ついに最終話(10話)を迎えた『コントが始まる』(日本テレビ 毎週土曜夜10時〜)。やっぱり「マクベス」は解散してしまう。「マクベス」3人の中で、唯一道を見失っていた春斗(菅田将暉)も、あるきっかけでこれまでとは違う道を歩き始める。だがその選択は「マクベス」の日々を否定するものではなかった。ゲーム作家でライターの米光一成は、全10話を振り返りながら、いつかまた「マクベス」と中浜姉妹とが集まって過ごす日々を観たいと切望し、半ばそれを確信している。
菅田将暉×神木隆之介×仲野太賀『コントが始まる』涙の最終話。だが、いつか5人はまた集まる
それぞれがそれぞれの道を歩み始める
「コントが始まる」が終わってしまった。
最終回、新ネタは「引っ越し」だ。
解散ライブも終わり、「マクベス」の3人はそれぞれがそれぞれの道を歩み始める。
高校の同級生3人、春斗(菅田将暉)潤平(仲野太賀)瞬太(神木隆之介)は、コントグループ「マクベス」を10年間つづける。売れない。解散することを発表して、解散するまでの三カ月間の日々が描かれた。
中浜さん(有村架純)は、アルバイト先のファミレスで、常連客の「マクベス」3人と出会う。そしてファンになる。はじめて観に行った単独ライブの最後に解散が発表される。
妹は、つむぎ(古川琴音)。瞬太(神木隆之介)が通ってるスナックでアルバイトしている。
この5人に加えて、潤平の彼女である奈津美(芳根京子)、瞬太のバイト先の大将(伊武雅刀)、3人の恩師である真壁先生(鈴木浩介)、マネージャー(中村倫也)、スナック「アイビス」のママ(松田ゆう姫)などなど、「マクベス」に関わる人たちも魅力的だった。
コントのなかで演じたことが未来に
最終話のラスト、「コントが始まる」というタイトルにピタッとハマって、「見事!」だった。
なんでもないことがきっかけで就職できてしまう人たちに、「人生ってそんなラフに決めていいもんなの」「たったそれだけのことを働く理由にできるもんなの」と質問していた春斗だった。冷蔵庫をじゃんけんでゲットして、その冷蔵庫に貼られたマグネットシールを観るという何でもないことをきっかけに就職先を決めてしまう。だけど、それが1話のコントと円環を結ぶことで物語構造としてもばっちりハマったうえに、何でもないことで決めたようでいて、コントのなかで演じたことが未来に結び付いていることを描き出した。
「成果が出せなかったように思えても、青春のように熱くがんばった時間は無駄にならない、そのことが未来につながっている」と文字にしてしまえば「なーんだ」と言われてしまいそうなことを、物語全体で、まるごと伝えてきた
複雑な「泣き」が揺さぶった
見事な伏線の回収の数々は、そのことそのものが気持ちのよい構成だったが、それが伏線の回収としてハマっていたこと以上に、登場人物の想いがグッと伝わってくる要素として作用していたからこそ素晴らしかった。特に1話、2話、そして最終話ラストの見事さに泣かされた。
泣くシーンが多いドラマだった。多すぎやしないか。つられて泣いて、泣き疲れた。
ただ悲しくて泣くのではなくて、笑いながら泣いたり、悔しさと怒りの混ざった涙だったり、言葉にはしにくい感情の動きだったり、そういった複雑な「泣き」が、ドラマの展開と役者陣の力で、観る者の気持ちを揺さぶった。
スピンオフのドラマとして、また観せて
脚本家の金子茂樹は、ドラマ『俺の話は長い』(傑作!)につづいて、「こいつは定職に就かないな!」という男を、二度も定職に就けてしまった。
『俺の話は長い』で、屁理屈ばかり言って働こうとしなかったニートの岸辺満(生田斗真)が、スーツ姿で歩くラストシーンで「がんばれ!」と泣きながら応援しながらも、「定職に就かなくてもいいのにー、ずっといまのままの満でいてよー」とも思ったのだった。
フリーで活動している自分としては、春斗には定職につかない未来を望んでいた。ピンでも他の人と組むのでもいいので芸人を続けるのではないかと予想していた。
潤平が実家を継ぎ、瞬太が大将の居酒屋で働くとなれば、春斗は、定職につかずフリーで活動するっていう未来もある(ドラマのバランスとしても3人がそれぞれ違う方向に向かって歩き始めるほうがいいもの!)。
だが、9話で、瞬太が「冒険王になる!」と言い出しちゃうのだ。つむぎちゃんと恋人になり、大将と熱い契りを交わしたのに、ダメでしょそれは──と思ったが、瞬太らしいといえば瞬太らしい。
「マクベス」の3人、そして中浜姉妹の合計5人の人生は、三カ月間で大きく変わった。「マクベス」の解散が大きな分岐点として作用した。
「マクベス」の3人はそれぞれの道を歩きだした。少し悲しい。悲しいけど、それは幾度もの涙を(三か月のあいだに何回泣いてるんだ、おまえたちは!)乗り越え、悩み、お互いが影響を与えながら選んだ道だ。
「マクベス」の3人が(中浜姉妹を入れて5人が)すぐにまた集合して楽しそうに会話することはないだろう(何しろ瞬太は海外に行っちゃったし)。
だが、いつか5人はまた集まる。
演じた20代の5人にとってもそうだろうけど、ドラマを観ていた我々にとっても、この作品は気持ちの中の宝物になった。
「コントが始まる」ロスだなんて言わないから、再び集まって楽しそうに話す様子をスピンオフのドラマとして、また観せてほしい。すぐじゃなくてもいいから(ほんとうに数年後でいいから)。
『コントが始まる』公式サイト(日本テレビ)
脚本: 金子茂樹
演出: 猪股隆一、金井紘
出演: 菅田将暉、神木隆之介、仲野太賀、有村架純、古川琴音、松田ゆう姫 他
主題歌: あいみょん「愛を知るまでは」
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Illustrator オカヤイヅミ
漫画家・イラストレーター。著書に『いいとしを』『白木蓮はきれいに散らない 』など。趣味は自炊。
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