06 Jun 2022
自分にとっての“足る”を知る。eriさんのサステイナブルな生活

自分にとって今本当に大切なこと、必要なものを見極めながら過ごす。東京で、そして地方へ移住して、サステイナブルな生活を実践する人の話。
eri
DEPT Company 代表
情報のコピーや誰かの真似じゃない!
自分にとっての“足る”を知る
「前の部屋は3・5倍くらいあったので、ものを減らすのが大変だったんです」と笑うeriさん。1LDKのスペースは“ちょっとゆとりのあるひとり暮らし”といったサイズ感で、けっして広々とした空間ではない。
ヴィンテージショップ「DEPT」の代表を務めるeriさんにとって、服や雑貨、インテリアは重要なものであり、こよなく愛するもの。それらの多くと一定距離を置いて生活をダウンサイズしたのには、強い思いがあった。
「2年ほど前からSNSを通して気候変動や環境問題について発信していて、極力ゴミを出さないとか、新しいものを買わないようにするなどアクションしていくなかで、もともと持っている物量に違和感を覚え始めて。キッチンにはコップやカトラリーが何セットもあって、こんなにたくさん使うか!?って(笑)。そういう視点で生活を見てみると、すごく資本主義的に生きてきたんだなと気がついたんです」
行き過ぎた消費社会もまた、環境に負荷をかける大きな要因だ。アクティビストとして発信するからには、まずは自分の暮らしから見つめ直すことが必要だと、半ば“実験的”に住む家や環境を変えてみることにした。
「数十個あったグラスやカップをまずは2つに、洋服は普段使いのものだけ、家具も必要最低限のものだけにするなど、徹底的に数を減らしました。そうすると、何が不必要で、何が必要かが見えてきたんです」
たとえばティッシュやキッチンペーパーなど、シングルユースの「紙」は必要なかった。使わなくなった布を小さく切ってコップに入れておき、使ったら洗濯を繰り返す。
「用途別に買っていた洗剤も必要なかったですね。今はホタテの貝殻から作られた〈618 ホタテパウダー〉を水に溶かしたものをオールパーパス洗剤として使っています。除菌や消臭もできる優れもので、各種洗剤のプラスティックボトルをたくさん家に置くストレスから解放されました。ホタテの殻は産業廃棄物なので、それを有効活用できるというのも素晴らしい」
あらためて必要性に気づいたのがソファ。引っ越し後、しばらく経ってから再び一緒に暮らし始めた愛猫の“紋太郎”の存在が大きい。
「私にとってダイニングのチェアは仕事や食事など、目的を持って過ごす場所。逆にソファは完全にリラックスする場所なんです。たいていはネコと遊んだり、一緒にうとうとしたり。そんな時間が、とても大切だって気づいて。しばらくソファのない生活をしていたら、紋太郎との時間も作りづらくなるし、うまくオン・オフを切り替えられなくなってしまって。ネットで中古品を譲ってもらうことにしました」
以前は家具も家電も新品以外は考えられなかった。でも、思い切って中古品を買ってみたら、快適に使えるものが手頃な価格で手に入って、いいことばかり。今の部屋に新しく買ったものはほとんどない。
環境に負荷を与えない暮らしは
我慢どころか気持ちいい!
環境問題に関心を持ったのは15年ほど前。20代前半にアル・ゴアが書いた『不都合な真実』という本を読んだのがきっかけになった。その意識を一気に加速させたのが、2019年に目にしたあるデータだった。
「国連気候変動に関する政府間パネルであるIPCCという組織が、このままいけば予想よりもはるかに早いスピードで地球の平均気温が上昇するという予測を発表。すぐに対策をしなければ、取り返しがつかない。焦る気持ちと同時に、上の世代の大人たちはなぜ放置していたんだと怒りがこみ上げてきました。私の後の世代には同じ思いをさせたくない。やれることは全部やったと言いたい。そのために自分がやるべきことを考え続けているんです」
1LDKの部屋で始まった実験。たくさんの気づきと学びを与えてくれた。
「環境に負荷を与えない暮らしと聞くと、何かを我慢することだと捉えがちですが、実践するとすごく気持ちがいい。生ゴミをコンポストすれば匂いを抑えられるし、ゴミ出しの回数が減る。食材の保存に使うプラスティックの密閉袋を繰り返し使えるシリコン製バッグに、ラップを蜜蝋ラップに変えたりすればゴミが減る上に定期的な買い足しもいらない。固形シャンプーを使えばプラスティックボトルがなくなって、バスルームの景観がすっきり美しくなるんです」
これまで便利だと思っていたものは、小さなストレスだったのかも。そんな発想の転換を積み重ねて、今のeriさんの“所有”から解放された、心地よく、豊かな暮らしがある。
「ただ、私にとっての“心地いい”が、みんなにとってそうだとは限りません。大切なのは、自分にとっての“足るを知る”ということ。情報をそのままコピーするのではなくて、自分の暮らしにフィットするかどうかを考えることが大切なんだと感じています。そうでないと、きっと長く続けられないと思うから」
環境問題という広い視点から始まったeriさんの暮らしの変革。それが教えてくれたのは、ひとりひとりの小さな生活が、未来の大きな転換につながっていくということ。本当の心地よさとは何か、という気づきだった。
Photo: Yuri Manabe Text: Yuriko Kobayashi
GINZA2022年3月号掲載