独断と偏見で選ぶ国内外のマニアックな雑誌に特化したオンラインストア「Magazine isn’t dead. 」を主宰する高山かおりさん。世界中で見つけた雑誌やZINEから、毎月お気に入りの1冊を紹介します。前回紹介したものは『The Skirt Chronicles』。
世界中を旅するシードハンターが届ける"未知の美味しさ"『BIZARRE EDIBLE PLANTS』(STRAIGHT BOOKS #4) Magazine isn ’t dead Vol.10

いろんな雑誌を読んでいるとこんな世界があるのかと驚くことが多々あるが(それが雑誌が持つ魅力のひとつでもある)、今回紹介するのもまさにそう。なんと全て食べられる植物のみを掲載したものだからだ。
“-Unknown Delicacies-(未知の美味しさ)”というサブタイトルからほのかにSF的な香りが漂うのもよく、ある種の期待感を持って扉を開くと、表紙のかわいらしい花から一転、少しグロテスクな果実のような写真が表われる。目次に移ると、アルファベット順で植物名が羅列され、聞いたことのないものばかりで暗号のようにもみえてしまうほど。でも、恐れずに勇気を持って本文へ。そうすると植物越しに仁王立ちする大男が現れる。そして隣のページには、彼が植物と戯れる姿が。始まりから展開が急すぎて訳がわからないと思うがどうかついてきてほしい。彼こそが本書の監修者である、ジョセフ・シムコックスだ。
彼は家を持たず(!!)、「シードハンター」という肩書きで一年中世界を飛び回っているらしい。膨大な文献の中から、かつて人間によって食用されていたにも関わらず忘れ去られてしまった植物や限られたエリアでしか食べられていない植物の情報を探し出し、フィールドワークを続ける、まさに植物民俗学者。“ボタニカル・エクスプローラー”との異名も持つ。そんな彼による記録帳の一部ともいえるのが本書である。
写真とともに植物のスペックが表記され、調理法や味についても言及。食用したことのないものについては、「自ら焼いて調理してみたことはまだない」と綴る素直さ。時折り登場する彼の少年のような振る舞いも愉快で、あっという間にこの奇妙な世界に引き込まれてしまうから不思議だ。巻末に収録のインタビューページも見逃せない。自宅がないというその暮らしぶりから、今まで遭遇した非常に危険な体験(乗り越えたからこそ聞ける貴重なものだ)について惜しみなく語る。民族植物学的研究については「ぼんやりと曖昧に書かれた食用植物に関する多くの文献の正当性に、疑問を感じざるを得ない」と物申す。私自身も書くことを仕事にしているからこそ、このフレーズには心に響くものがあった。ジョセフのチームメイトとして旅に同行した小野地さんのクレイジーな旅の記録も最高だ。
ちなみに本書は、「STRAIGHT BOOKS」というレーベルから出版された図鑑シリーズの第四弾である。せっかくなのでレーベルが始まった背景についても触れさせてほしい。主宰するのは、編集者の川端正吾さんとグラフィックデザイナーの小宮山秀明さん(TGB design.)。二人の出会いは20年以上前に遡るのだが、なんとかつての『GINZA』編集長、中島敏子さんが繋いだ縁だったという。共通の趣味が植物とのことで意気投合、いつか図鑑シリーズをつくりたいと夢を語り合い2015年ついに実現した。ちなみに、二人とも『relax』に長らく携わったのち、『ATAQUE』という格闘技のZINEも制作。現在もそれぞれ別の雑誌に深く関わりを持っており、20年以上雑誌道を歩み続けている。そんな二人だからこそこの本は生まれたのだと思う。コンセプト文も素晴らしいので、ぜひこちらから読んでほしい。
未知な世界へ一歩足を踏み出すと思いがけない繋がりに出会えたりするから、雑誌は面白いのだ。
『BIZARRE EDIBLE PLANTS』はこちらで販売しています。
この連載では、ginzamag.com読者の手作りZINEを募集しています。決まりがなく、自分を自由に表現できるのがZINEの魅力。オンラインストア「Magazine isn’t dead. 」の高山かおりさんに、自分のZINEを見てほしい!という読者のみなさま。ぜひGINZA編集部まで送ってくださいね。
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高山かおり
独断と偏見で選ぶ国内外のマニアックな雑誌に特化したオンラインストア、Magazine isn’t dead. 主宰。ライター、編集者としても活動している。生まれも育ちも北海道。セレクトショップ「aquagirl」で5年間販売員として勤務後都内書店へ転職し、6年間雑誌担当を務め独立。4歳からの雑誌好きで、国内外の雑誌やZINEなどのあらゆる紙ものをディグるのがライフワーク。「2020年1月31日(金)と2月1日(土)に開催の『二子玉川本屋博』に出店します。2月1日(土)には佐久間裕美子さんとトークイベントもさせてもらうことになりましたので、ぜひお気軽に遊びにいらしてください!2020年も本連載にお付き合いいただけますとうれしいです。今年もどうぞよろしくお願い致します。」