昨年12月、夕暮れのマンチェスターを舞台に繰り広げられた〈シャネル〉の2023/24年メティエダール コレクション。そのショーナイトに、妹の安藤サクラとともに現地を訪れた安藤桃子監督が、GINZAのためにショートフィルムを制作。安藤サクラを主人公に、滞在期間中に撮影したオリジナル作品『22』が完成した。桃子監督へのインタビュー取材とともに、2人のクリエイティブな映像世界にふれてみてほしい。


〈シャネル〉安藤桃子と安藤サクラ 姉妹の感性が響く映像クリエイション
マンチェスターの旅から生まれた短編作品『22』を公開!
ロンドンからマンチェスターへ。姉妹で〈シャネル〉のメティエダール コレクションへと赴いた安藤桃子監督。この旅路を通して生まれたのが、今回の作品『22』だ。イギリスという監督にとっても思い出の深い地での開催、そしてガブリエル・シャネル同様に、女性の心と身体を自由にするファッションを生み出したアーティスティック ディレクターのヴィルジニー・ヴィアールへの深い共感。さらには、〈シャネル〉という家族の思い出にもつながる縁あるブランドのショー。桃子監督が「記憶が逆再生された」と語る今回のジャーニーを、ひとつの作品として形にしたいという想いからショートフィルムがつくられた。タイトルの『22』は2人が滞在したホテルの名前から。そこに秘められたメッセージや制作の舞台裏など話を聞いた。
──世界の都市を巡回する〈シャネル〉のメティエダール コレクションですが、今回はイギリス北西部の街、マンチェスターでの開催でした。実際に足を運び、ショーを見た感想から教えてください。
ファッションや流行の本質には、いまを生きる人々の感覚がどこに向かっているのか、その進行方向を敏感に読み取ってスタイルとして表現する側面があると思うんです。アートもそうですが、心に響くクリエイションが、ワクワクするポジティブな方へと時代を引っ張っていってくれる。まるでひとつの船のような存在です。
そんななかで、今回のショーは『変化と普遍』ということを改めて感じさせてくれました。特に、ヴィルジニー・ヴィアールの世代が親しんだ音楽やポップカルチャーがふんだんに詰め込まれていて。私もいちばん多感な時期をイギリスで過ごし、その当時身の周りで起きること全て、音楽もアートも、ファッションも、全身で吸収しようとした。そうやって自分がふれたものが、これ以上完璧には合わせられないほどぴったりと、今回のコレクションのなかでピースがバチバチっとつながりました。
──個人的にも特別な思いが湧いたマンチェスターだったんですね。作品でもサクラさんが母である安藤和津さんのヴィンテージの〈シャネル〉を着用されていますよね。
そうなんです、おそらく母から代々譲り受けていくであろう〈シャネル〉のジャケットをサクラが着て、姉の私が撮るという、たくさんの“縁”の糸が縦にも横にも、立体的につながって。私がイギリスにいたのは、ちょうどオアシスやブラーとか、あと1980年代の曲がリバイバルで盛り上がって、みんなが寒いなかクラブに入るのに平気で3時間くらい行列していた時代。映画『トレインスポッティング』(96)の世界観がリアリティで。パンクロックがもう一度ループしたり、新しいロックバンドもどんどん出てきて、なんでもありでロンドンがすごく元気だった時です。サクラにも私が影響を受けたものを『妹よ、これを聴け』とCDを送ったり、『セットリストを渡すからこれを買え』と押し付けたりして(笑)。ヴィルジニーがショーで使った楽曲にも共感したし、舞台がマンチェスターというのも、英国クラシックを感じるスタイルも、そして母のヴィンテージの存在も。記憶が逆再生され、魂に火が灯るようなパワフルなコレクションでした。
Video&Photo_Momoko Ando Text_Aiko Ishii