「かわいい」。その言葉に理屈はない。直感で、右脳で。人は日々の生活の中で「かわいい」ヒトやモノ、コトを見つけて、思い、言葉にし、愛でる。それはきっと、好きのはじまり。だから「かわいい」は正義であり、哲学である。この連載ではファッションを通じて、女性の暮らしや生き方を通じて「かわいい」を追求し、その言葉の背景をとことん掘り起こして研究します。そこには、GINZA ガールズの背中をおす大切ななにかがあると信じて。さあ、「かわいい」ゼミナール、開講のお時間です!
編集者・渡部かおりの「かわいい」ゼミナール Vol.3 〈シモーン・ロシャ〉のドレスに見る「大人かわいい」とは。

—歳を重ねると新しいかわいいがある—
皆さん、こんにちは。半年に一度のモードの祭典、パリコレクション取材を終えて気持ち新たに「かわいい」の研究に邁進中、編集者の渡部かおりです。さて、今回のテーマは女性誌のタイトルでもよく目にする「大人かわいい」について書きたい。皆さんはこの造語からどんな女性像やスタイルを想像するだろうか?30代、40代と年を重ねても、フリルやレースのようなガーリーなアイテムを着こなす女性とかミニ丈のワンピースが似合う女性、はたまたストリートブランドが無理なく似合う女性といったところだろうか。Tシャツにジーンズのようなカジュアルスタイルを、カラーパンプスのような”キレイめ”の小物で大人っぽいスタイルに仕上げることという見方もある。
いずれにしても、この言葉って諸刃の剣だと思わずにはいられないのだ。「装うことは自分らしく生きること」というのが私のファッションに対する変わらぬ指針で、誰のためでもなく自分のため、自尊心を強くしたり、アイデンティティを愛するために、好きな服を好きなように着るべきだという確固たる考えを崩したことはない。それでも、思うのだ。「大人かわいい」は時に「若作りしてんじゃねーよ!」と紙一重である、と。自己肯定とは、他人からの肯定がなければ自己満足になってしまう側面も持っている。だって人間、そんなに強くはないもの。年相応か否か、「大人かわいい」か「いい歳してかわいこぶってる」か、自らのジャッジを間違えることもあるし、「若々しい〜。」などと言われると自信のなさから「本心?それとも嫌味?」とちょっぴり疑ってしまったり、よせばいいのに勝手に傷ついたりする。そんなちっぽけな私の目(というか、眼球レベル!)を思いっきり開かせ、一本の道筋を作ってくれたルックがある。
〈シモーン・ロシャ〉の2019-20年秋冬コレクションより
ロンドンブランド〈シモーン・ロシャ〉の2019-20年秋冬コレクションのランウェイに登場した、クロエ・セヴィニーのドレス姿である。レースにフリル、ピュアな白、パニエで膨らませたガーリーなシルエット。さらには前髪をピンで留め、おでこを露わにするという「かわいい」要素がてんこ盛りでありながら、それは完璧なまでに「大人」の着こなしなのだ。「こちとら、酸いも甘いも嚙み分けておりますんで!」と語りかけてくる毅然とした態度、ガーリー一辺倒を防止している男顔と40代の骨太体型。これぞ「大人かわいい」の真骨頂ではないだろうか。ちなみにパープルの入った深みのあるリップの色もぐっと腰を落ち着かせてみせるための、かなりいいエッセンスになっていると思う。実はクロエには6年ほど前にインタビューしたことがある。その時は原宿の竹下通りで買ったというボリュームたっぷりのチロリアンテープつきギャザースカートを穿いていた。そのときは「さすがオシャレ番長、個性的なアイテムがお似合いでかわいい♡」と憧れはしたが、装い、そしてそこから導かれる女性の人生を考察するまでには至らなかった。大人こそ思いっきりガーリーなドレスを堪能せよと示してくれたシモーン・ロシャと、年を重ねた90年代のファッションアイコン、クロエ・セヴィニーよ、本当にありがとう。今シーズンの私的No.1ルックとして、デスク前の白壁にでかでかと写真を貼り付けた。
ともに〈シモーン・ロシャ〉2020年春夏コレクションより。
先ごろ9月に行われた2020年春夏シーズンの<シモーン・ロシャ>もますます「かわいさの凄味」が増していた。アイルランドの伝統祭事のひとつである「Wren Boys(レン ボーイズ)」をテーマに掲げ、トレンドのラフィアを編み込んだ軽やかなドレスやクラシックなテーブルウエアから着想を得た青いプリントのラッフルスカートなどを見せた。モデルにはアイルランド出身、63歳の舞台女優レスリー・マンヴィルを起用するなど美の多様性をどんどんと広めている。パリコレ期間中にショールームにお邪魔して撮ってきた、人気の靴バッグ、アクセサリーも載せておきたい。なんだかおもちゃみたいに親しみがあって、笑みがこぼれるかわいさだ。
さて、今回の宿題は今すぐにできることで、なおかつ大切なことだ。「大人かわいい is not 若作り!」の標語を10回心の中で唱えること! さあ、皆さんご一緒に!! 私は唱え終えてから、この秋はドレスを着ようと思う。足元はいつも通りのスニーカーだが、ちょっとダークなリップをひと塗りして「大人かわいい」をポジティブに楽しむことをここに宣言する。今日の「かわいいゼミナール」はここまで!
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渡部かおり
編集者・ライター。編集プロダクションFW(フォワード)主宰。GINZAをはじめ、様々な女性ファッション誌で編集と執筆の両方を担当するほか、広告のビジュアル制作、企業のブランディングなど。近著は『英国ロイヤルスタイル』(クレイヴィス刊)Instagram:@fwpress