クォーター・ライフ・クライシス。それは、人生の4分の1を過ぎた20代後半〜30代前半のころに訪れがちな、幸福の低迷期を表す言葉だ。28歳の家入レオさんもそれを実感し、揺らいでいる。「自分をごまかさないで、正直に生きたい」家入さん自身が今感じる心の内面を丁寧にすくった連載エッセイ。前回はvol.75ご褒美はもうあった ニューアルバムについてのインタビューはこちら
家入レオ「言葉は目に見えないファッション」vol.76未完成な
vol.76未完成な
駅の改札を抜け、ダウンジャケットのポケットに両手を乱暴に突っ込んだ。マスクの下でへの字に曲がった口。かき消すように前のめりでずんずん歩いた。「でも」を心の中で繰り返している自分と「今泣くことでこの気持ちを誤魔化したら卑怯だぞ」と叱咤しているもう1人の自分と。ポケットの中でぎゅっと握った手はこんなに寒いのに汗ばんでいて。高熱を出して寝返りを打ったベッドの上で、じっとりと背中に貼りつくパジャマの肌触りを追い出すように、頭をふった。兎に角歩こう。そして落ち着こう。
無目的に直感的に道を選び、足を前に進める。人気の少ない通りまで出るとマスクを顎の下まで下ろし、大きく夜気を吸い込んだ。完全にオーバーヒートしている思考主導の流れを断ち切り、感覚的な自分に戻りたい。鼻腔から喉、胸、お腹の流れで入ってくる冷たい空気そのものに意識を集中させ、深呼吸を繰り返していると、思考も視界もクリアになった。
頬に感じる風が気持ちいい。飲食店から漏れる明かりや、バーの仄暗さ、自転車のライト、住宅街のベランダに干された衣類、フードを目深に被ったコンビニ帰りの男性。瞳を通過していく生活の景色が私を安心させる。さっきまでは頭が熱く私じゃなくて、脳が歩いているような感じがした。
私はその日、すごく自分が許せなかった。中途半端な誤魔化しと、そうするだけの理由と、でもそれに真正面から挑まなかったことと…あげたらキリがないくらいだ。
その胸の内を誰かに聞いて欲しいっていうのは違う。でもこのままこの気持ちが自分の胸の中にあるのも違う。そんな気持ちであのドラマが映画が面白いって続いてる LINEの最後に「寒さと空腹にやられてるー」「そして今日自分がすごい嫌になった」と独り言みたいなメッセージを帰りの電車で送った。時々、送信相手からもそんな風なLINEが送られてくる。気ままに流したり、たまに反応したり。そういう気負いのない優しさがいい。いつ何時でもスタンバイしてるよ、なんていう力みはもういらない。
時刻を確認するために取り出したスマホ画面に新着メッセージのお知らせ。友達から返信が来ていた。どーでもいいドラマと映画の話がちゃんと続いていて、そして最後に
「嫌な気持ちになったらそれはもうそれでいいと思う。」
「今日に置いていって 明日はまたいつものまっすぐなあなたになればそれでいい」の文字。
私は今日1日自分を嫌いになって、明日からまた生きていこうと思った。
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家入 レオ
2022年2月にはデビュー10周年を記念して「10th Anniversary Live at 東京ガーデンシアター」を開催。
2023年2月15日にはニューアルバム『Naked』をリリース。収録されている「嘘つき」はWOWOWオリジナルアニメ「火狩りの王」のオープニングテーマ。 ginzamagでのインタビュー: 家入レオが“Naked”な自分に原点回帰して気づいたセルフラブの大切さ「毒も見方次第で“あなたらしさ”になるから」 家入レオ、愛と憎しみの区別がつかなくなった「未完成」。
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