ミュージシャンから直オファーが絶えない服部昌孝は、どんなことを考えてMVと向き合っているか。普段は語られない、あの曲の、あのシーンを解説。
スタイリスト服部昌孝のMV×ファッション考察 あいみょん編

あいみょん
「マリーゴールド」
①メンズのアロハシャツ
②スラックス
③ローテクスニーカー
服部さんがあいみょんのMVを手がけた2作目。「目に留まる、何か引っかかりが欲しいと思い、マリーゴールドとリンクさせたオレンジ色のアロハシャツに。それもメンズサイズを着せて、裾は縛りお腹を見せてあくまで着こなしは女性らしく。あいみょん流がここで生まれました」(服部さん)
「プロップでもっと黄色やオレンジを入れる予定でしたが、シャツ姿がとても素敵だったので服以外の要素を減らしました。それぐらいインパクトがありました」(監督 山田智和さん)。「着飾らず自然体。その像を作ったのは服部さん。彼が用意する服はいつも被写体になじむ」(プロデューサー 沖 鷹信さん)
「青春と青春と青春」
①総柄のニットキャップ
②リストバンドと指サポ
③アディダスのヴィンテージTシャツ
④オレンジ色のベルトを巻いたワークパンツ
「ジオラマ越しに、脱力した映像を撮ると監督に聞き、哀愁漂うムードに合わせて80sから90sの古着をかき集めました。MVではロゴが目立つ服はあまり使われませんが、あえてアディダスの旧ロゴのTシャツ姿に。上半身中心の撮影だったので、ニットキャップや、アクセサリー感覚でリストバンドや赤の指用サポーターを取り入れて、寄った時にユルく見える味つけをしています」(服部さん)
「作品のテーマと、撮りたい画を伝えただけで、細かなところまで私の話しをくみ取って服の年代やムードを考えてくれます。カメラを覗いた時には必ずバシっと決まる。一緒に仕事をしていて本当に心強い」(監督 Pennackyさん)
「さよならの今日に」
①バブアーのコート
②ミントグリーンのセットアップ
「古い建物を壊し、新しく生まれ変わろうとする渋谷が舞台。そんなスクラップ&ビルドを服でも表現するため、バブアーのコートの中には清廉なミントグリーンのセットアップとボーダーTをイン。コートを脱ぎ捨てる楽曲終盤のシーンは、舞台となった渋谷とファッションがリンクする狙い通りの画作りになりました」(服部さん)
「日本の最先端の場所が更地になった不思議なロケーションに対して、どこか時代がわからず、性別も超えたスタイリングを服部さんがあげてくれたとき、演出が一本の線でつながったような感覚になりました」(監督 山田智和さん)
「愛を知るまでは」
①セーラーハット
②ヴィンテージTシャツ
③ネイビーストライプのセットアップ
④ローテクスニーカー
「シェイプの少ないスーツは、今では彼女を象徴するスタイルになりました。楽曲の王道感に合わせて、本作ではネイビーに。セーラーハットをかぶせると、どこかクセが出て、その人らしさが宿る。この曲を通じて、自分らしく着ることの本質を伝えたかった」(服部さん)
「表現したかったのは、風が吹いて土埃が舞う、その中にある砂のきらめきのような詩情。あいみょんさん独自の気品を服部さんがスタイリングで体現してくれました」(監督 小林光大さん)
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あいみょん
シンガーソングライターという枠を越えて、DISH//のヒットソング「猫」など、ミュージシャンへの楽曲提供も手がけ、非凡な才能を発揮。MVやライヴの衣装、私服も注目を集める現代のファッションアイコン。
短所を隠すなんてもったいない
服部さんがMVのスタイリングで常に考えているのは、被写体の短所は消さずに、それもすべてさらけ出すこと。
「本人がコンプレックスに感じていることが、実はいちばんの武器になる。顔のホクロとか、大きいお尻とか、人それぞれ抱えている悩みはいろいろあるけど、そのほとんどがまわりとは違う自分だけの個性。それをウィークポイントと捉えるかどうかの違いなだけ」
武器となるものを客観的に伝えたうえで、お互いが納得できるスタイルを仕上げていくのが服部さんの進め方。
「ファッションアイコンをつくるのだってスタイリストの仕事です。どこかに提案があったり、今っぽかったり、真似したかったり、目に留まる要素をスタイリングに忍ばせることもしています。時には、業界でタブーとされることにも挑んできました。たとえば、メンズ服を女性に着せたのも、そう。今では、当たり前の文化として街にまで浸透していますが、それもアーティストを通じて、そこそこ時間をかけて発信し続けてきたこと。世の中に対して、新しい価値観をどうブーストさせるか。その答えが、今の時代はMVだと思い取り組んでいます」
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服部昌孝
2016年yahyelのMV「Alone」をきっかけに音楽シーンでもスタイリングを担当。制作会社「服部プロ」では作品の製作総指揮をとる。