体の調子がわるいと、表情どんより&仕事や勉強の効率が落ちて、心も落ち込んでいってしまう……そうならないために、日々何ができるの?そんなあなたの駆け込み寺が、京都・左京区で鍼灸院を営む安東由仁さん、通称ゆにさん。京都のよもやま話とともに、東洋医学的見地から、かんたんにできる養生術を教えてもらいます。
自律神経が乱れがちな秋の養生術。1によく寝て、2に温める。鍼灸師ゆにの京風養生vol.2
なんて難しいお天気でしょうか!
先月からこのコラムを始めて、「季節の養生」に役立つ小さな工夫、をお伝えしようと考えているわけなのですが、ここ最近の例年にないお天気の急激な変化、本当に合わせるのが難しいです。
東洋医学の基本となる五行論では、人間も自然の一部であって、その自然の流れに乗って生きている、と考えています。ですから、季節やお天気の移り変わりはいつも、人間の体と心にも影響をおよぼしているわけで、それに合わせて「休む・食べる・動く」の「養生」の基本を調整するのはごく自然なことなのです。
その「季節に合わせる」というのが今、すごく難しい。ここしばらくの予報を見てみると、日本のどの地方も気温については平年に比べて「かなり高い」といわれていて、「秋」というには暑い。でも、朝夕はちょっと肌寒くなってきて、「夏」というには無理がある……。
そうなってくると、前回でご紹介した東洋医学の基本テキスト『素問』の「秋」の項目をそのまま実践すればOK、というわけにはいかないわけです。こういう、「季節の変わり目」と呼ばれるあたりの養生が、実はいちばん難しいのです。
秋の養生①
自律神経が疲れる今の時期
最高の養生は「寝ること」
昼間は、昔の夏ってこんな感じだったな、くらいの暑さ。そして朝晩はそこから下手すると10℃くらいも気温が低い。そこへ持ってきて、今年は残暑の影響か台風も多く発生して、ものすごい湿気を運んできたり、数日のうちに最高気温自体も乱高下させたりしています。
こんなふうに気温、湿度の「変化や差が大きい」ときには、自律神経に大きな負担がかかっています。自律神経、というと心のストレスが原因で「自律神経失調症」になったりする、というイメージがあると思いますが、体温の調節も自律神経の働き。仕事や家事などの活動量はそんなに増えていなくても、この時期は「気候の変化に対応する」というだけで自律神経がとても疲れています。
そんな自律神経の疲れの解決法は、単純なようですがまずは「よく眠ること」。
眠ることは、こういった変化の大きい時期の疲れを取るには何よりも大切な養生です。そして、他のことで代えがききません。はっきりとこれ、とは言えないけどなんだか調子がよくない……そんなもやもやした不調のあるときは、まず、寝る!
しかも「夜寝る」というのが東洋医学的には大事です。血は夜作られる、と考えられているからです。朝ゆっくり寝ている、よりも、夜早く寝る、の方が効果的。
なーんかだるくてもやもやする……というときに限って、ぐずぐずと夜遅くまでベッドでスマートフォンを見ていたりして、えっもうこんな時間?!みたいなことはよくありますが、ここはひとつ東洋医学を信じて、かなり思い切って早寝してみることを強くおすすめします。
でも私は知ってますよ、こうして「早く寝てみて!」とおすすめしても、ほんとにやってみる人は少ないということを……!鍼灸院にくる方も、毎日遅くまで働いていて疲れてるだろうな、というまじめな頑張り屋さんほど、「ヨガとか何か運動やった方がいいですよね……」なんて言われることが多いです。
養生のうち「眠る」「休む」については、「何もやってない」という感じがするのか、すすめてみてもたいていの人はさらっと聞き流してしまうのですが、そこを押して言います、
「騙されたと思ってまず夜寝てください!」。
健康のために何かしたい、とアンテナをしっかり張っている人ほど、スペシャルな何かをまず探しますが、その前にしっかり寝て疲れが取れると、よーし動くぞ!という元気がわいてきますよ。
イベントも増えてくる時期ですが、ぜひ「眠る」「休む」という養生をするための、予定を入れない時間も作ってみてください。
秋の養生②
朝晩の寒いと感じるときは
首まわりや足首を温める
季節が混じり合って変化が大きいこんな時期の養生は、「感じる」ことも必要になります。夏だからこう、秋だからこう、というふうに決まりきった形での養生ができないので、「今は暑いかな?肌寒いかな?」ということを、自分の体で感じ取りましょう。
天気予報で見る数字はあくまでも参考に。残暑で体が「夏仕様」になっていると、さほど気温が低くなくても肌寒く感じたり、発散するようになっている体に冷えが入ってきたりしてしまいます。また、もともと筋肉質な人とそうでない人、冷えがちな人と暑がりな人とでは感じ方も違います。ですから、気温の数字にこだわらず、自分の感覚を大切に、「冷えるな」と思ったら、温める。
具体的には、首のまわりと足首を保温するもの、たとえば首元にさっと巻ける薄いストール、小さなレッグウォーマーや靴下など。身につけたり外したり、ということを実際に、マメにやることが大切です。自分のセンサーをしっかり働かせて、時間帯や場所、空調の具合に合わせて、身につけるものを替えましょう。
まだ昼間は暑いくらいなのに、こんな時期から温めるグッズは大げさかな……と思うくらいでも、実はこの時期は体が寒さに慣れていなくて冷えやすいのです。秋には少し早めに、おおげさに乗っていった方が、冬に冷えにくいですよ。
秋の養生③
体を冷やす生野菜はもうNG
野菜は蒸すかスープにして摂る
食べるものでいえば、野菜は端境期(はざかいき)になってきて選ぶのも難しいですが、体から余分な熱を取ってくれる夏野菜はもうおしまいかな、というところです。少なくとも、生野菜サラダは減らしていきましょう。昼間は暑くてよさそうでも、冷えやすい人は朝晩に冷えてしまいます。
煮込みというにはまだ早いように感じるなら、蒸したりスープにしたりして食べましょう。蒸す、というとまた「めんどくさい……」が発動しそうですが、保存用コンテナーに洗って水気のある野菜を入れてレンジにかける、というだけでも充分です。
私は小さな蒸籠を使っています。横浜に住んでいた頃に雑誌で紹介されていて知った、中華街にある『照宝』というお店のものです。雰囲気にあこがれて衝動買いしましたが、案外手入れも難しくなく、ただ蒸すだけでちょっとテンションが上がるので気に入っています。ざっくり切った野菜と一緒に、お肉やちょっといいソーセージなんかを蒸せばそれだけでおかず一食完成。お好みのドレッシングをかけるのはもちろん、オイルと塩でシンプルに食べるのも美味しいですよ。
横浜の中華街には、実は住んでいる間に数回しか行けなかったのですが、今わたしが住んでいる京都も「町の中華」が独自の感じで発展しています(※1)。たとえば春巻きのまわりが薄い卵焼きで巻かれていたりとか、わりと最近までそれが普通だと思っていたのですが、京都独特のものみたいですね。いわゆる春巻の皮で作ったものよりやわらかく、パリッというよりはサクサクという感じでおいしいんです。
四条大橋のたもとにある『東華菜館』もそんな中華の老舗ですが、私としては建築も見どころ。建築家ヴォーリズ設計のクラシカルな建物に、日本最古のエレベーター。食べるだけでなく、うろうろしたいレストランです。今年はもう終わっちゃったけど、夏は川床(ゆか/※2)もやっているので、定番だけどやっぱりおすすめですよ。
※1京都の中華:舞妓さんがお仕事の前に食べられるようにとにんにく控えめだったり、だしの取り方が独特でやさしい味だったり。そんな独特の発展を遂げた京都の中華の歴史、そして現在について知るには、ライター姜尚美さんの本『京都の中華』がおすすめ。
※2川床:料理店や茶屋が川の上や、屋外で川がよく見える位置に座敷を作り料理を提供する、京都や大阪の夏の風物詩。「川床」の読み方は、ゆか(京都鴨川)、かわゆか(大阪北浜、京都鴨川)、かわどこ(貴船、高雄)と地域によって異なる。5月頃から9月頃まで、鴨川沿いに川床がずらり並ぶ様子は壮観!
by担当編集
🗣️
安東由仁
鍼灸師。京都生まれ。20年間アスレティックトレーナーとして勤めたのち、京都に戻り、左京区・鹿ヶ谷にある町家で「ゆに鍼灸院」(完全予約制)をオープン。治療だけでなく、暮らしの中でできる養生術も伝えるなど、“自分をバージョンアップ”するためのお手伝いをしている。
@humanitekyoto
humanitekyoto.com