春のある日、路地を歩きながらの撮影中、「カメラに振り向いてください」、とお願いしたところ。成田凌さんはさりげなく振り向きながら「こういうポーズのこと、“坂口健太郎”って呼んでます。坂口先輩、よくやってそうでしょ?(笑)」と、現場を和ませてくれました。たわいない話をしながらもばっちり写真がキマるのは、さすが現役メンノンモデルの成田さんです。とはいえ、近ごろは俳優としても話題作に引っ張りだこ。新作映画『愛がなんだ』では、主人公にベタ惚れされて冷たくあしらう青年・マモちゃんをリアルに演じています。映画のことから好きな服、最近のプライベートまで、いろんなお話を伺いました。
俳優・成田凌を知るための10のこと。
“素が出ちゃってる”ラブシーンもお手の物。ゆるさと色気のバランスにドキドキ。
Q1.(GINZAを楽しげに読む成田さんに)女性誌、普段から読まれるんですか?
読みますよ!美容室に行ったらリクエストして持ってきてもらいます。結構好きなんですよね。(インテリア特集に載っていた、日本の古い引き出し棚を指さして)あ、これいいですね。ベッドの横にサイドテーブル的に置くためのチェスト、今ちょうど探してたんです。我が家は全体的に和テイストだから、こういうデザインに惹かれます。(またページをめくって)あ、この魚のオブジェもいいな!うちのリビングにはテレビとソファー、テーブル、加湿器くらいしかないんですけど、これから玄関にアート作品や写真をいろいろ飾っていきたいと思ってるんですよ。今はデヴィッド・ボウイの分厚い本を飾ってます。
Q2.好きなファッションスタイルやお気に入りのブランドは?今日の衣裳もお似合いです。
私服の雰囲気は、今日の衣裳に近いですね。基本はいつも、全身ゆるっとしたシルエット。じゃないと息ができなくなっちゃうから。色は白、黒、赤……赤は“すたれた感じの赤”が好きですね。そういう色をトップスに入れて、柄モノのパンツを履くのが好きかな。今日着てきた私服のパンツも、てろてろした素材の柄モノです。服をブランドでは選ばないタイプだけど、シーズンごとにチェックしているブランドはDries Van Noten とMaison Margiela。毎シーズンたくさん買って、アイテムが届く頃にようやく我に返り「うわー、買いすぎた!」ってなってます(笑)。
Q3.では、女性のファッションについてはどうでしょう?どんなスタイルが好きですか?
女性の服はそこまで気にしないですけど、あえて言うなら、楽そうな格好をしたショートヘアの人が好きかもしれない。たとえばワンピースとか花柄みたいに“男性が女性に求めるファッション”って、実際の女性はそんなに好きじゃなかったりしません?だから、本人が好きなものを着てくれていたらいいなって思います。でも、露出はあんまりないほうがいいかな。
Q4.今回出演された映画『愛がなんだ』では、ある意味生々しい、一方通行の恋愛感情がたくさん描かれています。成田さんが演じたマモちゃんは、自分に片想いするテルコ(岸井ゆきの)に結構ひどい振る舞いをする役ですが、感情移入できましたか?
できましたよ。マモちゃんは確かにひどいんだけど、「誰でも、自分のなかにある理性をちょっと外したらこうなってしまうのかな」って思える役なんです。普通の人だったら「こんなこと言ったら相手が嫌な思いをするだろうな」と感じるリミッターが、彼はすごく弱いだけ。その無意識的なバランスの悪さを見せるために、いろいろ工夫はしました。女の子にずっと車道側を歩かせる、みたいな“モテない感”を出してみたり(笑)。でもどこか憎めない、嫌われないキャラにしたかったから、じつは一個も芝居を間違えられなくて、すごく丁寧に演じる必要がありました。
Q5.そういうお芝居の細かいところは、どういう風に詰めていったんですか?
事前に自分なりのプランを練っていきますが、演じているうちに自然とまったく違う芝居に着地したりもするし、ケースバイケースです。テストが終わって、次は本番というタイミングで、今泉力哉監督と話し合う時間をとることもありましたね。たとえばテルコが深夜にビールを買いに行くシーンでは、監督に「マモちゃんはどんな感情でいきますかね?」と相談しました。話し合うなかで、心持ちとしては「怒り」ではなく「同情」だろう、となったりして。監督はいつも明確な答えを持っていながら、僕にも演じる余白をくれるので、本当に楽しい現場でした。
Q6.「余白」といえば、マモちゃんがテルコの肩にうしろから顎を乗せるイチャイチャシーン。このシーンでは成田さんの、ケチャップを使った相当胸キュンな演技が観られますが、アドリブだそうですね。公式資料によれば、今泉監督は「あのシーンは、成田凌が出ちゃってる」「最初に『追いケチャップ』を見た衝撃ったらなかった」と評しています。実際、あれは“成田凌”ですか?
そうかもしれませんね(笑)。もともとは本番直前に監督から、僕にだけ「岸井さんの肩に顎乗せて喋って」って指示があったんです。一瞬の戸惑いはありましたが、いざ本番が始まると、自分の中だけでイメージする芝居以上に、色々ととっさにアイデアが浮かんできて、あのようなアドリブになりました。マモちゃんがテルコにシャンプーしてあげるシーンの空気感もそう。アドリブと言われればそうなんですが……振り返ってみると、マモルという役に向き合った中で、かなり“入り込めている“印象的なシーンだなと思います。
Q7.愛情は恋人にかぎらず、家族や友人にも向けるものですが、成田さんご自身は“愛”ってなんだと思われますか?
返ってこないもの、ですかね。こないだプライベートで行ったスリランカで星占いをしてもらったら「あなたはいろんな人にいろんなものを与え続けているけれど、それは返ってこないよ」って言われたんです。でも別に嫌ではなくて、「それでいいな」って思えて、この感情が愛なのかなって感じました。たくさんお世話している人から感謝されたらもちろんうれしいけれど、お返しは全然いらない。基本、人からの愛情は求めないです。あ、でももちろん、付き合った人からの愛情が足りなかったら「やだなー」とは思いますけどね
Q8.スリランカに行かれたんですね。どんな旅行でしたか?
一人旅だったので、ひたすら気ままでした。お寺をまわって、世界遺産の山を登って、写真を撮って……。田舎のほうを散歩しながら、現地のおじいさんと喋ったりもしましたね。こういう仕事をしていても、意外とまとまった休みがとれることもあるので、そういうときには近所へ買い物に行くくらいの感覚で旅に出たいなって思ってます。
Q9.旅行するほどの時間がとれないとき。お忙しいなかで、どんなふうに気分転換をしているんですか?
気分転換とかしなくても大丈夫なタイプなんですよね。しいて言えば、自炊するのが好きです。トマト缶とタバスコはあると便利なので常備しています。こないだの休みは、あえて餃子を解体してラザニアをつくってみたんですけど、めっちゃうまかった!チャレンジだったぶん、すごく楽しかったですね(笑)。あと自分ではつくらないけど、最近好きな食べ物はチーズケーキ。役作りの食事制限でお酒を飲まないようにしていたら、その反動で甘いものが無性に食べたくなっちゃって……濃厚なチーズケーキにハマりました。
Q10.ここまでお話を聞いていて成田さんは、日常に楽しみを見つけるのが上手な方なんだなと思いました。最後に、近ごろお腹の底から笑った瞬間はありますか?
あります……でも、本当たいしたことない話ですよ?(笑)あのね、高校のときから仲よくて、今はスタイリストをしている友だちと遊んだんです。うちでゲームしてからゴルフ場の打ちっ放しに寄って、昼飯食いにおしゃれなカフェ行って。普段おしゃれなカフェなんか縁がないからか緊張して、ふたりして声とかすごい小さくなっちゃったんだけど(笑)、そこで「いちごサンド」を頼んだんです。で、パンが6枚、つまり3個のサンドがあるなかからお互い1個ずつ食べようとしたら、実はパン3枚でサンド1個分だってことに気づいて。「こんな分厚くて1個かよ!」って、なんかわかんないけどめっちゃ爆笑しちゃいました(笑)。
INFORMATION
『愛がなんだ』
監督:今泉力哉
脚本:澤井香織、今泉力哉
原作:角田光代『愛がなんだ』(角川文庫刊)
出演:岸井ゆきの、成田凌、深川麻衣、若葉竜也、筒井真理子、片岡礼子、江口のりこ
配給:エレファントハウス
4月19日(金)、テアトル新宿ほか全国公開
© 2019映画『愛がなんだ』製作委員会
PROFILE
成田凌
1993年生まれ。埼玉県出身。2013年よりファッション誌『MEN’S NON-NO』の専属モデルとなる。以降、映画『キセキ-あの日のソビト-』、『君の名は。』(声の出演)、ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』、『コード・ブルー-ドクターヘリ緊急救命-3rd season』などに出演。2019年の公開待機作には『さよならくちびる』や初主演作『カツベン!』など。
Photo:Yuka Uesawa Movie: Corg Udo Stylist: Shogo Ito(sitor) Hair&Makeup: Ai Miyamoto(yosine.)
Text: Sakura Sugawara Edit: Milli Kawaguchi