体の調子がわるいと、表情どんより&仕事や勉強の効率が落ちて、心も落ち込んでいってしまう……そうならないために、日々何ができるの?そんなあなたの駆け込み寺が、京都・左京区で鍼灸院を営む安東由仁さん、通称ゆにさん。京都のよもやま話とともに、東洋医学的見地から、かんたんにできる養生術を教えてもらいます。
風邪を引きたくない人必読!風門のツボや葛根湯で予防する。鍼灸師ゆにの京風養生vol.3
12月の初めまでは紅葉シーズン。京都は人であふれかえります。京都の主な交通手段はバスなので(地下鉄を掘ろうとするとどこからでもいろんな遺跡が出てきて進まないという噂)、どこもかしこも道が混んで大変です。
そんな時期に街なかや駅へ行く用事があると、あまりの人混みにびっくりします。そしてそういうときに風邪をもらってきてしまいます。どこへ行っても、咳をしたり鼻水を出したりしている人が多くなってくる季節ですね。
風邪、と書いてふつう「かぜ」と読みますが、東洋医学的には「ふうじゃ」と読みます。東洋医学では、風などの自然現象や、暑さ寒さ、湿気や乾燥など、人を取り巻く外的環境も病の原因になると考えます。これを「外邪(がいじゃ)」といいます。
そのうちの一つが、「風が運んでくる邪」、つまり「風邪(ふうじゃ)」です。秋冬には外邪の一つ「寒邪」と一緒になって体に入ってきて、いわゆる風邪症状を引き起こします。
初冬の養生①
風邪の入り口になるツボ
「風門」を温めてガード
この風邪が入ってくるのが、「風門(ふうもん)」というツボの周辺です。字の通り「風邪が入ってくる門」という意味です。左右の肩甲骨の間、首と背中の間くらいの場所にあります。
詳しく言うと、あごをひいてうなずくようにしたとき、首の後ろで一番出っぱってくる骨をまず見つけ、そこから背骨を2つ下に乗り越えた高さで、背骨と肩甲骨の間あたりに取ります。まあ、みなさんは鍼(はり)を打つわけではありませんので、だいたいそのあたり、ととらえてもらえれば大丈夫です。
風邪が体に入ってくるときは、ここを入り口にして入ってくるのです。風邪のひきはじめに、「背中がぞくぞくする」というのがこのあたりですね。
まずは、この入口から風邪が入ってこないように、首周りにストールやマフラーを巻いたり、寒いところに長時間いるようならカイロを貼ったりして、温めて入り口をガードしましょう。
12月は楽しい集まりでお酒を飲むことも多くなりがちですが、お店を出るときが要注意。温かい室内、楽しい気分で体も温まり、お店を出るときに油断してマフラーを巻かないで出ると、温まって開いた体に風邪が入り込みます。たいていはちょっと食べすぎていたりして、消化に忙しくて体の守りも弱くなっているそんなとき、風邪が入りやすいんですね。
初冬の養生②
葛根湯を常備して
背中がぞくぞくしたら飲む
「背中がぞくぞくする」というときは、風邪が体の玄関に立って「こんにちは〜、入ってもいいですか?」とごあいさつしている、というような状態。できたら玄関口でお引き取り願いたいですね。
そんなときに使えるのが「葛根湯」という漢方薬です。どこの薬局でも見かける漢方薬ですが、古典の医学書『傷寒論』にも載っているほど、古くからある処方の薬。体を温め、表面を開いて邪を追い出す、という作用を持っています。
ですから、まだ風邪が体に入ったばかりであれば、玄関を開けて、中から熱で押し出してお帰りいただく、ということができるわけです。そうすると、ひどい風邪をひかないですみます。
この葛根湯、いちばん大事なのは飲むタイミングです。「風邪が体に入ったばかり」というタイミングでないと、効きません。
『傷寒論』によれば、「寒気がして」「汗はまだ出ておらず」「首から肩がこわばる」という状態のときに、葛根湯が合っています。ただし前提として、「体力が弱っていないこと」というのもあります。自分の熱で風邪を追い出すので、体力が落ちているときには合いません。
「あー風邪ひいたかも…」というとき、それが「鼻水がズルズル」「熱が出て汗をかいてきた」「咳がごほんごほん」という状態だったら、東洋医学でいうともう風邪がずいぶん体の奥に入ってしまっていて、葛根湯が使えるタイミングは逃してしまっています。
ですから、風邪をひどくしないためにはまず、自分の体の感覚に注意を向けて、感じ取ることが大切です。
ぞくぞくする寒気、の他に、気持ちの変化で風邪を感じ取れることもあります。東洋医学では、臓腑(内臓に似た概念)が思考したり感情を作り出したりすると考えます。
たとえば肺からは悲しみが、腎からは恐れや不安があらわれます。風邪で弱るのは肺、そして腎は冬の寒さに弱いので、寒い時期に風邪をひきかけたとき、「なんだか物悲しい」「わけもなく不安になる」といった気持ちの変化が起きることがあります。
なんだか、わけもなくそんな気持ちになったときは、寝不足してないかな?おなかがすいていないかな?疲れすぎていないかな?と自分をよく観察し、それから「もしかして風邪をひきかけているかも」とも考えてみてください。
そしてそんなときに、葛根湯!粉薬や瓶に入ったドリンク剤の形で、たいていの薬局で買うことができますが、今、飲むべし!というときにすぐ手にできるように備えておくのがおすすめです。
私などは、冬はどのバッグにも、どのコートのポケットにも葛根湯が入っているほどです。お湯に溶いて飲むと温める効果がより高まりますが、タイミングを逃さないことの方が大切なので、お湯が用意できなければドリンク剤でもかまいません。
入り口まででも風邪に入られてしまったら、葛根湯さえ飲めば大丈夫、ではなくて、そのあとしっかり休みましょう。どんな症状でどんなお薬を飲んでも、それを助けに、治すのは結局自分の体です。いつもどおりの生活をしていては、「風邪を治すためのエネルギー」が足りません。休まないと治せない、これ、けっこう単純なエネルギー計算だと思うのですが、「休めない人へ」という風邪薬のCMの影響か、休まないで治そうとする人も多いみたいです。
風邪をひいたら、休む。まず、忘れないでくださいね。
初冬の養生③
風邪をひいてしまったら
鶏のスープで栄養補給
さて、風邪をひきかけたときも、すっかりひいてしまったときも、食べるのは無理をしないこと。食べるのがつらければ控えて、消化するよりも風邪を治す方にエネルギーを回してあげましょう。
温かいものを食べられそうだったら、おすすめは骨つきの鶏肉をじっくりと煮たスープです。鶏肉には体を温め、元気を増やしてくれる性質があります。優しい味のだしが出ますから、できるときにたくさん作っておいて、食欲のないときはスープだけ飲んだり、溶き卵を落としたり、玉ねぎなどの煮崩れる野菜を入れたり。雑炊にしてもおいしいですね。
煮込むときに生姜を入れておくと、体を温める作用が増します。加熱した生姜は体を芯から温めてくれます。
紅葉シーズンが終わると、クリスマスというよりは暮れが近いな、という気持ちになるのは、近所が哲学の道とお寺という、クリスマスの雰囲気があんまり感じられない場所に住んでいるからでしょうか。
毎年、暮れには寺町の一保堂茶舗へ行くのが習慣になっています。
一保堂茶舗のお茶の中で、ふだん使いは「いり番茶」。見た目は「…落ち葉?」と思うような、お茶とは思えない様子、そしてスモーキーな香り。スモーキーを通り越して煙たい、という人もありますが、実はカフェインも少なく、さっぱりとして食後にもぴったり、どんどん飲めるお茶なんです。
暮れに行くのは、お世話になっている方への暮れのご挨拶と、元旦に飲む香ばしい玄米茶、「大福茶(おおぶくちゃ)」を買うため。どこに住んでいても欠かさなかった習慣です。12月の後半に買いものに行くと、毎年色の違うふきんをいただけるのも楽しみ。忙しい師走、暮れに一保堂へ行くまで駆け抜けたいと思います。
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安東由仁
鍼灸師。京都生まれ。20年間アスレティックトレーナーとして勤めたのち、京都に戻り、左京区・鹿ヶ谷にある町家で「ゆに鍼灸院」(完全予約制)をオープン。治療だけでなく、暮らしの中でできる養生術も伝えるなど、“自分をバージョンアップ”するためのお手伝いをしている。
@humanitekyoto
humanitekyoto.com
Text: Yuni Andoh Illustration: Ippan Nakamura Edit: Milli Kawaguchi