蓮沼執太がどんな音楽家なのか、ひと言で表すことは難しい。自身のアルバムを定期的にリリースし、U-zhaanや坂本龍一などとコラボしたかと思えば、メンバー10名以上のアンサンブル「蓮沼執太フィル」を結成し、オヴァル、オオルタイチ、ジム・オルークなどとも共演。それ以外にも、演劇、映画、CMの音楽、イベント「ミュージック・トゥデイ」の企画と構成、美術館やギャラリーで展覧会の開催など、その“音楽”活動は多様な広がりを見せている。
そんな蓮沼執太が銀座の資生堂ギャラリーで『 〜 ing』という名の個展を開催中だ。一見するとやや読みにくく不思議にも思えるそのタイトルの意味について蓮沼はこう語る。
「“〜”という記号は、空白から空白、何かと何かが関係している、という意味でつけています。時間と空間、人間と音、聴覚と視覚、作曲者とオーディエンスとか……。この展覧会では、その何かと何かの間にある“関係性”をあぶりだすことを意識しています。またその関係性は、決して固定的なものではなく空間や時間を漂い変化するような“動的”な意味をもっていて、それを“ing”という言葉にこめています」
通常、音楽家は時間の流れの中に音を配置して曲をつくり、それをオーディエンスに届ける方法を考えるものだが、蓮沼の音楽活動(もちろんこの展覧会にも)には、オーディエンスは空間的にも時間的にも事前に組み込まれている。
「作曲者や演奏者が発信者とも考えていません。オーディエンスの身体が、その展覧会場に長く滞在してもらえるように、モノ、音、作品を配置しています。その空間の中にある音の存在に引っ張られたオーディエンスの意識の流れが、それぞれの中で“音楽”になっていけばいいと考えています」
蓮沼執太は狭義の意味での作曲をするだけの音楽家ではない。作曲者、楽器やモノ、演奏者、オーディエンス、それらの関係性とそこに流れる複数の時間に意識をめぐらし音楽が立ち上がる環境を構築する。そこに作曲者としてのエゴはまるで感じられない。人やモノがあってその関係性と時間の中で音楽が生まれる。蓮沼執太が提示しているのは、そのあまりにも普遍的で、静かな祈りにも似た“音楽”の体験なのである。
『蓮沼執太 : 〜 ing』
開催中〜6月3日 資生堂ギャラリー
蓮沼のクリエーションの柱となるフィールドワーク、協働、現象といった要素を抽出し制作した映像、サウンド、立体などの7作品を展示予定。
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