東京の海につながっていくようなロケーションからアプローチする水族園。機能が移転した後の保存が決定した、現代建築の傑作です。
空に浮かぶようなガラスのドームから海につながる「葛西臨海水族園」
東京ケンチク物語 No.75
葛西臨海水族園
Tokyo Sea Life Park

東京湾に面して広がる葛西臨海公園。80haあまりと都内屈指の規模の園内に大観覧車や花畑が点在し、休みの日になれば子どもたちの歓声が響く、東京の東側の憩いの場所だ。この園のランドマークを、都内と千葉をつなぐ京葉線から目にしたことがある人もいるだろう。もこもこと茂る緑の中から顔を出し、空を背にして浮かぶようにも見えるガラスのドーム。谷口吉生による設計で1989年にオープンした「葛西臨海水族園」だ。駅や高速道路が走る側にある入口から公園に入ると、目当ての水族園があるのは奥の海側。天井を低めに抑えたチケット売り場を抜けた先のアプローチが緩やかな坂道になっていて、最後に階段を上ってこのドームに間近で出合う。直径約20m×高さ約20mのガラスドームは、華奢な鉄骨で組み上げたもので浮遊感がたっぷり。軽やかなドームの周りを囲むように噴水池が巡り、その先には東京湾。池がインフィニティプールのようになっているから、池の端から水が東京湾に流れ落ちるようにも見えてさらにドラマチックな眺めだ。「海と人間の交流」をテーマにした水族園ならではの、海を身近に感じる場が広がっている。驚きに満ちた坂の上の入口から、海に潜るかのようにエスカレーターで下っていった先の2フロアに、水族園は展開する。平面は直径約100mの円形で、動線はその円をなぞるような回遊型。世界でも類を見ないクロマグロの群泳が見られる水槽、サンゴ礁のある南国から北極・南極の冷たい海まで、世界の海を再現した数々の水槽、小笠原諸島や伊豆七島なども含む東京の海を展示する水槽……。500種を超える世界中の海や身近な水辺の生き物が次から次に現れる。今では他の水族館でも見られるようになった環境展示は、この水族園が草分けのひとつだ。
こちらの水族園、オープンから30年以上が過ぎ、設備の老朽化などで隣地に新設移転が決定。2028年にオープンを予定している。現在の建物は当初、劣化度などを調査した後に方針を決定すると発表されたが、谷口による傑作建築の取り壊しに反対の声も大きく、保存が決まった。東京湾のランドマークとして、新たな活躍も楽しみだ。
Illustration_Hattaro Shinano Text_Sawako Akune Edit_Kazumi Yamamoto
