07 Aug 2018
FROM EDITORS GINZA9月号 夏の終りのハーモニー

いい夏とハーモニーを
いつまでもずっと忘れずに。
2018年5月11日20時。私は四谷のとある懐石料理屋にいた。気持ちのいい白木一枚板のカウンター。目当ては土鍋ご飯の上に、焼いたトローリ白子と削りたてのトリュフをこれでもかと乗せた“白子トリュフご飯”である。どんだけグッドスメルやねんと心中で呟きつつ、親の仇のように一気にかき込んだ。多幸感などという言葉では表せない、香り高き二つの食材が奏でるハーモニー。しかもそのあとは霜降り肉とウニをご飯にオンするという。幸せがまた上書きされていく。隣に座った二人組の会話が耳に入ってくる。どうやら医者らしい。こんな贅沢をしていたら痛風になるかも、と考えていただけに、なんだか少しだけ救いだった。
そんなことは置いておいて、食べ物の奏でるハーモニーというのは最高でしかない。食材の持ち味が煌びやかに組み合わさり、脳のプレミアムな回路のスイッチを押す、押す、押しまくる。今年の夏も、こんなことを言っている間に終わっちゃうのかな……ハハ。その瞬間にひらめいた。いつまでも忘れたくない夏と、いつまでも味わっていたいハーモニーがある。脳内で「夏の終りのハーモニー」のイントロが再生された。
こうして思いついたのが同名の食の企画である。アイコニックな2つの食べ物が合わさり生まれる調和を追いかけたくて、10軒のお店を取材した。いつまでもずっと想い出にしていたい、そんな切なさがあった。
かつてTV番組で井上陽水氏と玉置浩二氏が、ギター一本弾き語りでこの曲を披露したことがあった。隣で聞いていたMCのタモリ氏は歌の後でこう言った。「すごい贅沢だな、横でこうやって二人の歌聴きながらビールを飲めるっていうのは。芸能人になってよかったなあって感じするよねえ、ほんとに」。
贅沢や新しさを追い求めるもいい。ささやかな1杯のクリームソーダでもいい。そこにある2つの食材が奏でるハーモニー。夏の終りに噛み締めたら、なんだかよかったなあと思ってしまう。芸能人にはなれないけども。
編集担当 岩渕大介
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