今回からパリについてのコラムを書かせてもらうことになりました梶野彰一です。全方位にパリ偏愛者で、写真を撮ったり、文章を書いたりしています。まず第1回は僕の行きつけのお店、「VIVANT」のことを紹介したいと思います。
A.P.C.のファウンダーのジャン・トゥイトゥのご子息がシェフ!パリ10区にある「VIVANT」。カウンターで気軽に自然派ワインを
10区、東駅からサンドニ門、さらにポワソニエール通りにかけてのゴチャッとした一帯が、ここ数年でボヘミアンなパリジェンヌ、パリジャンが集まるヒップなエリアへとみるみる生まれ変わりました。たくさんのカフェ、レストラン、ストリートフード、バー、ホテルが軒を連ねて、とにかく昼も夜も賑わっています。
そんなエリアのプティット・エキュリ通りで、ヴァン・ナチュール(自然派ワイン)をカウンターで飲ませてくれるバーとしてスタートしたVIVANT CAVEが昨年ひっそりリニューアルしたのです。
内装はそのまま、シェフとソムリエだけが変わりました。新たなシェフが立ち、ワイン中心だったVIVANT CAVEも充実した料理が味わえるお店になりました。お隣の1号店だったレストランVIVANT TABLEはクローズし、ピザが評判のイタリアンに生まれ変わったことで、名前も初心に返ってシンプルにVIVANTに。
そもそもVIVANTと言う名前はこのお店を作った、パリのナチュールの仕掛け人、ピエール・ジャンクー氏が活き活きしたワインという意味でヴァン・ナチュールの魅力を書いた本のタイトル「VIN VIVANT」に由来しています。本来レストランとはいえ自然派ワインを飲むことを考えた空間で、当時、昼間からカウンターで食事も取らずにグラスで1杯、2杯とワインだけを頂きたくて通っていたこともありました。
かねてよりお気に入りのカウンターのひとつだったこのお店により頻繁に通うようになったのは、新しく来たそのシェフ、友人でもある、もうひとりのピエールのせいでした。ピエール・トゥイトゥ、そのファミリーネームを聞いてこの顔立ちを見ればピンとくるかもしれませんが、A.P.C.のファウンダーのジャン・トゥイトゥのご子息がシェフなのです。
ピエールは若干23歳とはいえ、ロンドン、アラン・デュカスのプラザ・アテネ、日本料理でミシュランの星を取ったケイなどを経て、最終的にはウルグアイでの修行までと、すでに下積み経験は十分すぎるほど。さらに世界中のレストランをめぐり美味しいものを食べ歩いてきたことは、その白いエプロンの下の恰幅の良さが証明してくれるでしょう。
カウンターの小さな調理スペースで手際よくお皿を用意する様は、食事中の会話の最中でも、ふと見とれるほど。もしや僕にそんな姿を見せたくてなのでしょうか、決まって予約をすると彼のちょうど脇の“シェフズ・テーブル(カウンター)”を空けて待っていてくれます。
フレンチはもちろん、ファミリーのルーツでもあるチュニジア料理や、彼が個人的に思い入れの強い和食からのインスピレーションを交じえながら、野菜も魚も肉も、そしてお好みならパスタまで、その季節の素材の醍醐味を大胆に味合わせてくれる素晴らしい料理人です。これは決して友人からの偏った意見でないことは、先ごろパリで優秀な新人シェフに贈られる賞を受賞したことでも明確です。
座ってまずは微発砲のナチュールかシャンバーニュを。それから今日のお皿に合わせながらソムリエのクレモンと相談しながら素敵なボトルやグラスを提案してくれる気軽なスタイルです。
もともとのCAVEという名が示すとおり、カウンターの背後は壁一面のワインのストックになっていて、エチケットのかわいいワインをジャケ買いするのも楽しみ。美味しすぎてすぐにグラスが空いてしまうワインばかりです。
むしろヴァン・ナチュールをメインに楽しみたい僕のような飲んだくれのためには、逆に飲みたいワインに寄り添ったお皿をシェフがさらりと提案してくれる心遣いがうれしいカウンターでもあります。
デザートには自家製のショコラの味見することをお忘れなく。どこかエキゾチックなスパイスが効いたワインのために作られた絶品なのです。
パリで気軽にヴァン・ナチュールとお料理を楽しみたい夜にはぜひこのカウンターを予約してみてください。
Vivant
43, rue des Petites Écries 75010 Paris
Tél. 01 42 46 43 55
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梶野彰一
フォトグラファー、ジャーナリスト、グラフィストにして親日家パリジャン。パリを想い患い、ジタンの煙に巻かれたアクアボニスト、エスプリの波間に溺れるセラヴィスト。あるいは、空虚が私の新しい名前。Photographe, Journalist et Aquoibonist ou le Vide est mon nouveau prénom.