「かわいい」。その言葉に理屈はない。直感で、右脳で。人は日々の生活の中で「かわいい」ヒトやモノ、コトを見つけて、思い、言葉にし、愛でる。それはきっと、好きのはじまり。だから「かわいい」は正義であり、哲学である。この連載ではファッションを通じて、女性の暮らしや生き方を通じて「かわいい」を追求し、その言葉の背景をとことん掘り起こして研究します。そこには、GINZA ガールズの背中をおす大切ななにかがあると信じて。さあ、「かわいい」ゼミナール、開講のお時間です!
編集者・渡部かおりの「かわいい」ゼミナールVol.7 担当スタイリスト杉本学子さんと振り返る、大豆田とわ子が示した「かわいい」大人とは

皆さん、こんにちは。お久しぶりの「かわいい」ゼミナールのお時間です。皆さん、いかがお過ごしでしょうか? 私はコロナをきっかけに家にいる時間が増えたためか、これまで以上に、動画配信サービスとの接触時間が増えた。韓流ドラマ『MINE』で財閥の人間模様と華やかなファッションを楽しみ、ルカ・ヴァダニーノの初めてのテレビドラマ『僕らのままで/WE ARE WHO WE ARE』に新時代の価値観を学び、取材をきっかけに1年遅れでドはまりしたオーディション番組『I-LAND』で何度も号泣。移動中、作業や家事をしながら、そして深夜……。睡眠時間VS己の欲の戦いが日々、続いている。
そんな中で久しぶりに毎週、オンタイムでテレビの前に座って観たドラマが『大豆田とわ子と3人の元夫』だった。そして、今なお続く、とわ子ロス……。ストーリーの考察はこちらにお任せし、「かわいい」ゼミナールではストーリー同様に毎週、楽しみにしていたとわ子のファッションについて書き残しておきたい。
第一話の早い段階で強烈に興味を持ったのが、とわ子の母のお葬式のシーン。遺骨を入れるリュックサックが〈マメ クロゴウチ〉だったこと。お葬式から会社へ向かうとわ子のキャラクターにリュックサックはハマるが、それがカジュアルすぎればシーンに合わない。どこか厳かで特別感のあるマメは、もうそれしかないというほどにぴったりだった。それ以来、最終回が来るまでの間、毎週、ドラマの最新話を鑑賞→Tverで復習しながら、とわ子がどこで何を着たのかが投稿されるインスタグラムのアカウントをチェックするのが習慣に。衣装についてのまとめサイトが作られるのは自然な流れだとして、番組制作側がインスタグラムで衣装のクレジットを掲載する仕組みは、日本ではまだまだ新しく、実際にアイテムの売り上げへの貢献度も相当に高かったと聞く。
今回は、スタイリングを担当したスタイリストの杉本学子さんにとわ子ファッションについての秘話を取材。多くの視聴者を魅了した、とわ子流の「かわいい」を探った。
渡部 前提として、大豆田とわ子の女性像をどう捉えていたの?
杉本 とわ子はバリバリ仕事をして、子育てもしている自立した女性。好きなものを好きに着て、人生を楽しんでます。消費やサスティナビリティについても自問自答した結果、いいものを長く着ることを選択。ただかわいいからではなく、TPOに合わせ、洋服に意味を持たせて着ています。後は、いろいろ悩みはあれど、いつもポジティブに見えるよう、カラフルな色使いを心がけました。
渡部 もともと、坂元裕二さんの作品が好きというのもあるけれど、第1話の〈マメ クロゴウチ〉のリュックサックの存在感が、ドラマにのめり込むきっかけになったんですよ。
杉本 母を背負う、とても大切なバッグですから、ただの黒もダメ、カジュアルなのもダメ。どこか和風で、神秘的なムードも漂うマメだからこそ、意味があったのかなと。反響も大きかったですね。かおりさんも第1話を見た後にすぐに連絡くれましたよね(笑)。
1話に登場した、〈マメ クロゴウチ〉の厳かなリュックサック。母を背負うという意味合いをファッションで表現した。
渡部 うん、ものすごく久しぶりにエンディングのスタッフクレジットを一時停止してチェックしましたねー。着る洋服に意味を持たせる。これは、他の場面だと例えばどこに顕著にあらわれましたか?
杉本 ラジオ体操に行く朝は、必ず、ジャージ。体操するだけじゃなくて、そのまま街で食べ歩きできるくらい。普段はおしゃれでも飾らない一面を。これは脚本家の坂元裕二さんからのリクエストでもありました。
渡部 最近は家での時間も増えたこともあって、とわ子の“おウチファッション”も注目視されていたけど、毎回、カラフルで楽しかった。リビングルームではガウンをよく着ていたよね?
杉本 そうそう。とわ子はリビングルームではガウンを羽織ることが多いんです。でも、寝室とリビングルームでも、着るものはきっちりと分けるタイプ。寝るときは必ず襟付きのパジャマに着替えるのがこだわり。スウェットやTシャツのままではベットに入らない。長袖3着、半袖2着のパジャマを着回しているんです。
渡部 24時間、ファッションを楽しんでいる証拠ですね。足元もバブーシュで、そこにもとわ子のこだわりが見られました。会社に出勤する時は、ちゃんと仕事モードに切り替えているのもすごくよかった。好きなものしか着ないけれど、オフィスに適している。そのバランス感が小気味いいなと。ハイブランドのバッグをポイントにしていることも多かったような?
杉本 やっぱり社長なので!おしゃれは好きだけど働く女性として、TPOとのせめぎ合いはありましたね。ハイブランドのアイコンバッグは、着こなしのポイントにしています。ただ、仕事だからといってA4サイズが入るものとは限定していません。サイズ感は色々でいいのかなと。ファッションに合わせて、日替わりでバッグを持ち替えるタイプ。それから、とわ子は仕事の時はは必ず、腕時計をしています。ジュエリーウォッチではなく、時計ブランド、しかも手巻きのものしかつけません。4つ所有しているうちの3つがヴィンテージ。建築士という職業から、ものづくりの人と捉え、それを時計でも表現しています。ちなみに誰かに買ってもらうのではなく、すべて自分でコツコツと収集しているイメージ。
渡部 なるほどー、面白い。TPOだけじゃなくて、女性だからきっと、その時々の心情もファッションに反映されたんじゃないかな?
杉本 そうですね。かごめが亡くなった後はしばらく明るい色が着れなくなって、モノトーンやペールトーンが増えるんです。
渡部 確かに、洋服の色や柄の力をかりて自分を鼓舞するというよりは、元気が出るまで、自分が自分に寄り添う感じがとわ子らしい。
かごめの突然の死からしばらくは色も控え目。ちなみに黒ドレスは私が運営するファッションサイトTHE SHEで販売したNYブランド〈ドファネット〉のワンピース。放送から1日かからずにあっという間にソールドアウトに。
杉本 時間はかかるんだけど、新しい恋の予感とともにまた、着る服の色が一気にカラフルに戻る。
杉本さん曰く“浮かれカラー”を着て、新しい恋を意識し始めた頃。〈アドア〉のビタミンカラーのシャツワンピースでウキウキしているとわ子。
渡部 これまたとわ子らしい(笑)。そういえば、急にびっくりするくらい明るい色柄のワンピースを着たなー!と印象に残ってます。9話かな?発売前の〈Uniqlo and Mame Kurogouchi〉もいち早く登場して、それがプロモーションではなく、ドラマにすんなり馴染んでいたのもよかった。
杉本 あれは八作ともし結婚生活を続けていたら…という仮定のシーンで着ました。きっと社長にはならずに一級建築士のままで、家庭に割く時間も大きい。妻として、母としてという自分の役割がファッションに出る。実際のとわ子は色や柄を自由に着ているんだけれど、あのシーンではちょっと落ち着いた無地の服をさらりと着ているんですよ。色もアースカラーや黒、白が多く、意図せずして、八作とリンクしたりとか。
結婚18年目だったらの日常というシーンで、〈Uniqlo×Mame Kurogouchi〉が登場。確かに実際のとわ子とは違う生き方と想像させる、落ち着いた着こなし。
渡部 ええ、そうなんだ!もう一回、見直したいー。全話を通じて、改めて、装いとは生き方だなと思わせてくれた、とても心に残るドラマでした。杉本さんは、『着飾る恋には理由があって』の真柴の衣装も担当していたよね。どちらも、ドラマ→インスタグラム→ブランド、ショップの繋げ方が新しいと感じたけど、杉本さんの発案だったとか。
杉本 そうです。コロナ自粛中に韓国ドラマを観る機会が増えて、ハイブランドから旬のコンテンポラリーブランドまで、様々なブランドが自由に、自然に出てくるがいいなと思って。日本でもそういう仕組みを作りたいと思ったんですよ。
渡部 それはもう、本当に心から同感。韓流ドラマもK-POPもとびきり尖ったモードとカジュアルがぶつかり合うようにミックスされていて、本当に楽しいもんね。私も、コンテンツとファッション産業を新しい仕組みで繋いて、「かわいい」をもっと広めたいという次なる目標までいただきました。とりあえず、もう一回、これからもう一度、全話をおさらいします!もう何度も観てるんだけどね(笑)。
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渡部かおり
編集者・ライター。編集プロダクションFW(フォワード)主宰(Instagram:@fwpress)。GINZAをはじめ、様々な女性ファッション誌で編集と執筆の両方を担当するほか、広告のビジュアル制作、企業のブランディングやオウンドメディアの構築など。2020年6月よりファッションのウェブプラットフォームTHE SHEを運営(Instagram: @theshe_____)