隣のコートでは十代であろう若い選手が四人、 アグレッシブにボールを打ち合っていた。目の前では添田豪が体の調子を確かめるように、 ゆっくりと体を動かしウォーミングアップを始めていた。一つ一つ丁寧に、集中しながら進めていく。天窓から入ってくる光は優しくコートを照らしていた。
エレガントという表現をスポーツの記事などで目にすることはあっても、 日本で生活をしていてエレガントと思う瞬間は、僕には経験が無かった。けれど、添田豪の最初の印象はエレガントな佇まいだった。
彼がラケットを持ってコートに立っている姿を見た時、反射的にそう感じた。静かなコートで繰り広げられるラリーや、一歩先をイメージした動きには、 思考が凝縮されていて見ているこちら側の想像力まで刺激される。
決してクールなだけではなく、どこか〝冷めた熱〟を感じる。矛盾した表現だが、この言葉が僕には一番ピンとくるように思う。曖昧な言葉は嫌いだけれど、そこには確かにあるのだ。
彼がスマートに纏う〝冷めた熱〟は僕を熱狂させる。