「つまらないでしょ?」
飯島望未は基礎レッスンを見つめるこちら側を何度も気遣ってくれた。
カラダを動かすたびにグレーの髪が意志のあるように素早く揺れる。
音楽がかかっていないスタジオでは、空調の音がやけに大きく聞こえる。
白地にボーダーのセットアップ。
エメラルドグリーンのバッグ。
サンダルは魚の骨のデザイン。
スタジオに入ってきた私服の彼女は、その細さが際立っていて柔らかな印象だった。
けれど、いま目の前の彼女は、鋭い。
〝バレエはスポーツではないけれど、フィジカル的に自分をアスリート寄りの存在だという考えはありますか?〟
「練習と舞台で、スポーツとアートっていうのが分かれるのかなと思います。舞台に立ったら音楽と物語があるのでアートですけど、それまでの練習はもうキツくて酷使してやっているから、両方なのかな。舞台の上ではスポーツではないです。スタジオではアスリートかもしれない」
〝踊ることは、飯島さん自身の自己表現という意識なんですか?〟
「自己表現がどこからどこまでか分からないですけど、私のこういう髪だったり、日々の習慣が私の人格になって、個性になって、踊りにも出るから。バレエしかやってなくて、家とスタジオの行き来だけでバレエ以外の人と共演してないって、表現の幅も広がらない。それはけっこうね…うん。バレエダンサーである前に、一人の人間として、豊かにして、そしたら表現も広がるかな、なんて思ってます」
レッスンの合間、どこまで近寄って撮っても平気ですかと尋ねると、
気にならないからぶつからない程度なら大丈夫、と教えてくれた。
ぶつかるからではなく、横から見る彼女の目は本当に綺麗で覚悟が感じられるから、近寄りすぎて壊してはいけないと思った。