのシリーズの中でも最も写真点数の多いシリーズの一つです。被写体のイキイキしたエネルギーが伝わってきますね。
ペンが使用していた2台のカメラ。
上:ディアドルフ V8 下:ハッセルブラッド 503CW
先にも述べたように、スタジオ内で自然光撮影を好んだペン。アフリカやアジアなど、世界中での撮影にも組み立て式のスタジオを持ち運んでいました。
「スタジオには、被写体と私の間に中立な空間を作り出す作用があります。彼らの家でも私の家でもなく、我々の間に存在する中立な場所。そこでは写真家を天啓を受ける可能性があり、被写体にとっても感動的な瞬間が訪れることがあるのです。」と語っています。
これが実際に海外の撮影にも持ち運んでいた、背景に使用していた布。すっかりボロボロですが、それだけ愛用していたということでしょう。スタジオ撮影の背景には専用の紙を使うことが多いのですが、ペンのお気に入りの布は分厚いずっしりとした素材。この素材感も写真に重厚な印象を与えるのに一役買っていたのではないでしょうか。
被写体との関係性を大切にしていたアーヴィング・ペン。特にポートレートは心の奥を写し撮ったような、シンプルかつエレガントでありながら密度の高い力強い作品ばかりです。
ここで全ての作品を紹介することはできませんが、この他にもタバコの吸殻シリーズやヌード、さらに絵画作品と、バリエーション豊かな彼の作品を幅広く扱っており、アーヴィン・ペン入門には最適。ファンの方でもまだ見たことのない写真と出会えるのではないでしょうか。
現代の写真家も影響を受ける、ファッション写真の原点を築いたと言えるペン。特にアレキサンダー・リバーマンがアートディレクションを行なっていた当時のVOGUEの写真は、モノクロのシンプルな写真でありながら、大胆な構図やモデルのポージングは非常に印象的。今でも色あせないインスピレーションを与える力が宿っています。
写真史を語る上で決して見逃すことのできない作品ばかり。写真展は2018年1月29日までなのでパリにいらっしゃる方はぜひ会場でオリジナルプリントを見てみてくださいね!
Grand Palais(グラン・パレ)
3 avenue du Général Eisenhower, 75008 Paris
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黒田七生
パリ在住フォトグラファー。パリ大学でアートの勉強をしつつ、パリのフォトスタジオstudio zeroでスタジオマンとして働いています。ファッションウィークのバックステージやストリートスナップを撮りつつ、アーヴィング・ペンの影響で最近はアートディレクションやセットスタイリングにも興味津々。 @nanao.kuroda
https://septseptzero.wixsite.com/nanao
Text&Photo: Nanao Kuroda