“狭く深く”ネットと付き合うことで、健やかに人とつながれる。注目のクローズドコミュニティを運営する2組が語る、ネット上で今必要なマナー。
和田彩花とme and youに聞く、インターネットとのヘルシーな付き合い方

顔が見えなくても相手を尊重する
竹中万季(me and you) 限られたSNSの文字数だと、複雑な感情を言葉にしにくいですよね。時にはまったく違った捉え方をされたり、予期せぬタイミングで傷つけられたりする可能性もあるから、内容によっては話しづらいときもある。「me and you」ではメディアの他に、登録制のコミュニティ「me and you club」を運営していて、「わたしとあなたの終わらない思索とおしゃべりを」というタグラインの通り、個人的な話題から社会的なトピックまで、安心して話せる場を持っています。有料かつ承認制なので信頼して会話できる人が集まっているし、会員限定のつぶやきやブログ、テーマごとのクラブ活動、オンラインお茶会など好きな場所で書いたり話したり考えたりできるようにしています。
和田彩花 私のコミュニティ「Fanicon」も似た雰囲気ですね。最初はファンクラブ的な位置づけだったけれど、今はひとつの“居場所”という感じ。チャットで意見を交わしたり、限定公開のブログやラジオなど極私的な配信をしたりできるのは、みんな信頼できる人たちだから。
「me and you club」会員ページ。feminismやbookなどのグループが並ぶ。
野村由芽(me and you) SNSではお互いを尊重しながら意見交換するのが難しい雰囲気がありますよね。
和田 だから個人的な発言をするのが難しい。でも、「Fanicon」ではどんな考えも聞いてくれるから、ジェンダーやセクシャリティといったセンシティブな話題も安心して話せるし、一緒に生きている感覚が強いです。
竹中 わかります!一人ひとり異なっているという前提のもとで、争うのではなく意見を交わしたいですよね。そのためには顔が見えなくても相手を尊重することが大事。そういうムードが話しやすさにつながる気がします。
和田さん運営の「Fanicon」。会員のチャットもにぎやか。
自分の意見はちゃんと伝える
竹中 コミュニティはどんな雰囲気ですか?
和田 私の出演番組で話されたトピックについてファン同士が議論してくれるのが面白いんですよ。『アベプラ』という報道番組に出た時はすごく盛り上がって。私の発言に対しても「この視点がよかった」「別の意見もあると思う」と冷静にフォローしてくれて、心強いし勉強になりました。コロナ禍では情報を共有したり、飲食店応援のためにテイクアウトしたものをシェアしたり。
野村 素晴らしい関係ですね。
和田 不思議ですよね。家族でも友だちでもないけれど支えになっている。だけど、意識的に距離をとるようにもしてます。寂しい話じゃなくて、自由な雰囲気を保つために。共感できる人同士が集まって密に接していると、ちょっとした違いにショックを受けることってあるじゃないですか。私は安心すると、余計な一言を発してしまったり意見を無意識に押しつけたりしちゃうので、話す範囲をあらかじめ決めて、良い悪いを決めつける発言はしないよう気をつけてます。
野村 私たちも、「いつも一緒」という距離感が昔から得意ではなかったので、それぞれの心地よいペースとリズムを大事にしようと2人でよく話しています。コミュニティと聞くと活発に議論するイメージもあるけれど、見ているだけでもいい。お互いに違う意見があって当然ですよね。
和田 最近は、嫌なときは素直に「嫌だな」と言っちゃうんですよ。チャットの場は凍りつきますけど(笑)、自分の意見は伝えたい。そうすると他の方が別の考えを提示してくれるんです。誰かを排除するんじゃなくて、助け合ってくれるのは頼もしい。
竹中 みんなで模索していく場所にするためにも、最低限のルールは共有したほうがいいのかもしれないですね。私たちもあらゆる差別に反対する意思を持っていることを参加の条件として示していて。そこが共有できていると、食い違いがあっても一緒に悩んだり助け合ったりできるのかなと思います。
SNSとは意識的に距離を保つ
竹中 ずっと、SNSとの関わり方に悩んでいました。コンスタントにスピード感を持って発信するのは得意ではないのに、いかに「いいね!」をもらえるかが人としての魅力につながっているように思えたりして……それで、自分なりに使い方を見直したんです。私の場合は、暇つぶしに見ていると疲弊すると気づいたので、チェックするタイミングを決めて。Twitterは「リスト」をいくつか作って、気分に合ったものだけを見て、インスタは友だちに会いたい気持ちになった時に。SNSのいいところだけを取り入れられるよう、試行錯誤しました。
野村 特にTwitterは相手を攻撃したり誤解が生まれたりするムードが強くなっていて、私も気持ちが離れ気味です。でも「自分の言葉が誰かに届くかも」という希望もあるし、作った記事への反応をもらえるとうれしい。そこが光だと思うから、心地よい使い方を考えたいなと。インスタに関して最近編み出したのは、ストーリーズをデスクトップで見る方法(笑)。スマホの全画面表示は少し迫力がありますが、PCなら小さく表示されるので距離がとれる。あとは元気な時しか見ないようにしています。
和田 同じですね。たとえ他人に向けられたコメントだとしても、自分が言われたような気持ちになるし。思わぬタイミングで心が荒らされてしまうから、私も余裕がある時しか見ないです。
野村 自分なりに距離をとりつつ、たとえ離れても、そこで行われている差別や中傷はなくならない。SNS以外の場所にも影響していることを考え続ける必要があると感じます。
竹中 あと私は好きなアーティストやショップだけをフォローしている、見る専用の裏アカウントを持ってます。自分だけの雑誌のような感じですね。
野村 裏=ネガティブではなく、人にはいろんな一面があるように、アカウントをいくつ持っていてもいいはずですよね。
和田 本当の自分の顔って、たくさんありますよね。それこそクローズドなコミュニティだと、私はいろんな自分を見せられるから楽チン。私はわりと堅い人に思われがちだけど、実はおちゃらけるのが好きだから(笑)、ときどきふざけて楽しんでます。
野村 公開アカウントだけだと自分の一面的なあり方を保とうとしてしまうし、揺らぐ気持ちを押し込めてしまいがち。だけどそれでは心が疲弊していく。気持ちを素直に吐露できる場を公のSNS以外に持つことは、インターネットと付き合っていくために必要かもしれないですね。
誰かを傷つける可能性を点検しながら書く
野村 インターネットで何かを発信する時、大事にしてることはありますか?
和田 「自分がどう思うか」を軸に書くようにしています。たとえば女性だからメイクが好き、ではなくて、私がメイクを楽しんでいると発信する。専門書をいくら読んでも、物事が本当に正しいかどうかはわからないけど、「私」を主語にしたら、それは本当のことだと思うんです。いきなり考えを公開しなくても、パソコンに書き出して整理するのもいいかもしれないですね。
竹中 私もそうしてます。SNSで瞬時につぶやくと本音と違う形で伝わってしまう時もあるから、ひとまず書き出して1日寝かせてみるんです。そうすると「今ここで伝えたいわけではないのかも」と気づくことがある。ときどきSNSで差別的な発言をしている人が、「個人的な意見だから」と書き込んでいるのを目にしますが、公開アカウントである以上いろんな人の目に触れますよね。自分の投稿が誰かの一生の傷になる可能性があることは忘れてはいけないと思います。
和田 知らない人の気持ちを十分に想像することは難しい。だから、友だちの視点を借りるのもいいですよ。ある意見を、「あの子だったらどうかな」と、第三者視点に立って考えてみるんです。
野村 どんな内容でも、かつ意図的でなくても、何かを発信する以上、誰かを傷つけてしまうかもしれないという点を心に留めて、言葉を点検しながら発言するのが大事だと思います。相手の気持ちを想像して、今の自分ができる限りの言葉を尽くす。同時に、他者の考えや声を聞こうとし続けること。その両輪を持つことが、マナーなのかなと思います。
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me and you 竹中万季(上)、野村由芽(下)
編集者。コミュニティメディア「She is」を立ち上げ後、2021年に独立し「me and you」をスタート。J-WAVE&SPINEARで「わたしたちのスリープオーバー」を配信中。
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和田彩花
アイドル。アンジュルムを卒業後、ソロで活動。大学院で学んだ美術やジェンダーに関する執筆なども行う。