NY在住エディターの福田です。ローワーイーストサイド(LES)のレジェンダリーバーといえば、「Max Fish」。1989年のオープンから、夜遊び好きなニューヨーカーに混じって、ジム・ジャームッシュや多くのアーティストが常連だったというし、クロエ・セヴィニーやダッシュ・スノウも、映画『KIDS』のスケーターたちとよくハングアウトしていた。誰もが一緒になって楽しめる遊び場は、NYのダウンタウンシーン、まさにそのものだと思う。
でも、LESにもホテルや大きなビルが続々と建設されるジェントリフィケーションの波がやってきて、賃料の高騰でラドローストリートにあった「Max Fish」が移転することになった。
ブルックリンに移るかも……という噂もあった中、やっぱりLESにカムバック!イエーイ!オーチャードストリートの新しいロケーションを「なんか雰囲気が変わっちゃってさ〜」という人もいるけれど、こちらの地下で毎月行われている「Abasement」は、音楽、アート、フィルム、カルチャー好きが集う、年代も性別もミックスした、やはりとってもNYらしいイベント。過去には、サーストン・ムーアや、まさかの、あがた森魚さんがサプライズで登場したことも。すごっ!
4組のミュージシャンが登場するライブイベントを基本としつつ、ジャンルなんていう垣根を越えた予測できないコンテンツ。「音楽でもアートでも“エクスペリメンタル=実験的”というと、ごく一部のカルチャー好きが難しい顔をして集まって……、というイメージになりがち。でも、本当はもっと自由でテキトーに楽しむくらいがちょうどいい。ここなら飽きたら、1Fでビールを飲んで、喋って、また戻って来られるしね」と話すのは、オーガナイザーのジョー(Joseph Frivaldi from Electroputas/写真右)。今回はバカンス中だけど、「Max Fish」のハリー(Harry Druzd)と共に、幅広〜いネットワークで、新進気鋭のアーティストから、知る人ぞ知るベテランをブッキング!
ということで、9月12日に開催された「Abasement」vol.17には、こんなメンバーがラインナップしてました。
United Waters
Brian Sullivanを中心とした3ピースのロックバンド。クールなんだけど、ちょっと気の抜けた感じのサウンドが、なんだかクセになる。ステージがないので、彼らのまわりを囲むように鑑賞するというのも、このイベントのいいところ。
Judith Berkson
ヨーロッパの有名なジャズレーベルECMに所属しているジュディス・バークソン。経歴も実力も歌声も超正統派!でも、それだけでは満足せずにユニークな音を紡ぐ彼女に、世界中から注目が集まっているのだとか。歌い上げたラストの一曲は、まるで教会にいるかのような気分に。
The Utter Nots
NYの音楽シーンで知られるPatrick、Masami、Robの3人が始動した新ユニット。今回が初のお披露目だったけれど、さっそくNY州郊外のアップステートで開催される音楽フェス「Basilica Soundscape」にも参加。即興で創りあげられる世界観にみんなも思わずワォ!これからの活動も楽しみ!
Highlife
NYのアート・ロックを代表するバンドのひとつ「Gang Gang Dance」のベースであるDoug Shawのソロプロジェクト。今回はドラムも参加のスペシャルセット。穏やかながらリズミカルな気持ちのよいサウンドで、踊り出す人も続出!
また、VJを担当するのは、NYアート界のジョン・ガリアーノ!(似ているから勝手に思っているだけだけど) Bradley Erosが参加。彼は、貴重な映像作品や映画を保管&上映するニューヨーカー自慢の映画館「Anthology Film Archives」のキーパーソン。
NYのバーで開催されるイベントとしては早めの7時スタート。12時には終了するシンデレラタイムということもあって、女の子の参加率も高め!「昨日もMax Fishにいて、まだ二日酔い(笑)」と話すグラフィックデザイナーのTranは、2種類ある「Abasement」のフライヤーも手がけている若手実力派!
おしゃれな子も多い中、勝手に選んだ今回のベストドレッサー賞は、エッジの効いたジャケットを着こなしていたアーティストのAndi。「ショッピングは、ほとんどがスリフトストア。これも古着なんだよ」。ニューヨークの女の子って、本当にチープ&シックな着こなしが上手!
ほかにも、アンディ・ウォーホールやマシュー・バーニーのアートフォトグラファーであり、音楽&映像アーティストとしても有名なLary 7や、ホイットニー美術館のキュレーターも遊びに来ていたり……、個性的なみんなを挙げていたらキリがない!(笑)
例えば、何かのイベントに行くとしたら、あらかじめネットで調べて選ぶことが増えたけれど、ちょっとスマート過ぎだなぁと思うこの頃。「ぎゃーなんだこれ〜?」とか「意外と好きかも〜これ誰?」とか、ピンボールみたいにいろんなところにぶつかって、体験してみたら、バンって扉が開くように、自分にとって新しいとびきりの何かが見つかることってあるもの。(ちなみにMax Fishにはピンボールもビリヤードもあるよ!)そういう意味で、ここは、ちょっとディープで、いろんなNYのカルチャーがぎゅっと凝縮している。「Abasement」は、第2月曜日に「Max Fish」の地下で開催中。NYに行くことがあれば、LESのワンダーランドをぜひ体感してほしいです!