ユーミンの愛称で親しまれ、同世代のリスナーだけでなく、リアルタイムで曲を聴いたことのない世代までをも広く魅了する国民的シンガーソングライターの松任谷由実さんがデビュー45周年を記念したベストアルバム 『ユーミンからの、恋のうた。』とともに登場。エイジレスな魅力を放ちながら、人生を謳歌する松任谷由実さん。ファッション、日常生活、 音楽制作について、パーソナルなことでも包み隠さず語ってくれた。彼女を形作るルールとはいかに。
仕事、おしゃれ、暮らし …ユーミンのマイ ルールとは?
「歩いていて偶然見つけたの」
ユーミンに案内されたのは、二子新地駅からすぐのイタリアンレストラン、クアーレ。お店の前に到着した頃には、それまで降っていた雨も上がっていた。
夕方、人通りの多い商店街で「晴れ女だからね」と爽やかな笑顔でカメラに微笑んでは、ときおりムーンウォークでおどけて見せる。店内に入ると、カンパリソーダを前に撮影とインタビューを再開させた。
「このお店がどんなふうに写るのか、興味ある」と言ってはモニターを覗き、 「こっち来て、見て見て」
お店のスタッフを手招きして写真を見せるひと幕も。
この日羽織っていたのは〈アレキサンダー ワン×アディダス〉のPVCのジャケット。プライベートではハイブランドからファストファッション、古着まで自分らしく着こなし「セレクトショップにも109にも出かけますよ。私、PASMOも持ってるし、電車やバスでどこでも出かけちゃう」と笑う。 まずは「もう袖を通していないものはない」と言う彼女ならではのファッション観からフォーカスする。
60年代は今も色褪せないファッションの黄金期
「トレンドは巡っていきますよね。5年、10年、20年周期でスパイラルがある。今日はモッズを意識したんですが、やっぱり60年代は一番クールで大好きです。Aラインのミニスカートやプレイフルな原色使いとか、その時代の影響は今のモードのいろいろなところに見られますよね」
この日はファレル・ウィリアムスがプロデュースした〈Gスター ロウ〉のチェック柄のパンツをしなやかに腰履きしていた姿も印象的だった。さまざまな洋服を着こなせるスマートな体形をつくる秘訣を尋ねると、
「朝起きたら、15分ほどピラティス的なエクササイズをします。朝体重を量るのも日課ですね。体脂肪ほか、何項目も出てくるので、自分の体形の変化にすぐ気づける。それから上質なお水を飲んで、コエンザイムQ10とアルファリポ酸のサプリメントも欠かせません。ここまでで大体30分は使ってしまいますね。そして洗顔をしてから、お急ぎモードで洗濯をしている間にお風呂に浸かります。湯船に入るのは夜と朝の2回がマイルール。そして、我が家では、お茶を飲むのがお決まりなんです。紅茶が多いですね」
季節や気候に合わせたこだわりの紅茶選びから、朝食についても尋ねた。
「雨の日はスモーキーなのがいいんですよ。今日はラプサン・スーチョンを飲んできました。春はダージリン ファーストフラッシュがおすすめ。コーヒーや日本茶ももちろん飲みますよ。朝食はバナナをちゃんとお皿に乗せて、ナイフとフォークを使って食べますね」
驚くスタッフに、
「皮をむいてそのまま食べたりしないよ」と笑う。
「ネギなんかもそうだけど、繊維の切り方ひとつで味って格段に変わるの。それからスイーツでちょっぴり自分を甘やかします。お気に入りのアメリカンクッキーや、いただき物の和菓子も多いですね」
夜は炭水化物を抜いて、朝は好きなものを摂る無理のない食生活を心がけているユーミンの優雅なおめざタイムを教えてもらったあとは、自宅についても。
〝勉強部屋〟と呼ぶマイ・スペース
「2つのレコーディングスタジオを完備しているので、だいたいのことは自宅で済ませられます。夫が使っているメインのスタジオは、商品化するところまでできるんです。もうひとつは勉強部屋と呼んでいて、私がよく篭っているスペース。机とピアノがあって、資料となるCDやアナログレコードを大量に保管しています。キューボックスを置いてパーテーションを立てて歌入れもそこでしますね」
仕事部屋ではなくあえて〝勉強部屋〟と呼ぶ理由を「だって、一生勉強だからね」と語る彼女は、ポップの伝道者であり求道者だ。
「脳科学者の茂木健一郎さんがね、『マゾは自分へのサド』って言ってたけど、まさにそうよね(笑)」と付け加え、それから制作について詳しく話してくれた。
「曲は書こうと思って取りかかることがほとんどですね。自然に〝おりてくる〟ことなんてない。思いついたフレーズをレース編みのようにパーツをつなげて構成していくんです。たとえば、夜中にイメージが湧いたらボイスレコーダーに録音しておくの。ほかのひとにはお経のように聞こえるものかもしれないけれど(笑)。翌朝こういう響きで、こういうメロディだって忘れないようにちゃんとコード化するんですよ。インスピレーション源のひとつに、映画の雰囲気を音楽にしたいと思うこともありますね。ツアー中は移動も多いので、iPodに入れたありったけの音楽を聴くんですが、再生した誰かの曲から、私だったらこうするのにってヒントを得ることもしばしば」
好奇心から、編集者も経験 〝ユーミン責任編集本〟を作る
ずっといちリスナーであり続け、新しい音楽も聴く好奇心旺盛なユーミンは、なんと編集者に憧れて雑誌を作ったこともあるという。しかも広告をとる営業からデザインを考える作業まで行ったそう。 「83年に松任谷由実責任編集で『スタイル』というムック本を作ったんです。その当時は女性が女性に憧れるといったスタンスの本や雑誌はあまりなかったので、あえてそういうのをやりたくて。親友のヤーミーとも、じつは車のタイアップページの対談で初めて知り合ったんです」
日本中の女性たちから厚い支持を得るパイオニア的ミュージシャン。スターで居続けることの困難さすらもモチベーションに変えているパワフルウーマンの生き方に触れ、感化された。もっと声を聞いていたい。もっと言葉を聞いていたい。そう思った。
日が暮れて、別れの時間になった。ならば曲を聴けばいい。彼女の言葉とメッセージは、600曲の作品の中に息づいて、永遠に輝いている。曲の世界に行けば、いつでもまたユーミンに会える。
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■恋と人生の話をしに、ユーミンに会いに行く 前編はこちら
■恋と人生の話をしに、ユーミンに会いに行く 中編はこちら
■恋と人生の話をしに、ユーミンに会いに行く 後編はこちら
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松任谷由実
1954年生まれ。1972年に「返事はいらない」で荒井由実としてデビュー。結婚後は松任谷由実として活動し、これまで世に送り出したアルバムは全38作品。4月11日に、3枚のアルバムからなるベスト盤『ユーミンからの、恋のうた。』をリリースしたばかり。9月からは全国アリーナツアーが予定されている。
Photo: Mai Kise Hair&Make-up: Naoki Toyama Text: Ayana Takeuchi Special thanks: Quale