2019年末、25歳を迎えた家入レオ。25歳といえば、まだ10代のあどけなさを残しながらも、30代へと着実に向かいつつある年齢。「もう大人なんだから」と、背伸びしたり取り繕ったりする同世代も多いのではないか。2020年1月に彼女がリリースした楽曲『未完成』は、自身の中にある矛盾を隠さずさらけ出した歌詞が印象的だ。彼女がターニングポイントを経て見つけた道しるべとは。
家入レオ、愛と憎しみの区別がつかなくなった「未完成」
自分が“未完成”であることを
取り繕わずに作った新曲
人の“完成”形とはどういう状態なのか。そもそも完成することはありえるのだろうか。
2019年、25歳になった家入レオは、『未完成』という曲を作った。
これを読むみなさんは「クォーター・ライフ・クライシス」をご存知だろうか。人生の4分の1を過ぎた20代後半〜30代前半のころに訪れがちな、幸福の低迷期を表す言葉だ。25歳になる前の年、家入もそれを実感し、揺らいでいた。
フジテレビ系月9ドラマ『絶対零度~未然犯罪潜入捜査~』の主題歌として書き下ろされた『未完成』は、家入が「ターニングポイントになった」と話す、プライベートのある出来事をきっかけに作った1曲だという。
「そのとき、自分が何を感じ何を考えているのかがさっぱりわからなくなったんです。そんなことはひさしぶりでした。大事なはずだった人やものに対して、愛しているのか憎んでいるのか、自分の気持ちを突き詰めれば突き詰めるほどわからなくなっていった。そんな自分の状態を『未完成だな』と感じていました」
同曲について「自分のきれいな部分だけ世の中に見せるんじゃなく、真っ黒な心がグレーになって真っ白になっていく過程をすべて引っくるめて見せたかった」と話す彼女。たしかに歌詞の中では、相手に向けて「好きだよ」と言う一方、「愛を止めて」「もう夢見ないように」と自らを抑えつけるかのようなフレーズも飛び出し、感情が複雑に絡まり合った言葉たちが連なる。
「いろんな感情が生まれすぎて、一言で表せなくて。自分っていう透明な水に、赤も、黄色も、紫も、黒も、どんどん色が広がっていっちゃって、濁った状態というか。何色にも括れないその感情が、この1曲の間にどんどん変わっていってしまう。主語だって『君』が『僕』になったり、『僕』が『君』になったり、全然つじつまが合っていないんです」
感情が流動的に変わる、つじつまが合わない歌詞。だからこそリアルで人の心を打つのだが、この曲を世の中へ出すのには、相当な勇気が必要だったのではないだろうか。しかし家入は、ありのままの自分をさらけ出すことを選んだ。
「未完成な自分を最終的に受け入れられたわけは…、自分に対して、今までたくさん嘘をついたからじゃないかな。未完成なのにそれを隠そうと完ぺきなふりをしたり、上手に生きようとしたりした結果、自分が一番傷ついた。一番大事にしたかった人やものも失った。だから『ああもう、嘘つくのは無理!』って吹っ切れたのかもしれない。こんな未完成な私を愛してくれる人たちと共に歩んでいこうって」
とはいえ、自分の生き方を切り替えるのはそう簡単なことではない。なぜ彼女はきっぱり「未完成なままでいよう。取り繕うのはやめよう」と決心できたのだろう。
「ここ数年、ひとりぼっちが怖かったんです。『ひとりぼっちになりたくない』と思うから、おもしろくないのに笑ったり、言いたくないことを言ったり。でもそういうことを続けているとかえって、たとえ多くの人やものに囲まれていても孤独を感じるんですよね。不安定になっちゃって、ホールケーキを一人で食べたりしたこともある(笑)。それで太って自己嫌悪に陥ったり、の悪循環で、どんどん自分を嫌いになっていって。でも『もういいや、未完成な私で』と思えたら、何もかも変わりました。今は同意できないことがあったら、もちろん言い方は考えるけど、ちゃんとそう相手に伝えます。そうしたらようやく自分を好きになれたし、いい出会いも増えました」
「未完成」と聞くと、ネガティブな印象を受ける人が多いかもしれない。でも家入の話を聞いていると、むしろ、自分が“未完成”だと認めることによってはじめて、人は自由になれるのではないかと感じられる。
「未完成って“コンプレックスがある”ってことだと思うんですが、そのコンプレックスこそが人の魅力につながっていたりする。完ぺきじゃないその欠けた穴から、その人らしさがにじみ出てくるような気がするんです」
言葉は万能じゃない。
それでも言葉を諦めたくないわけ
家入は読書家だ。プライベートの時間を費やし、さまざまな言葉に触れることを好む。特に、“人それぞれの生き方”が見える作品たちに心を揺さぶられるという。
「最近読んだ中だと、ブレイディみかこさんの『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』がおもしろかったです。あと、千早茜さんの小説『男ともだち』や、平野啓一郎さんの新書『私とは何か 「個人」から「分人」へ』もよかった」
読むだけでなく執筆も。ブログでは日々のあれこれを綴り、2019年は日経新聞でエッセイを連載した。実は、プライベートで小説も書いているそうだ。
言葉は人それぞれの経験や知識で解釈が異なるから、万能ではない。それでも彼女は言葉を諦めずに、話すことも文章や歌詞を綴ることも、むしろ人一倍好む。なぜ彼女は諦めないのか。
「言葉に救われたことがあるからだと思います。本当なら今編集部の皆さんと向き合っているように、相手の目を見て話したいし、どんな髪型で、どんな服装をしているかも知りたい。ただこの世のすべての人にそうすることは、物理的に不可能です。でも言葉なら、インターネットや紙面を通じて“飛ばせる”から。実際に会っていなくても、言葉で誰かの救いになれたり、逆に自分が救われたりもする。言葉によって人とのつながりの幅が一気に広がるからこそ、言葉を信じていたいと思うんです」
友だちからかけられた一言や本の中の一節など、誰かの言葉で救われたことがある人は、少なくないだろう。でもそれと同じくらい、言葉で辛い思いをしたことがある人もいるはずだ。それでも家入は“言葉ですれ違うこと”自体にも意味を感じているという。
「『裏切られた』と思うときって、実は自分を始点に考えているからなんじゃないかなって。自分が都合のいいように相手の言葉を解釈してきたから『裏切られた』ように感じてしまうだけで、実は相手はずっとこちらに対して好意的じゃなかったのかもしれない。見方次第で、言葉が持つ意味というのは180度変わってしまうんです。言葉では思いを100パーセント伝え合うことができないからこそ、人は人と触れ合いたくなったり、好きになったりするんじゃないかって。そのことを理解するために、ときには言葉ですれ違うことも大事なんじゃないかなって、最近そう思うんです」
言葉をどれだけ尽くしても、どこか伝えきれなかった後悔が残ることも多い。伝えるのに充分な言葉を、自分が持ち合わせていないことだってある。人が“未完成”なら、言葉だって“未完成”なのだ。
「そもそも“完成”なんてないと思います。未完成だからこそ、人は成長できるし、自己表現できる言葉を探そうと努力する。あえて『自分は完ぺき』だと思い込む、という美学もあるけれど、私は未完成なまま、自分の在り方や伝え方を、永遠に探していきたいです」
【RELEASE】
16th Single
「未完成」
2020.1.29発売
【初回限定盤 A CD+DVD】VIZL-1719 ¥1,800+tax
CD
01.未完成
02.Unchain
03.Every Single Day(Acoustic Version)
04. 未完成(Instrumental)
05.Unchain(Instrumental)
DVD
Acoustic Sessions Movie
01. miss you
02. a boy
03. Overflow
04. For you
05. Shine
【初回限定盤 B】VIZL-1720 ¥1,800+tax
CD
初回限定盤 Aと同内容
DVD
01. 未完成(Music Video)
02. 未完成(Music Video Making)
【通常盤 CD】VICL-37518 ¥1,200+tax
CD
初回限定盤Aと同内容
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家入レオ
1994年生まれ、福岡県出身。13 歳で音楽塾ヴォイスの門を叩き、15歳で青春期ならではの叫び・葛藤を爆発させた『サブリナ』を完成させ、音楽の道で生きていくことを決意。翌年、単身上京。都内の高校へ通いながら、2012 年2 月メジャーデビューを果たし、1st アルバム『LEO』がオリコン2週連続2 位を記録。第54 回日本レコード大賞最優秀新人賞ほか多くの新人賞を受賞。以降、数多くのドラマ主題歌やCM ソングなどを担当。2020年1月には自身16枚目となるニューシングル『未完成』(フジテレビ系月9ドラマ『絶対零度〜未然犯罪潜入捜査〜』主題歌)をリリース。
leo-ieiri.com
@leoieiri
Photo: Wataru Kitao Text: Kozue Suzuki Edit: Milli Kawaguchi