清少納言の頃、月と蛍が照らした青の世界に、 いつからか無数の街明かりが輝いている。 一番星よりも早く艷やかな赤が灯る、東京の夜へ。
SUMMER NIGHT TOKYO GUIDE 夏は夜の屋上。
夜の始まりを眺めに。
屋上へ、夜を迎えに行く。夏の夜は、長く熱く照りつけた陽射しを少しずつ冷ますかのように、ゆっくりと訪れる。短い夜を大切に刻みながら移り変わる青の景色。昼と夜の間に訪れるブルーモーメントの瞬間を待って、ぽつりぽつりと街に明かりが灯り始める。そして、気がつくと、夜に包まれている。
夜を眺めるための屋上は、殺風景なほどいい。それは東京の街に、どこかノスタルジックになれる〝隙間〟を求めているせいかもしれない。冬は温かい缶コーヒーをポケットに忍ばせて寒空の下、やるせなさと向き合ったりするのだけど、夏の夜は少し違って、昼の賑やかな気分を引きずったままやってくる。
東京の夜の全貌は、六本木ヒルズ森タワーの屋上から眺めることにしている。新宿の高層ビル群、羽田空港、東京湾にお台場。暑かった昼をビュンと勢いよく吹き飛ばすように吹きつける突風も心地いい。19時頃、眼下の東京タワーがライトアップされると、まるで夜を祝福するようで気分が高まる。海抜270メートルから360度東京を見渡せる都内随一のパノラマビューを、まだまだお上りさんだけに譲り渡すわけにはいかないのだ。
「エキミセ 浅草ハレテラス」屋上8階からの絶景。「エキビア」は飲み放題付きBBQセット ¥4,200〜。ふらっと屋上だけ訪れるのももちろんOK。浅草駅直結。
住: 東京都台東区花川戸1-4-1
☎: 03-6802-8633
営: 10:00〜20:00(9月2日まで開催のビアガーデン「エキビア」の利用は17:00〜22:00、土日祝は昼営業11:00〜15:00もあり)
休: 無休
一方、上野精養軒の屋上から望むのは、蓮の蕾が眠る不忍池の夜だ。池の中央には小さな弁天堂があって、その暖かな光が灯るのを合図に、森は眠りにつく。夏にだけビアガーデンとして開放される屋上の始まりは昭和だが、店には146年の歴史がある。この風景が時代を重ねる毎に魅力的に思えるのはたぶん、いつかの誰かが同じ夜を眺めていたかつてに、一瞬にして時を巻き戻せるからなんだろう。
浅草エキミセにも、主役級のランドマークがバンバンバン!と迫り来る、センセーショナルな屋上がある。駅の真上という立地なのに、意外と静かなところも良くて。アサヒビールのビルの黄金色に反射して沈む、赤い夕日を眺めて夜を迎える夏に、拍手を送りたい気持ちになる。
「上野精養軒」1872年、西洋料理店として上野公園の開園と同時にオープン。ビアガーデンは食事と飲み放題付きの3コース ¥5,000〜。ドリンク飲み放題のみは2時間 ¥2,800(すべて税込み)。アラカルトも可。
住: 東京都台東区上野公園4-58
☎: 03-3821-2181
営: ビアガーデン 17:00〜21:00(〜9月9日)無休(荒天時はクローズ)
休: 無休(荒天時はクローズ)