MARGARET HOWELL
50th anniversary
27 May 2021
英国人デザイナー、マーガレット・ハウエルへ50の質問。
ブランド設立50年の軌跡を追う
エターナルなデザインで長年多くのファンを魅了し続けるイギリスブランド〈マーガレット・ハウエル〉が50周年を迎え、特別展がスタート。メディアへの露出が少ないマーガレットさんご本人がginzamagのために50の質問に答えてくれました。


from MH50 FILM
- ——Q1. 生まれ育ったタッドワースはどんなところですか?
- タッドワースはサリー州にある村落です。クリケット用の芝生を横切り松林を抜けて小学校に通っていました。学校は開けた天然のヒース荒野の中にありました。
- ——Q2. デザインに目覚めたのはいつ頃からですか?
- アートスクールを卒業後、自立して生活する必要がありました。クリエイティブな仕事がしたいと思ったのです。子どもの頃から想像力を働かせて何かを作ったり描いたりしていましたが、今思えばそれがすでにある種のデザインワークでした。
- ——Q3. 初めて自分で買った服を覚えていますか?
- はい。〈キャシャレル〉のダークグリーンのシャツ、赤いシェットランドウールのセーター、そして高価だった革のスリッポンです。1960年代で7ポンドでした(*)。どれもクオリティの高いもので、買うために節約しなければいけませんでした。
*1960年代の物価は現在の4〜5分の1。当時の為替は固定相場制で1ポンド=1008円。
- ——Q4. デザインでまずなにを考えますか?
- 私のアプローチはパーソナルなものです。いつも私が着たいものは何かを考えています。
- ——Q5. モノ作りで影響を受けた人・物などはありますか?
- パンツルックのイヴ・サン=ローランやミニマルなデザインのジーン・ミューアを敬愛していました。それと母ですね。私の母は私たち三姉妹の服を手作りしていました。そして私たちがそれぞれ自分で縫える年齢になると、ミシンをプレゼントしてくれました。
- ——Q6. 素材感にも強いこだわりがあると思いますが、好きな素材は?
- アイリッシュ・リネン、ハリス・ツイード、コットンコーデュロイ、コットンギャバジン、それと上質なシャツ生地などです。50年前に私自身が選んだ素材を今でもレギュラーで使っています。上質な手触りと目的に適ったファブリック選びが大事です。
- ——Q7. シンプル、スタンダード、エターナルといった言葉が、読者が感じる〈マーガレット・ハウエル〉というブランドの印象ですが、それについてどう思われますか?
- 一貫したクオリティ、ナチュラル、クラシック、コンフォータブル(気持ちいい)、ミニマル、そして長く大事にするためのものづくり、を付け加えてもいいかもしれません。
- ——Q8. 女性デザイナーであるマーガレットさんが最初のプロダクトとして、メンズシャツを手掛けたのはなぜですか?
- ジャンブルセール(蚤の市)でメンズのベストとチノパンツ、そして素晴らしい作りのシャツと出合ったんです。それがコーディネイトとして素敵だと思いました。中でもシャツが印象的で、これをきっかけに上質な生地を探して同じくらい美しいシャツをデザインしようと思ったのです。
- ——Q9. メンズデザインとウィメンズデザインでは、考え方は違うのでしょうか?
- 素材、色、カッティングは違いますが、コンセプトそのものに違いはありません。
- ——Q10. デザインする上で譲れないもの・こと、またはルールはありますか?
- 素材が服の目的にぴったりと適っていること。例えばレインコートは撥水素材でなければならないし、オーバーコートは暖かい素材でなければなりません。
- ——Q11. ファンの間では、昔の「ウォーカーズマーク」タグ時代のものを今でも大切に着ている人が多いのですが、このマークの意味を改めて教えてください。
- 「アクティブなアウトドアライフ、そして目的に適った服を着よう」という提案をイメージに込めました。生活へのポジティブなアプローチです。
- ——Q12. 〈アングルポイズ〉や〈アーコール〉など、服以外のプロダクトを展開しようと思ったのはなぜしょうか?
- ロンドンのウィグモア・ストリート店をオープンすることになった時に、ライフスタイルを背景にした服の店にするという機会に恵まれたからです。
- ——Q13. マーガレットさんご自身のファッションスタイルのこだわりは?
- 実用的で飾らない着心地のよいものを選ぶこと。
- ——Q14. ご自身のお気に入りの服はなんですか?
- デニム、Tシャツ、スニーカーといったアイテムは、よく着ています。
- ——Q15. 「いいモノを長く使う」そんなイメージがありますが、ワードローブはどれぐらいお持ちですか?
- 私のワードローブはごく最小限です。できる限り少なく、本当に必要なものだけを持つようにしています。
- ——Q16. 家で過ごす時の服と、仕事の服は使い分けていますか?
- いいえ。特に意識はしていません。
- ——Q17. マーガレットさんにとっての「実用性」とは?
- するべき仕事をきちんと、そして頼もしくこなすことです。
- ——Q18. 自分をどういうデザイナーだと思いますか?
- 私はファッションデザイナーではなく、“クロージングデザイナー”です。
- ——Q19. マーガレットさんの暮らしを参考にする人も多いのですが、ご自身が思う豊かな暮らしとはなんだと思いますか?
- 健康でいること、子どもたちとの時間、アートと音楽、自然に触れること、そして友だち。
- ——Q20. インテリアで大切にしていることはなんですか?
- あくまでプライベートな空間であること。 並んだ低木と、そこへやって来る狐やリス、鳥たち、といった庭の眺め。
from MH50 FILM
- ——Q21. 雑貨や家具などもそうですが、“いい物選び”のコツを教えてください。
- ほんの少し高くてもきちんとデザインされたものを買ってください。より大きな満足感が得られるはずです。
- ——Q22. 住んでいる家のどんなところが気に入っていますか?
- 音楽をかけるとどの部屋にいても聴くことができる、オープンプランのフレキシブルさが気に入っています。
- ——Q23. 1日のルーティンはありますか?
- 可能なら朝食後に屋外で体を動かします。そのあとは大概仕事をして、夕食にグラス一杯のワインでリラックスします。
- ——Q24. 最も尊敬する人物を教えてください。
- 最近で言うなら環境活動家のグレタ・トゥーンベリがその一人です。
- ——Q25. 好きな映画は?
- 『カッコーの巣の上で』を何度となく観ました。ジャック・ニコルソンの演技が好きです。
- ——Q26. お気に入りの本・写真集を教えてください。
- 10代の頃に好きだったのはコレットの『シェリー』と『シェリーの最後』です。写真では、フェイ・ゴドウィンの風景写真、そしてロジャー・メインの人々の日常を撮ったドキュメンタリー写真が好きです。
- ——Q27. 好きな音楽は?
- ベートーヴェン、ボブ・ディラン、アルヴォ・ペルトです。
- ——Q28. 好きな食べ物はなんですか?
- 食欲旺盛なので選ぶことが難しいですね…でも和食は特別で大好きです。あ、ちょうど日本のお米を切らしてしまいました!
- ——Q29. 好きなファッションブランドはありますか?
- これが好きというブランドはありません。今までにいいと思ったブランドはありましたが、お気に入りというわけではありません。
- ——Q30. なにか収集しているものはありますか?
- 特にありません。

1970年代初め頃に撮影した、マーガレットさんと初めての従業員ドリスさんと。当時住んでいた自宅のベッドルーム兼、作業場のボタンホールミシンの前にて。
- ——Q31. お気に入りの紅茶は?
- ダージリンと日本の緑茶です。
- ——Q32. 最近の趣味はなんですか?
- 時間があるときはガーデニングを楽しんでいます。
- ——Q33. 今欲しいものはありますか?
- 高視程反射のサイクリングジャケットです。
- ——Q34. マーガレットさんが考えるサスティナブルとは?
- 第二次世界大戦直後に生まれた世代として、無駄や浪費はいけないと教えられました。この根本的な価値観が私に残っています。
- ——Q35. 度々来日をされていますが、日本と聞いて思い浮かぶものは?
- 規律正しさ、清潔さ、効率のよさ。東京の静かで狭い裏通りの散策。こじんまりとした落ち着けるレストランと使い込まれた昔ながらの料理道具。
- ——Q36. 日本のお気に入りの場所はありますか?
- 日本の田舎が好きです。
- ——Q37. 日本での思い出のエピソードを聞かせてください。
- 前回来日した時に、田舎にある古い日本家屋に住む友人を訪ねて、水田に稲を植えるのを手伝いました。
- ——Q38. 伝統工芸にも深く関心があるようですが、日本の“職人”に惹かれるようになったきっかけはありますか?
- これは日本に限らずですが、受け継がれてきた方法と材料に惹かれるから工芸に関心があるのです。
- ——Q39. 1983年に日本で最初の路面店を青山にオープンしましたが、その発展について予想できましたか?
- ほんの小さなステップに過ぎなかったのに、その後大きな成長を遂げました。
- ——Q40. 日本のファッションについてどう思いますか?
- 高田賢三、山本耀司、そして川久保玲。この3人は特に素晴らしいと思います。
- ——Q41. 今、世界的に渡航は困難ですが、次に来日したら、まず何をしたいですか?
- 日本のチームと再び仕事ができる日を楽しみにしています。
- ——Q42. 50年という節目のシーズンを終えて率直なお気持ちをお聞かせください。
- とても誇らしく思います。マネージングディレクターを始め、英国、ヨーロッパ、そして日本の献身的な全てのスタッフに感謝しています。
- ——Q43. 今まで仕事を続けられた原動力はなんだと思いますか?
- いつも自分が好きだと思うことをして、楽しむことでしょうか。
- ——Q44. 完璧主義な印象があるマーガレットさんですが、50年間デザインを続けてきた中で、なにか失敗談はありますか?
- 私のキャリアにとって重要な時期に誤った助言を鵜呑みにしてしまったことがあります。現在の成功は、この失敗から立ち直るために信頼のおける人たちの助けがあったおかげです。
- ——Q45. キャリアのなかで一番思い出に残っていることを教えてください。
- 実業家のジョセフ・エテギが初めての〈マーガレット・ハウエル〉のメンズ店をサウス・モルトン・ストリートに開こうと言ってくれたこと。この店で女性客もメンズの服が欲しいと思ってくれました。 そして、現アウターリミッツ社長の勝勇(すぐれ いさむ)さんが日本でのライセンスビジネスを持ちかけてくれたことです。
- ——Q46. 50年のデザイナー人生を振り返って、やり残したこと、そしてこれからやりたいことはありますか?
- 後悔という考え方はしません。今していることが好きで、それが続いて欲しいと思うだけです。
- ——Q47. 「WITH コロナ」というニューノーマルな時代において、服のあり方をどうお考えになりますか?
- 今まで通りです。
- ——Q48. コレクションの発表の仕方も変わりつつある今、新しい表現方法についてどう思いますか?
- キャットウォークショーが出来ない状況で、プレス向けの違ったアプローチを試してみるチャンスだと思います。
- ——Q49. そんな時代に向けてどんな服を作っていきたいですか?
- あくまで私が現在これだと思う服を作るだけです。私のパーソナルな価値観や審美眼は変わっていないはずですから。
- ——Q50. マーガレット・ハウエルの未来について、次の50年後どうあっていてほしいですか?
- 私たちのクオリティやデザインに対するこだわりが受け継がれ、変わらずに愛されていることを願っています。
〈マーガレット・ハウエル〉設立50周年を記念したスペシャルムービー公開中。
INFORMATION

50 YEARS OF DESIGN
『マーガレット・ハウエル 50周年エキシビション』 2020年にブランド設立50周年を迎え、それを記念したエキシビションがついに実現。アーカイブルームから50年間を象徴する貴重な品々を展示。マーガレットの日本への思いを感じることのできる特別な空間となっている。 【東京会場】 *5月15日(土)〜30日(日) 開催の東京会場の期間中は日時予約のチケットを入手いただいたお客様の優先入場となります。当日、ご予約なしでのご入場も可能ですが、ご予約優先となるためご予約のないお客様は入場までお時間を頂く可能性やご入場いただけない場合もございます。 【京都会場】 *今後の情勢次第では、急遽中止・延期、内容の変更になる場合もございますのでご了承ください。
日程: 2021年5月15日(土)〜5月30日(日)
場所: 代官山T-SITE GARDEN GALLERY
住所: 東京都渋谷区猿楽町16-15
時間: 11:00~19:00(*30日のみ18時閉場)
料金: 入場無料
チケット予約
日程: 2021年6月4日(金曜)〜6月13日(日)
場所: ロームシアター京都 パークプラザ 3階
住所: 京都市左京区岡崎最勝寺町13
時間: 10:00~19:00(*7日は休館日)
料金: 入場無料
PROFILE

Margaret Howell
1946年イギリスのダッドワース出身。ロンドン大学のゴールドスミス・カレッジでファインアートを学び、1970年にメンズシャツのデザインからキャリアをスタート。1983年には日本初の路面店を青山にオープン。1999年に旗艦店として現在の神南店をオープン。昨年ブランド設立50周年を迎えた。
CREDIT
interview & edit: Yu-ka Matsumoto photo: Tetsuya Ito(exhibition hall)