「自分をごまかさないで、正直に生きたい」家入さん自身が今感じる心の内面を丁寧にすくった連載エッセイ。前回は、vol.126 子育てのぬくもり
ファンレター

「自分をごまかさないで、正直に生きたい」家入さん自身が今感じる心の内面を丁寧にすくった連載エッセイ。前回は、vol.126 子育てのぬくもり
2025年、年末。
スーパーに並ぶ生鮮食品は、お肉もお魚も、いつもより良い部位、良い産地のものばかりで、1年の終わりに、みんなが自分を労えているといいな、と思った。
歪に膨らんだトートバッグの中には、さっきお会計を済ませたばかりの野菜や果物が入っている。オーストラリアの動物園で買ったそれを「かわいい」という理由だけでエコバッグにしている私。本当は、小さく畳めたり、撥水加工が施されていたり、マチがあった方が便利なんだけど。買い物に出かける時に何となくバッグに入れた流れで、それがそのまま習慣になっている。私を含めて人は、理由や意味を欲しがるけど、たまたまとか流れ、なんてものが人生の大半を占めてしまっているのかもしれない。
空になった買い物カゴを出口付近に戻す途中で、1枚の張り紙が目に入った。
「年末年始の営業日のお知らせ」
ほー、今年は大型スーパーも元旦は休みなのね、と小さく頷く。というか、みんな休むべきだよな、と呑気な気持ちではしごしたのは街の食品店。こちらは年始の営業が少し遅めだと知り、気づけばつい、色んなものを買い込んでしまった。数日買い物に行かないことなんてざらなのに。開いていない、と知らされると無意識に備えようとするから不思議。帰り道、歪だったトートバッグがさらに歪に膨らんで。息を弾ませながら坂道を一歩一歩登る。肩から滑り落ちてくるトートバッグの紐を掛け直していると冬の空に、夕焼けチャイムが響いた。午後五時を知らせる、懐かしいメロディ。足を止め、マスクの下で大きく息を吐く。宙を仰ぎながら、少しの間、目を瞑る。
今年は、東京で年を越すことにした。
ギリギリまで福岡に帰るか迷った。家族も友達も待ってるよ、と連絡をくれたけど。1月3日から東京ドーム(!)での歌い始めが決まっていたし、今の気持ちで帰っても、母の美味しい手料理に舌鼓を打ちながら、大好きな友達と初詣に向かいながら、ふとした瞬間に我に返ってしまうだろう、と思ったのだ。
2025年を振り返ると、本当にこの1年の間に起こった出来事なのだろうか、と疑いたくなる。目の前のことに無我夢中だった。毎日精一杯生きていると充実感もあるし、その実感が心を守ってくれる。そんな風に穏やかに生きていられることは、とても幸せだけど、私はもっと音楽に人生を変えられたい、そして、変えていきたい。もっとライブもやりたいし、この曲を作れて良かった、全部この曲を歌う為に必要な痛みだったんだ、と強く想いたい。何より他のことが一ミリも入り込む余地のない、音楽と1つになったあの感覚が、もっと欲しい。だとしたら、東京で音楽を感じ切りながら年を越すことがはじめの一歩だと思った。
「感動」って言葉。私は「傷付く」って言葉と同義語だと思っている。映画でも本でも舞台でもライブでも。言語化できない興奮が、感動が、時間と共にWhy?に変わっていく。何でこの発想ができなかったんだろう?私はここで何をしているんだろう?脈打つ心臓が毎秒自分を責め立てる。大人になった今はそんな自分を流石にコントロールできるようになったけど、それって果たして良いことなのだろうか。ちゃんと悔しがったり、欲しがったり、恥ずかしくてもいいから、しようと決めた。12月は自分の気持ちを整理したり、曲を作ったり、年の瀬は友達と紅白を観て、新年を迎えた。歌詞を書いていると、人の気持ちにも敏感になる。2026年、事務所に届いていたファンレターを読んだ。1通1通綴られた想い、字癖、シールや便箋のセレクトにも人となりが出ている。
私はこの人たちに何ができるだろう、この人たちは私に何を求めているのだろう。そんな想いが、ファンレターを読み終わる頃には、とてもシンプルな想いになっていた。
「居場所になりたい」
大人になると、どうでも良い話、オチのない話ができる人が減ってくる。打ち合わせや会議が雑談だけで終わる、なんてことはあり得ないし、人と会うのには理由や意味、目的が年々必要になってくる気がする。
一人ぼっちなわけじゃない。出会いの分母は仕事をしていれば増えていく。友達や家族や恋人、社会の人間関係の中にはいて。いや、その輪の中に適度な感じで存在しようとして。だけどライフステージは人それぞれで。結婚したり、子育てしている友達はやっぱり気軽には誘いづらかったり、家族も帰る場所ではあるけど近づきすぎると上手くいかなかったり。恋人は大切だけどこの先もずっと一緒にいるかなんてまだ分からないし。誰かと一緒にいても、寂しさは消えないことを大人になると知ったりして。不意に海原に1人で浮かんでいるような気持ちになってしまうことが、本当はきっとみんなある。1人じゃないってことも分かっていて、1人だってことも分かっているような。そんな寂しさや不安を生活圏内の登場人物たちには、後がめんどくさいなぁとか、心配かけたくないなぁって、距離が近いからこそ言えなかったり。
きっと、人生を共にする人がいようが、いまいが、人間である以上私たちは等しくずっと寂しい。私が音楽をする理由は、なんかそこにある気がしていて。どうでも良い話ができる人たちが大人になった今も欲しいんだよ。これから先も欲しい。恋人でも家族でも友達でもない、もしかしたらその全部を担った私に、音楽になりたい。普段はそれぞれの人生を生きて、こんな苦しいことあった!こんな面白いことあった!って毎年ライブで顔合わせて、そしてまた次会う時まで元気でね〜って手を振るような。どんな時も私には家入レオの音楽がある!って思ってもらえるような歌を作るから。私の音楽が、誰かと誰かを引き合わせる糸になっていたら良いなと思う。
Leo Ieiri
1994年生まれ、福岡県出身。17歳でメジャーデビュー以降、数多くのドラマ主題歌やCMソングを担当。2024年には、自身8枚目となるオリジナルアルバム『My name』をリリースし、海外4公演を含む全16公演のツアーを開催した。2025年は、1月に「雨風空虹」(ボートレース 2025 TVCMタイアップソング)、2月に「No Control」(MBS/TBSドラマイズム『アポロの歌』エンディング主題歌)をリリース。さらに11月には、通算19枚目のシングル「Mirror」を発表。表題曲は、日本テレビ系水曜ドラマ『ESCAPE それは誘拐のはずだった』の主題歌に起用され、UNISON SQUARE GARDEN、TenTwentyのギターボーカリスト・斎藤宏介氏をフィーチャリングに迎えた、家入にとって初の男性アーティストとのコラボレーション作品としても注目を集めている。
Text_Leo Ieiri Illustration_Hagumi Morita