働くって何? りんごの行商人 片山玲一郎さんに聞く – 売っているのは出会いや場面 りんご売りは“自己表現”

働くって何? りんごの行商人 片山玲一郎さんに聞く – 売っているのは出会いや場面 りんご売りは“自己表現”

世の中には、働くことに幸せを見出し、必要な稼ぎを得て毎日を生きている人たちがいる。一方で、自分の夢が見つからない。やりたいことがない。何のために働くのかわからない―。そんな疑問や迷いを胸に抱きつつ、毎日を過ごす人たちもいる。いったいこの差は何なのか? 働くって何なのか? 労働時間、適正な賃金、コンプライアンス…… 「働き方」が問われる今、職種も生き方も異なる6人の中に、その答えを探ってみることにした。


Revolution: 01

りんごの行商人
片山玲一郎

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かたやま・れいいちろう≫ 1982年、徳島県出身。15年前、アフロの髪形でも受け入れてくれるバイト先を探していたところ「ムカイ林檎店」に行き着く。ジャズピアニストからりんご売りに転身。


 

売っているのは出会いや場面 りんご売りは“自己表現”

今から15年前、ジャズピアニストが、道端でりんごを売る〝行商人〟に転職した。片山玲一郎さん、34歳。現在、東京都世田谷区の「ムカイ林檎店」で働いている。〝りんご売り〟とはどんな仕事なのか?

「買ってくれる人がいるところに出向いてりんごを売る。ただそれだけです」と片山さんは言う。

朝8時に店を訪れると、数人の売り人さんが商品を車に積み、気の赴くままどこかへ出かけていった。ある人は「天気がいいし、海の方へ!」。またある人は「仙川です。理由? ないです。なんとなくです」と言って。売り方も売り場も全部その人の自由。その日の朝にどこへ売りに行くかを決めて出かける。

ムカイ林檎店は2001年、京都市山科に創業した会社で、全国に4店舗ある。青森県大鰐町から仕入れたりんごを住宅街や駅前で声をかけて売り歩く行商集団だ。報酬は完全出来高制で日払い。りんご1キロ(3〜4個)500円(税別)の量り売りで、りんごジュースとりんご酢も売る。

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環八通りに面した世田谷店の外観。

 

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世田谷区千歳台にあるムカイ林檎店。店頭で商品を買うこともできる。

 

スーパーやコンビニがあふれ、ネット通販が主流な時代になぜ〝行商〟なのか?

「普通はりんごなんていらんから『いりません』って言うでしょ。でもちゃんと目を見て、〝あ、この人は自分に会いに来てくれてるな〟って、何か温度のようなものを感じた人は買っていくんです」

路上で突然「りんごいりませんか?」と声をかけられれば多くの人は戸惑う。が、中には心を開く人もいる。

「一瞬で裸の付き合いみたいになるんです。『え、なになに、りんご? どういうこと?』って立ち止まって。最初は誰かもわからんのに、話しているうちに誰にも言えなかった本音を言ってきたりするんですよね。『うんうん、そうなんだ』『それいいよね』とかって喋って。年齢や肩書を越えて、お互い素になって心が触れ合う。一瞬で『出会えてよかったね』ってなるんです。だからこっちから声かけてるのに、別れる時はあっちから『ありがとう』って言ってくる。そういう出会いや場面を売る。これが行商の面白いとこです」

なるほど。売っているのはりんごだけではない。

片山さんは、りんご売りは商売であり〝自己表現〟だと話す。「りんごいりませんか?」の一言を相手がどう受け取るのか。そこで自分の人間性が試される。その日、その場、その人の感じで、何をどんなふうに伝えるか勘と直感で決める。いわばアドリブ。1対1のセッション。片山さんにとってりんご売りは、ジャズピアノよりもジャズだ。伝わらない人は去っていく。でもハッと何か気づきを得てりんごを一箱まるごと買っていく人もいる。真っ正直な表現活動と商売が同時に成り立つのが面白い。だからりんご売りになった。片山さんはしっかり売る時で1日20〜30万円分を売る。それで妻と5人の子どもを養っている。

「りんご屋には商売人はもちろん、絵描き、俳優、サーファー、ミュージシャンなどいろんな人たちが働きにくる。自分の人生や、自分らしさを出して売る。人の真似しとったらそれなりにしか売れん。素になって自分の伝え方で伝えるしかないんです」

りんご売りは自分でテーマを設定する。たとえば10万円売りたい人は「今日は10万円を目標に売っています」と素直に言ってみる。無理だ、と言われるかもしれない。でも中には「そうか。じゃあ1000円分買うわ、頑張れ」と買ってくれる人もいる。

片山さんは、漠然とした思いでいいから「ざっくりとコッチの方に行きたい」と決めて進むことが大切だと言う。それを突き詰めた先に「ざっくり」の中身、自分は本当はこうしたかったんだという〝本音〟が表れる。朝、売り人さんが言っていた「海の方へ」「なんとなく」の理由がわかる。りんご売りはサーフィンに似ているという。自分で泳いで沖までは行くが、波に乗るかどうかは自分次第。最終的にどこへたどり着くかは誰にもわからない。

 

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青森から仕入れたりんごが並ぶ。夏季はりんごジュースとりんご酢のみ販売。

 

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もともとジャズピアニストだった片山さん。お店にはピアノを置いている。

 

昔、道端で会社員のおじさんとこんなやりとりをしたことがあるそうだ。

「いまりんご売ってます」

「いるわけねーだろ、このタイミングで」

「どんなタイミングなんですか」

「仕事してて余裕ないやん、見たらわかるやん」

「まぁ食べてってくださいよ」

「だから時間ないから。また今度」

「もう会わないかも」

「お兄さん、それで食っていけるの?」

「出発前にこれだけ売ろうって決めてると、ちゃんとそれに合ってくるんです」

「ほぉ。旅人だね。そういうの憧れるわ。そういうのしたいけど、でもいろいろあるから、うちも」

「いろいろ?」

「また会う時にゆっくり話そう。店行けば会える?」

「いや普段店にいません」

「じゃどこにおんのよ!」

「今ここです(笑)」

おじさんはりんごを1個買った。キツキツのブリーフケースに無理くり詰めたりんごが盛り上がった状態で去っていった。

 

片山さんは「忙しくて本音からズレてる人は、できない理由を自分の外側につくる」と指摘する。「家族がいるから」「時間がないから」「余裕がないから」。忙しさの正体、それは〝今ここ〟にいないということなのだ。片山さんはりんご売りがうまくいかない時はこんなことを実践するという。

「『歯を磨く』とか『寝る』とか『食事する』とか、日常的なことを徹底的にやってみる。歯も1本ずつ丁寧に磨けば時間はかかるけど、やってみたら〝なるほど!〟ってなるんです。何でも意識してやると感じる力が戻ってくる。こういう時間いいよなぁ、呼吸できてるなぁ。こういう時間がよくて生きてるはずなのに、自分は何せかせかしてたんだっけ!?って、気づきます」

働くとは忙しくなることではなく、むしろ忙しさから解放され、本音に気づくこと。なぜ働くか。その理由は〝今ここ〟にある。

 

gz06_revo1-2_25三鷹店のオープンは2011年2月3日。世田谷店は2016年2月8日。いずれも新月の日。旧暦(月の満ち欠け)のリズムに合わせて動く。

 

gz06_revo1-2_33軽やかな手つきで、一番おいしく食べられる切り方で試食させてくれる。

 

gz06_revo1-2_ex4この日は自由が丘駅の近くで路上販売。開始後、ものの5分で売れ出した。

 

Photo: Takako Noel
Text: Sabu

GINZA2017年6月号掲載

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