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松本穂香と渋川清彦がコミュニケーションを考えた6冊。
気持ちの伝え方に、決まりなんてない

新作映画『酔うと化け物になる父がつらい』は、アルコールに溺れる父を持った作者・菊池真理子さんの実体験に基づく同名コミックエッセイが原作の、家族の物語です。主人公のサキと父・トシフミは、心の底ではお互いを気にかけていながら、アルコールが原因で、どうしようもなくすれ違ってしまいます。そんなふたりの姿には「こういうことって、あるよね…」と共感せずにはいられません。そこで今回、父子を演じた松本穂香さんと渋川清彦さんに、読んでコミュニケーションについて考えたりヒントをもらったりした、お気に入りの本を紹介してもらいました。

——今作について、片桐健滋監督がインタビューで「“アルコールが原因のディスコミュニケーション”の方向に物語を持っていった」とおっしゃっていたのが印象に残っています。松本さん演じる主人公・サキは当初、渋川さん演じる飲んだくれの父・トシフミに怒ったり注意したり、本気でぶつかっていきますが、トシフミからはあまりコミュニケーションをとろうとしないですよね。
松本穂香(以下、松本) サキの立場で言えば、お父さんが何を考えているのか、よくわからなかったです…。
渋川清彦(以下、渋川) トシフミは多分、相手のことを先回りして考えすぎてしまうから、黙っていることが多かったんじゃないかな。「サキにこう伝えて、こう思われたら困る、こう言い返されたら困る」と先のことを恐れて、衝突を避けているというか。
松本 なるほど…。サキはお父さんからリアクションが何もないから、真剣な気持ちの行き場がなくなって、いっそ無関心でいようと途中から諦めてしまったんだと思います。でも、そうやって距離をとろうとしても、付き合った恋人がお父さんに似ていたりして。知らぬ間に影響を受けてしまうのが家族なんだなとも思いました。
——今松本さんがおっしゃったように、サキは、トシフミがあまりにアルコールに溺れるあまり、だんだん「何を言ってもむだなんだ」と、自分の気持ちにふたをするようになっていく。“父がお酒を飲んだ日はカレンダーに×印を書く”という習慣も投げ出してしまいます。
松本 つい言いたいことを我慢してしまうことは、日常の中で結構あると思うんです。私もどちらかというと自分に自信がなく、人の顔色をうかがうタイプ。目の前の相手が心地よくいられるようにと、よくもわるくも自分を抑えることがあります。ただ多くの人はそれを、ある程度意識的にしていると思うんですが、サキは無意識にしてしまうようになったんだろうなって。
渋川 トシフミは酔うと“化け物”になってしまうわけですが、別に彼が特別なのではなくて、基本的にはシャイでピュアなんだと思います。だからコミュニケーションの手段として、ついお酒に頼ってしまったんだろうなぁと。その気持ちも少しはわかります、自分で言うのもなんだけど、僕も照れ屋な方だから(笑)。周りの俳優仲間でも、シャイな人ほどアルコールの力に頼るし、酔っ払うと強気になって雰囲気がガラッと変わる。そういう人って意外と多いと思いますね。
松本穂香と渋川清彦がコミュニケーションを考えた6冊。<br /> 気持ちの伝え方に、決まりなんてない
——役とご自身が通じる部分を探しながら演じていたんですね。おふたりご自身も、コミュニケーションで悩んだ経験はありますか?
渋川 僕は、嫁さんと(笑)。気持ちを言葉にするのがあまり得意じゃないので、態度でわかってくれるだろうと思って黙っていると、「言葉にしてくれないとわからない!」と怒られます。一方で、自分が思ったままを言葉にしちゃって、それで誤解されたり、正論で返されたりして落ち込むこともときどきあるし。伝え方って難しいですよね。
松本 はい、難しいです…。私は高校生のときに、すごく大切な友だちからメールで、あることを真剣に相談されたので、自分なりに一生懸命考えたアドバイスを伝えたんです。でも相手にとってはそれが余計なお世話だったのか、何も返事がなくて。
渋川 その後どうなったか、報告もなかったの?
松本 そうです。悩んで、考えて伝えたつもりだったけど、全然音沙汰がなかったから、むなしくなっちゃって。伝え方がまずかったのかな、でもどうやって伝えたらよかったんだろうって、今でもときどき思い出します。ただ私は、大切に思っている人ほどちゃんと本音を言いたいし、だめなことはだめってこれからも伝えると思う。
渋川 性格は変えられないもんね。人とすれ違わないためには、我慢もときに大切だとはわかっているんだけど、難しい…。
松本 自分が変わらなきゃって思うんですけど、実際にはなかなか歩み寄れなかったりして。悩みは尽きないです(笑)。
——今作の父子の姿を見ていると、“本音を伝える”という一見単純なコミュニケーションがときに、いかに難しくなるかを思い知らされます。そこで今回は、おふたりが読んでコミュニケーションについて考えたりヒントをもらったりした、お気に入りの本を教えていただきたいです。まずは、松本さんから。
松本 1冊目の『おいしい家族』は、映画監督のふくだももこさんが書いた小説で、私が以前出演した同名映画の原作です。主人公が母の三回忌に故郷の島へ帰ると、母が遺したワンピースを着た父から、パートナーの男性を紹介される…、そんななかなかユニークな物語ですが、そこには全部を受け入れる温かさがあるんです。
——全部を受け入れる温かさ、ですか。
松本 人と違う部分を気に病む必要はないし、みんな笑顔でたのしくいれたらいいよね、というふくださんの考えるユートピアが全力で表現されていて。登場人物たちは、好きな相手には「好き」って伝えるし、女性の格好をしたくてしている父を「かわいいね」って肯定します。私たちは普段つい人の目を気にして、「“普通”でいなきゃ」と難しく考えすぎてしまうけど、本当はこれくらいシンプルに思いを伝えていいんだと教えてくれた、大切な本です。
——続いて『夫のちんぽが入らない』は、作者のこだまさんの実体験をもとにした私小説ですね。2017年に発売されるや話題をさらい、ドラマ化や漫画化もされました。
渋川 このタイトル、見たことあります。夫婦の話なの?
松本 そうです。主人公の女性はタイトルどおり、どうしても“入らない”と悩み葛藤します。でもその悩みがあるから、かえって相手をもっと愛することができたり、愛を伝え合うことができたりしていて。“普通”のコミュニケーションができなくても、それを別のかたちで乗り越えればいいんだ、と勇気が湧くんです。
——3冊目の『俳優のノート』は、俳優の山崎努さんがシェイクスピアの戯曲『リア王』で主演するにあたっての日々を綴った、日記本の名作です。
松本 この本を読むと、山崎さんのように大ベテランの方でも、チームのコミュニケーションの中で作品を作り上げる難しさに向き合っていらして。私に近い悩みを抱えていらっしゃることに驚きました。
——俳優さんは、必ず他のスタッフ・キャストとチーム体制で動くから、コミュニケーションとは切っても切れない仕事ですね。
松本 ええ。ただ私自身は現場で、無理にコミュニケーションをとろうとしていないかもしれません。それより安心して撮影に挑める環境を作ることにフォーカスしたいというか。ご自身と役をパッと切り替えられる方もいると思いますが、私はそんなに器用じゃないので、役の性格によって現場での過ごし方が自然と変わるかも。たとえば今作の現場で、コミュニケーションはあまりとっていなかった…ですよね?
渋川 そうだね。でも僕はわりとどの現場でも話さないですね。理由は特にないけど、改めて考えてみると、そうすることで周囲に身を委ねて染まるようにしてるのかもしれないです。…というか実は、僕も買って持ってるんです、『俳優のノート』。
松本 そうなんですね!私は尊敬している方にいただいて、たくさんのページに折り目を付けながら読んでいます。
松本穂香と渋川清彦がコミュニケーションを考えた6冊。<br /> 気持ちの伝え方に、決まりなんてない
——続いて渋川さんの1冊目は、映画監督・豊田利晃さんの自伝エッセイ『半分、生きた』です。渋川さんはこれまで多くの豊田監督作品に出演されていて、親交があるそうですね。
渋川 僕は普段あまり本を読まないので、知り合いが出版したタイミングが、本との貴重な出会いになるんです。『半分、生きた』は、豊田さんのフィルモグラフィーの時間軸に沿って、撮影当時の思いや出来事が綴られたエッセイで。豊田さんのことは20年以上前から知っていますけど、いろんな経験をしてきた方ならではの重みがこの本にはある。言葉が本当にいいんですよ。
——特にどんな言葉が印象に残っていますか?
渋川 (パッと、あるページを開いて)ここなんですけど、「誰かと出逢い、運が転がり出す。その誰かと出逢うのも、その人の才能のようなもので、気がつかないと出逢わずに通り過ぎてしまう。その臭覚を何と呼ぶのかおれは知らない。まだ、名前がついていないその力をものにするのに必要なのは謙虚さと好奇心と度胸だ」。
——「必要なのは謙虚さと好奇心と度胸」、まっすぐ心を打つ文章ですね。表紙の絵も印象的です。
渋川 これは奈良美智さんの絵だそうです。ページ中では、千原ジュニアや(松田)龍平、それに豊田さんの息子も絵を描いていて。おもしろいですよね。
——絵といえば、2冊目の『水野暁―リアリティの在りか』(現在SOLD OUT)は、画家・水野暁さんの展示図録ですね。
渋川 この展覧会は、僕の地元から近い高崎市美術館で開かれたんです。水野さんとはその会期中に知り合い、僕がラジオ高崎で持っているラジオ番組にゲストとして出てもらって。で、そのときにわかったんですが、実は高校の同級生だったんですよね。
——同級生なんですね。収録されている風景画は、まるで本当にその風景を見ているくらい迫力がありますね…!
渋川 現場で描くことを徹底している方で、たとえばこの浅間山の風景も、実際に山の近くで暮らしながら描いたそうです。だから、自分もその景色の中に立っているようなリアリティが出るんでしょうね。
——続いての『モナド』も画集です。音楽家でもあるGOMAさんが描いた緻密な点描画に、詩人・谷川俊太郎さんの詩が添えられています。
渋川 GOMAくんも長い友だちで。彼はもともと日本を代表するアボリジニの伝統楽器・ディジュリドゥの奏者として活躍していたんですが、30代で交通事故に遭い、その後遺症で記憶障害を負ってしまったんです。その後から急に、点描画を描くようになって。
松本 そこから絵を描くようになったなんて…。
渋川 なんかすごくエネルギーのある絵なんだよね。今回紹介した3冊は、全て知り合いの本ですが、こうして文章や絵に触れると、直接会うときとはまた違うかたちで本人の人柄や気持ちが伝わってくるから、おもしろいですよね。
——そう考えると、絵や文章も大事なコミュニケーションのひとつですね。今作でキーポイントとなる、サキとトシフミの、カレンダーへの書き込みを通じてのやりとりにもつながる気がします。今日はありがとうございました!

INFORMATION

『酔うと化け物になる父がつらい』

原作:菊池真理子『酔うと化け物になる父がつらい』(秋田書店刊)
監督:片桐健滋
脚本:久馬 歩 片桐健滋
出演:松本穂香 渋川清彦 今泉佑唯 恒松祐里 濱 正悟 浜野謙太 ともさかりえ
配給:ファントム・フィルム

3月6日(金)新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
©菊池真理子/秋田書店
©2019 映画「酔うと化け物になる父がつらい」製作委員会
youbake.official-movie.com

松本穂香
Honoka Matsumoto

1997年生まれ、大阪府出身。主演短編映画「MY NAME」(15)で俳優デビュー。連続テレビ小説「ひよっこ」(NHK/17)、「この世界の片隅に」(TBS/18)主演、「病室で念仏を唱えないでください」(TBS/20)、「竜の道」(関西テレビ/20)、CM「意識高すぎ!高杉くん」シリーズ、JR SKISKI 2018-19メインキャストを務める。主な出演作に『恋は雨上がりのように』(18/永井聡監督)、『世界でいちばん長い写真』(18/草野翔吾監督)、『チワワちゃん』(19/二宮健監督)、『君は月夜に光り輝く』(19/月川翔監督)などがある。声優としては『きみと、波にのれたら』(19/湯浅政明監督)に参加。『おいしい家族』(19/ふくだももこ監督)、『わたしは光をにぎっている』(19/中川龍太郎監督)と主演作品が続き、今後も『みをつくし料理帖』(20/角川春樹監督)が控えている。

渋川清彦
Kiyohiko Shibukawa

1974年生まれ、群馬県渋川市出身。モデルでの活動を経て、『ポルノスター』(98/豊田利晃監督)で映画デビュー。2013年に『そして泥船はゆく』(渡辺紘文監督)で映画単独初主演。16年には、『お盆の弟』(大崎章監督)で第37回ヨコハマ映画祭にて主演男優賞を受賞した。数多くの映画やテレビドラマ、その他CMなどにも出演している。近年の出演作は『モーターズ』(15/渡辺大和監督)、『アレノ』(15/越川道夫監督)、『蜜のあわれ』(16/石井岳龍監督)、『下衆の愛』(16/内田英治監督)、『榎田貿易堂』(18/飯塚健監督)、『柴公園』(19/綾部真弥監督)、『閉鎖病棟 -それぞれの朝-』(19/平山秀幸監督)などがある。片桐監督とはパンクロッカーの幽霊役で出演した『ルームロンダリング』(18)に続き、2度目のタッグとなった。

Photo: Yuki Aizawa
Stylist: Arisa(Honoka Matsumoto)
Hair&Makeup: Akemi Kurata(Honoka Matsumoto)
Text: Tomoe Adachi Edit: Milli Kawaguchi

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