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10 QUESTIONS

to know about

ISSEY TAKAHASHI

16 October 2020

高橋一生を知るための10のこと。
どんな役でも「僕のなかに還元されるので、客観的に見られない」

先日、ヴェネチア国際映画祭で銀獅子賞(監督賞)を受賞した黒沢清監督の映画『スパイの妻<劇場版>』。物語の舞台は、太平洋戦争勃発前夜の神戸。高橋一生さんは、ある危険な国家機密を偶然知り、正義のために行動しようとする男・福原優作を演じました。夫とともにあることを激しく願う妻の聡子役には蒼井優さん。強い意志を持って、当時の常識とは違う道を選んだ夫婦の生き方は、同調圧力が強くなってきているいまの世に問うような側面も持っています。周囲に流されず、自分を見失わない高橋さんに、撮影現場のお話から独自の哲学までたっぷり伺いました。

Q1.『スパイの妻』はとても美しい映画でした。高橋さん、蒼井さんのお二人はもちろん、佇まいや間合い、美術や衣装もすべて。登場人物がみな、信念を持っていたから、余計にそう映ったのかもしれません。初めての黒沢組はいかがでしたか?
集中して作品に身を投じることができる現場で、とても充実した、ご褒美でしかないような時間でした。黒沢監督は「点打ち」の演出が緻密なんです。「ここからスタートして、この場所に行ってほしいんです」と点を打つように場所を指定されます。そうして1シーンの動きが決まっていく。最初は点と点の間が狭かったのですが、だんだんとそのスパンが広がり、自由に動けるようになるのが嬉しかったです。役者の芝居をものすごく見ている方で、任せてくださるところ、押さえたいところが明確にあり、その点の打ち方はある種、神がかっていました。完成度の高い脚本、とても高い志のもと、このスタッフのみなさんが集結して作品が作られたことは奇跡だなと思います。とんでもない映画に参加させていただいたなという気持ちでいました。
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Q2.『ロマンスドール』に続き、蒼井優さんとご夫婦役。前作では、蒼井さんとの会話のシーンのやりとりが「ジャグリングのようだった」とおっしゃっていましたが、今回は?
言ってみれば、チェスみたいでした(笑)。相手が置いた駒を見て、熟考して返す、というようなことをしていた気がします。スピーディーに返すこともあれば、ときには1日置いてから答えることもありました。これも蒼井さんとでなければできなかった感覚だと思います。お互いさっぱりと『ロマンスドール』を引きずっていなかった。全く違う関係で入ることができたのも蒼井さんのおかげです。
Q3.謎めいた福原優作役。孤高なイメージが高橋さんにぴったりでした。客観的に優作みたいな生き方をどう思いますか?
自分でも不思議なんですが、(『ロマンスドール』の)哲雄にしても優作にしても、役柄が僕のなかに還元されてしまうので、客観的に見られないんです(笑)。なので、優作の生き方を何も否定はできません。優作は世界を基準にして考えている人間で、志を持って突き進むなかで、人間的なところと非情なところを持ち合わせるようになったのではないか、と。彼なりに揺れはあったんだと思います。
Q4.スパイと俳優の共通点は?
平気で嘘をつくことじゃないしょうか(笑)?世の中には、ついたほうがいい嘘というのがたくさん存在すると思います。すべてを正直に語ってしまったら、幻滅させてしまうだろうし、人もものごとも遠ざけてしまいます。いまは、俳優を俳優として、作品を作品単体として純粋に見ることができなくなってきていると思います。たとえば、俳優がバラエティ番組に出たときの受け答えが、役柄にあるイメージを付加してしまったり。僕は、作品を純粋に楽しむためには、演者と観客は距離を持っていたほうがいいと思っているんです。
あくまでも制作スタッフの方々と一緒に、充実した物語世界を作ることに集中しています。なので、どう評価されようと正直かまいません。その結果、もし「いい」と言っていただけるのであれば、それはとても嬉しいことです。
Q5.高橋さんの、俳優を続けるモチベーションはどこにあるのですか?
監督や共演者の方に「また一生と一緒にやりたい」とか、「一生にこれをやらせてみたい」と思っていただくことでしょうか。僕にはお芝居でこんなことがしたいというのがないんです。「あいつにあれをやらせてみたら、面白いんじゃないか」と作り手の方に思ってもらえることが僕のすべてかもしれません。
Q6.長く続けていらっしゃると、似たような役のオファーもあるでしょうし、新鮮な気持ちで臨むのは難しくなるのではないかと思いますが、新しい引き出しは意識して作り出すのですか?
『スパイの妻』でも思いましたが、実は肉体の所作によって、(人物像を)変えられるということに最近気づきました。ある役が人気が出れば、同じような役をやらせようということもあり得ます。その気持ちはすごくありがたい。ただ、自分のなかでノッキングを起こしそうにもなります。そういうときに助けてくれるのは、精神よりも肉体なんです。所作によって印象が全く変わりますし、肉体の使い方によって心もついてきます。
また、美術スタッフさんの作り込むセット、カメラマンさんの切り取り方、衣装さんや照明さんなど、たくさんの方々の力で、たとえ似た役柄だったとしても全く違う人物になれます。『スパイの妻』は美術の作り込みが素晴らしくて、当時の車も実際に運転させてもらいました。右ハンドルでギアも右にあるマニュアル車(笑)。練習する日を1日設けていただいて、撮影に臨みました。そういう、自分にかけられるエフェクトのようなものが積み重なって役ができあがるので、自分自身で作りあげる部分なんてほんの一部なんです。
Q7.ちょっと大きな質問になりますが、生きていく上で支えになるものは何だと思いますか?
自分しかないんじゃないでしょうか?他者に依存していられませんし。ただ自分自身はいろいろなものからできているので、そういう意味では、すごく近しい周囲の人々を含めての自分なのかもしれません。
Q8.新型コロナウイルスによって社会も変わり、どんなふうにしたら心穏やかに過ごせるのだろうと考えます。生き抜く力を持っておられる高橋さん。どう向き合えばいいと思いますか?
いまは情報が溢れかえって、選択肢も何百倍も膨れあがっているので、選ぶこと自体も億劫になってしまいます。けれど、「わからない」と思考停止になることはかなり危険なので、できるかぎり自分で調べていったほうがいいと感じています。あとは、自分の選択を迷わないために、他者の目を気にしないことも大事だと思っています。僕も(情報を)シャットアウトできるようになりました。いま何が発表になって、どういう記事が書かれているかも全く知りません。「今日はマネージャーさんの顔がちょっと暗いけど、嫌なニュースでも出たのかな?」と思うくらい(笑)。なので、迷わず芝居に没頭できます。そういう環境を作ってもらえていることはすごくありがたいです。他人は責任をとってくれないので、振り回されるわけにはいかないんです。
Q9.いま高橋さんの心を安らげてくれるものは何ですか?
レコード。たまらないですね。久々にプレイヤーを買って、荒井由実さんのアルバム『ひこうき雲』をずっと聴いています。レコードで聴くことの何がすごいって、止められないこと(笑) 。「こんな素晴らしい曲、あったっけ?」と、それまでは聴き飛ばしていた曲の存在に改めて気づいたりしています。いま、片っ端から好きなアルバムのレコード盤を買い漁っているんです。
Q10.最後にファッションについてこだわりを教えてください。4年前に伺ったときには「気に入った同じTシャツとデニム。夏は雪駄を繰り返し身につけている」とおっしゃっていました(笑)。
当時と何も変わらないです(笑)。好きなTシャツ、デニム、コットンのパンツ、同じ服を100着持っていたいです。約40年かかって、自分にぴったりしたものに出会いました。いまは「これを着ていればカッコイイ」、「これを着たらダサい」というものが多すぎる気がします。それって、人によると思うんです。何を着てもカッコいい人はカッコいい。要はお芝居と同じで、その人に説得力があるかどうか。中学生のころ、事務所の社長に「(俳優は)服なんかいらないのよ。毎日、現場でいろんな服を着させてもらうのだから」と言われて、当時は反発しましたが、いまはよくわかります。同じ服を着ているほうが、ニュートラルに自分を置くことができて、(役によって)いろんなところに行ける気がします。
結局、洋服を買うという行為は、突き詰めると人からどう見られたいかということ。昔は自分の着たい服を着ている人がたくさんいました。パンクスなんかも、自分を主張するための服を着ていたし、もっとファッションを自由に楽しんでいた気がします。他人の目を気にせず、みんな自分の気持ちのいい服を見つけて、好きに着るのがいいんじゃないかなと思います。

INFORMATION

『スパイの妻』

『スパイの妻<劇場版>』
監督:黒沢清
脚本:濱口竜介、野原位、黒沢清
音楽:長岡亮介
出演:蒼井優、高橋一生、東出昌大、笹野高史
配給:ビターズ・エンド
10月16日(金)、全国ロードショー
©️2020 NHK,NEP,Incline,C&I
wos.bitters.co.jp

PROFILE

高橋一生
Issey Takahashi

1980年生まれ。東京都出身。ドラマ・映画・舞台など幅広く活躍。最近の主な出演作に、ドラマ『凪のお暇』(19 TBS)、『竜の道 二つの顔の復讐者』(20 KTV)、映画『嘘を愛する女』(18)、『blank13』(18)、『空飛ぶタイヤ』(18)、『億男』(18)、『九月の恋と出会うまで』(19)、『引っ越し大名!』(19)、『ロマンスドール』(20)など。舞台『天保十二年のシェイクスピア』(20)では第45回菊田一夫演劇賞を受賞。主演ドラマ『岸辺露伴は動かない』(NHK)が12月28日(月)から3夜連続放送。

CREDIT

Photo: Ahlum Kim 
Stylist: Shogo Hesaka(koto-clothing) 
Hair&Makeup: Mai Tanaka(MARVEE) 
Text: Tomoko Kurose 
Edit: Milli Kawaguchi

CLOTHING

スーツ¥400,000
(ISAIA Napoli/ISAIA Napoli 東京ミッドタウン 03-6447-0624)
タイ¥21,000
(Drake’s/Drake’s 銀座店 03-6263-9955)
チーフ¥10,600
(Rampley & Co/Rampley & Co info@rampleyandco.com)
シューズ¥76,000
(Crockett & Jones/グリフィンインターナショナル 03-5754-3561)

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