10月11日に公開の映画『ブルーアワーにぶっ飛ばす』は、30歳の砂田(夏帆)がさまざまな葛藤を抱えつつ、秘密の友だち・清浦(シム・ウンギョン)とともに故郷を訪れる物語。仕事、人間関係、家族などといろんなことに悩み揺れるのは、私たちも同じです。本作で共演した夏帆さんとシム・ウンギョンさんは悩んだとき、どうしているんでしょう。お気に入りの本を持ち寄りながら、お話ししてもらいました。


夏帆とシム・ウンギョンが悩んだら手にとる4冊。
不器用なわたしのまま、生きていく


——まずは夏帆さん、今回『ブルーアワーにぶっ飛ばす』で演じた砂田について聞かせてください。仕事、人間関係、家族など、30代女性特有の悩みてんこ盛り!というような役柄でしたが、いかがでしたか?
夏帆 台本をいただいて読んだとき「これは私の話でもあるな」と思いました。撮影したのが2018年で、私は当時27歳だったんですけど、「いま私は、子どものころなりたかった自分になれてるのかな?」と思う砂田の葛藤がよくわかったんです。自分だけが大人になりきれていないまま、ただ時間だけが過ぎていくことに対する焦りに、すごく共感できたというか。
——女優としてずっと最前線を走っている夏帆さんでさえ、そんなふうに葛藤しているなんて、正直驚きました。
夏帆 10代のころからこの仕事をしているからか、過去の自分と比べられる機会が多いんですよね。それが苦しかったり、反対に私自身が一番、過去にとらわれているんじゃないかと悩んだり。そういうことをよく考えている時期に、ちょうどこの作品のお話をいただいて、巡り合わせを感じました。いま私がこの役を演じることに、とても大きな意味があると思えたんです。
——公式サイトに載っている、夏帆さんの「いま自分が一番やりたかった役とやっと巡り会えた」という言葉には、そういう思いがあったんですね。ウンギョンさんはどうでしょう。砂田に寄り添う秘密の友だち・清浦は、どんな役だと思いましたか?
シム・ウンギョン(以下、ウンギョン) 清浦の第一印象は「ディズニーの相棒キャラクター」です。『アラジン』のジーニーや『アナ雪』のオラフみたいに、ずっと主人公の隣にいて笑わせたり、ときどき感動的な台詞を言ったりする、魅力的な役。清浦はただユーモラスなだけではなく、ちゃんと感情も豊かなんですよね。とくにクライマックスでは、演じていてどうしても切なく、つい泣きそうになってしまい……本当は明るく別れを告げる場面だったけれど、感情を優先して、目がうるうるしたまま演じさせてもらいました。
——ウンギョンさんも、こうしてお話ししていると清浦みたいに天真爛漫な方だと感じるけれど、砂田や夏帆さんのように葛藤することもありますか?
ウンギョン そうですね。普段は年齢を意識しないけれど、ふと「私、もう25歳なんだ」って思い出して、大人になったことを切なく感じるときはありますね(笑)。なので、砂田の孤独感や焦りもよくわかる。私自身は完成した映画を観て、癒されたというか……自分を愛することはまだそんなにうまくないけれど、不器用でも自分が納得できるように生きていこうと、そんなふうに思える作品。箱田(優子)監督に「いい作品をつくってくださって、ありがとうございます」って言いたいです。



——今回はおふたりが悩んだときに読みたくなる本を、2冊ずつ選んでいただきました。夏帆さんの選書は、漫画とインタビュー集が1冊ずつですね。
夏帆 私、普段からすごく漫画を読むんです。今回選書のご依頼をいただいて、なにを選ぶかものすごく悩んだけど、まずは『るきさん』にしました。高野文子さんの漫画はほかもいろいろ読んでいて、絵もかわいいし、すごく好き。なかでもこの作品がお気に入りなのは、とってもマイペースにおひとりさまを謳歌している主人公の“るきさん”を見ていると、肩の力がふっと抜けるからなんですよね。逆に友だちの“えっちゃん”は、もっと普通の人。それこそ『ブルーアワーにぶっ飛ばす』で言うなら、砂田がえっちゃんで、清浦がるきさんみたいな感じです。なにかに悩んで頭が固くなっているときに読むと、るきさんのファニーさに救われる。「もっと気楽でいればいいのかな」って思えるんです。
——たしかに、さらっと読めて温かい気持ちになれる本ですよね。
夏帆 はい。だから、もう1冊は逆にすごく熱い本にしようと思って『青春漂流』にしました。立花隆さんというジャーナリストの方が、猿回しの調教師とかナイフ職人とか、あまり身近にいない職業に就いている若者たちをインタビューしてまとめた本です。
——このインタビュー集はどんなふうに夏帆さんを支えてくれるんですか?
夏帆 登場する方みんな、一度は挫折を経験してから、いまの仕事へ転職をしているんです。だから、仕事との向き合い方がすさまじいんですよね。それに感化されるというか……。最初に読んだのは20歳くらいのときだったけど、とても衝撃を受けた記憶があります。
——「私もこの人たちみたいに頑張ろう」と思えるということですかね?
夏帆 いや、そう言うとなんだか気恥ずかしいんですけど……ちょっと背中を押してもらえるというか。うん、でもそれが「私も頑張ろう」ってことですよね(笑)。もともとルポルタージュやインタビューなど、生っぽいノンフィクション作品を読むのが好きなんです。




——次はウンギョンさんの選書です。今回持ってきていただいた私物は韓国語版ですが、日本語訳もされている作品を選んでくださったんですよね。ありがとうございます。
ウンギョン 1冊目は、ティム・バートン監督の絵本『オイスター・ボーイの憂鬱な死』です。絵が風変わりだし、話もダークなんだけど、10代のころ友だちに「ウンギョンちゃんは、この本のまんまだよ」ってすすめられて。
——この作品に出てくるフリーキーな子どもたちが、ウンギョンさんに似ていると?
ウンギョン だったんですかね?(笑)当時は自分でもすごく暗い性格だと思っていたので、似ていると言われるのも納得できて。で、この本を読んでみたら、私自身はすごく慰められたんです。というのは「こんな暗い私でも愛されるかも」って思えたんですよね。自分らしくいていいんだなって。いまでも落ち込んだときには、この本を手に取ることがあります。繰り返しますが、暗い本なんですけどね(笑)。
——どうやらウンギョンさんにとって“暗い”はキーワードですね。もう1冊の『MORSE―モールス―』も、吸血鬼が登場するホラー恋愛小説ですから。
ウンギョン はい。こちらも10代のときに初めて読んだ本なのですが、スウェーデン映画『ぼくのエリ 200歳の少女』の原作で、やっぱりすごく暗いです(笑)。だけど少年少女の気持ちの描き方や雰囲気が好きで。今思えば登場人物がみんな憂鬱な感じだったから、その1行1行に共感できたのかな。やっぱり、思春期の私は暗かったんだと思います。そんな時期にあえて暗い作品を読むことで、その中に見えてくる希望を見つけながら、少しずつ前に進んでこられたのかもしれません。
夏帆 わかる。私も10代のころは、暗い本をいっぱい読んでたなぁ……。
——ちなみにウンギョンさんはいまも、ご自身のことを「暗い」と思っていますか?
ウンギョン 最近は「自分が思うより意外と明るいかもしれない」って思いはじめました。ちょうど日本でも仕事をはじめて、いろんな方と会っていろんな話をして、新しい経験を重ねるうちにそう思えてきたところ。だけど暗い自分もたしかにいて、「くよくよしないでもっと明るく考えよう」って気持ちを切り替えるためにも、この2冊は大切な存在ですね。

——夏帆さんとウンギョンさんは悩んだとき、お気に入りの本を読むほかに、どんなアクションをとりますか?
夏帆 まずはとことん悩みます!(笑)わりと悩みやすいというか、つねになにかを考えずにはいられない性格だから、心ゆくまで考え倒すんです。それで解決できないときは、悩みの原因と物理的に距離を置く。ちょっと遠くに出かけてみたり、友だちと遊んだり。それが難しいときは、気持ちだけでも距離を置けるように、本を読んだり映画を観たりします。
——悩みのタネとあえて距離を置く、と。それはどうしてでしょう?
夏帆 悩んでいるときって、どうしても視野が狭くなっちゃうじゃないですか。でもそういうとき、違う角度からものごとを見る余裕があったら、なんだって面白がれるんじゃないかなと感じていて。「とにかく悩みと向き合って自分を追い込むべき」と考えていた時期もあったんですけど、最近はもっと気楽でいたい。だから悩みと距離を置いて、俯瞰してみる。心に余裕を持ちたいなと思っています。
——つい思い詰めてしまう気持ち、わかります……。でも、夏帆さんはどうしてそこから「視点を変えてみよう」という方向にシフトできたんですか?
夏帆 明確なきっかけがあったわけじゃないんですよね。でも、思い詰めたところでいい方向に進むとは限らないって気づけたのかな。ネガティブな気持ちに集中するのって、自分にとっても周りにとってもすごく重いし、だったらユーモアを持ってものごとと向き合ったほうがいいって思うようになったんです。悩みって、気の持ち方ひとつですし。
——たしかにそうですね。ウンギョンさんは、悩んだときどうしていますか?
ウンギョン 「うわ~!」ってパニックになって、落ち込んじゃいますね(笑)。でも最近は少しずつ、自分をマインドコントロールして、シンプルに考えられるようになってきました。「OK、それが気になってるのはわかってるから、ちょっと待って」と自分自身に話しかけつつ、まずはやるべきことに集中する、みたいな。
夏帆 え、25歳だよね?私そのころまだ悩みの渦中だったよ!(笑)
ウンギョン (笑)。まだ完璧にはできないけど、いま目の前で起きていることを、なるべくシンプルに受け止めて、ありのまま理解しようと心がけてますね。そうでないと、つい複雑に考えて、悩んで、落ち込んじゃうから。
夏帆 悟りを開くのが早い……私も最近やっと、その域に入ってきたかな(笑)。やっぱり思い詰めず、シンプルに考えるのが一番いいのかもしれないですね。

PROFILE
夏帆
1991年生まれ。東京都出身。2007年、初主演映画『天然コケッコー』での演技により、日本アカデミー賞、報知映画賞、ヨコハマ映画祭などで新人賞を受賞。おもな映画出演作に『箱入り息子の恋』(13)、『海街diary』(15)、『ピンクとグレー』(16)、『友罪』(18)、『きばいやんせ!私』(19)など、テレビドラマ出演作に『ヒトリシズカ』(12)、『みんな!エスパーだよ!』(13)、『予兆 散歩する侵略者』(17)、『白い巨塔』、『いだてん~東京オリムピック噺~』、『アフロ田中』(19)など多数。10月から放送の日本テレビ『ニッポンノワール-刑事Yの反乱-』、テレビ東京『ひとりキャンプで食って寝る』に出演。
PROFILE
シム・ウンギョン
1994年生まれ。韓国・ソウル出身。2004年にドラマ『張吉山』でデビューし、以降国民的人気子役として数々のドラマで活躍。2006年の『ファン・ジニ』では主人公の幼少期を演じ、KBS演技大賞青少年演技賞を受賞。映画出演作も多く、『サニー 永遠の仲間たち』(11)では主人公の高校時代を演じ、その演技が高く評価された。また『怪しい彼女』(14)では得意の歌を披露し、百想芸術大賞映画部門女性最優秀演技賞はじめ数々の賞に輝いた。ほかおもな出演作に 『少女は悪魔を待ちわびて』(16)、『新感染 ファイナル・エクスプレス 』(16)など。また主演映画『新聞記者』(19) や舞台『良い子はみんなご褒美がもらえる』(19) など日本作品への出演が増えており、今後ますますの活動が期待される。
INFORMATION
『ブルーアワーにぶっ飛ばす』
監督・脚本:箱田優子
音楽:松崎ナオ
主題歌:松崎ナオ/鹿の一族『清く、ただしく』
出演:夏帆、シム・ウンギョン、渡辺大知、黒田大輔、上杉美風、小野敦子、嶋田久作、伊藤沙莉、高山のえみ、ユースケ・サンタマリア、でんでん、南果歩
配給:ビターズ・エンド
2019年10月11日(金)からテアトル新宿、ユーロスペースほか全国公開
© 2019「ブルーアワーにぶっ飛ばす」製作委員会
Photo: Takuya Nagamine
Stylist: Naomi Shimizu (Kaho),Babymix (Eun-kyung Shim)
Hair&Makeup: Naoki Ishikawa (Kaho),shuco (Eun-kyung Shim / Hair),Akiko Sakamoto (Eun-kyung Shim / Make)
Text: Sakura Sugawara Edit: Milli Kawaguchi
夏帆:ニットドレス¥58,000、中に着たシャツ¥32,000、プリーツスカート¥38,000(オーラリー TEL:03-6427-7141)
シム・ウンギョン:ブラック ハイライズ スキニー¥64,000、バーガンディ アップサイクル ニット¥97,000(ステラ マッカートニー TEL:03-4579-6139) ブラック ブーツ ¥135,000(ピエール アルディ TEL:03-6712-6809)