ウェス・アンダーソン最新作はアニメ ! “犬ヶ島”

ウェスの盟友であり共同原作者・野村訓市さんがその制作過程と見どころを紹介。


ベルリン映画祭。世界三大映画祭のひとつということも知らないまま、2月に行ってきました。理由はウェス・アンダーソン監督の最新作『犬ヶ島』がオープニング作品に選ばれたため。俺はこの映画の仕事を気づけば3年もやっていた。

きっかけはウェスから届いた短いメール。「日本の映画を作るから手伝ってくれないかい?」。大体においてウェスのメールは短いのだけれど、短ければ短いほど危ないメールだということは過去の経験からいって間違いないことだった。どの位のお手伝いになるのか向こうも分かっていないからだ。いいよと軽い気持ちで返信してしまったのだが、そこから怒濤の3年間が待っていた。サンプル画像の収集から、脚本の翻訳修正とセリフの書き換え、日本人役声優のキャスティング。最初に尺を測りたいから、日本人役のセリフを全部読んで録音してくれと言われ、慣れないながら小芝居をして送ると、「クンの声が一番悪い政治家らしい声だからこのままキャスティングするね!」と言われて声優までやることになった。

それでも最初の2年は撮り直しをしたり、セリフを変えたり、いろいろいじる余裕もあったし、公開なんていうのは未来永劫来ないんじゃないかと思うくらい、進行は遅かった。それが去年に配給会社が決まり、公開日が決定したあたりから後戻りのきかない、リアルなものとなってきた。それに従い、俺の気持ちもだんだんと重くなってきた。天才監督ウェスのチームで直に働く日本人は俺だけ、舞台が日本でセリフも半分くらいが日本語、映画がもし受け入れられなければそれは俺の責任だ。久しぶりのベルリン行きに心躍る心境にはなれなかった。しかも役職なんてどうでも良かったのだけれど、気づけばウェスが原作者としてクレジットしてくれたので、喜ぶよりその責任の方が重く感じていた。

ベルリンに着いた初日、皆を囲んでのディナーがあった。ウェスの仲間は誰もが家族のようでとてもアットホーム。前作で一緒だったジェフ・ゴールドブラムや、友達の結婚式で会ったグレタ・ガーウィグもいたし、シスコで朝まで飲んだばかりのロマン・コッポラ、『ロスト・イン・トランスレーション』の撮影打ち上げ以来15年ぶりに会うビル・マーレイもいて時差ボケとワインが程よく混じり、すっかりだんだんとどうでも良くなっていった。誰も知らないから緊張すると言っていた野田の洋次郎も夏木マリさんもすっかり皆と打ち解けて「こんなにアットホームなのか!」と驚いていた。それもウェスの人徳なのだと思うのだけれど。

翌日はいよいよ上映で、朝からプレスカンファレンス、撮影、インタビューの嵐。スーツを着るのはレッドカーペットと開会式だけと聞いていた俺は、ひとり寝巻にしていたジャッカスのTシャツにファーのコートを着てロビーに降りたらそのまま記者会見で、全員スーツ姿の中で浮きまくることになった。普段はインタビューをする側なのにされる側になると、なぜ皆インタビューを嫌がるのかがよくわかった。同じ質問、まったく何も調べることなく話を聞きに来る奴。俺も仕事は気をつけなければと気を引き締めることにした。

そして夜のレッドカーペット。ハイヤーが横づけにされると赤い絨毯の上に立ち、ひたすら写真を撮られる。これにはまったく慣れなかったが、他の人たちは撮られ慣れてるというか、そもそも俳優なので笑顔がうまい。それを横目に見ながらいそいそと会場に入り、長いドイツ式の開会の挨拶の後、いよいよ映画の上映。楽しみというより、やはり気が重い。初めて客に観せるのだからどんな反応が返ってくるのか?映像はウェスなのだから褒められるに決まってる、でもそれ以外は。上映が始まりクスクス笑う声や、シリアスな場面では見入る様子がわかる。自分の声もまぁ気にならない程度にはなんとかまともに聞こえる。あっという間の2時間弱、終わると大きな拍手と歓声に包まれていた。やったね。


ベルリン映画祭オープニング 銀熊賞(監督賞)を受賞!
2018.02.15

ウェス・アンダーソン 犬が島5 犬が島4 犬が島3 犬が島2

一番上はレッドカーペット。左のジェイソンはコッポラの甥で右のロマンは長男。俺が初めて映画の仕事をしたのが長女のソフィア。コッポラ家にはなぜか縁がある。記者会見や会食、取材時のスナップも。ウェスはニコニコしながら毎晩何かしら用意してくれて、美味い飯と酒を用意してくれる愛すべき人。


『犬ヶ島』

『グランド・ブダペスト・ホテル』『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』など独特の美意識と世界観に熱狂的なファンを持つ映画監督ウェス・アンダーソンの最新作は何と日本が舞台!少年と犬たちとの友情と冒険を描いたストップモーション・アニメ。オノ・ヨーコ、渡辺謙、夏木マリなど、豪華な声優陣にも注目。5月25日全国ロードショー。

©2018 Twentieth Century Fox

Text: Kunichi Nomura

GINZA2018年5月号掲載