見過ごしてしまうような風景も、作品の中ではいつもとは異なる表情に映るもの。GINZAでおなじみのライター陣が紹介するのは、実在の場所が登場するおすすめの作品。思わずロケ地巡りに出かけたくなる、あのシーンの舞台、ここなんです!
🎨CULTURE
水辺に遊び歴史に触れる。あの漫画の舞台になったのは?スケラッコ『みゃーこ湯のトタンくん』
『みゃーこ湯のトタンくん』(21)
スケラッコ
都湯-ZEZE-(滋賀県大津市馬場3-12-21)
銭湯の暖簾をくぐると番台にはタキシードキャット。大きなあくびも香箱をつくって眠る姿もかわいい!看板猫かな?と思いきや、大将と呼ばれるその猫がやおら法被を羽織り、常連の猫たちや番頭見習いのハラさん(唯一の人間)とのやりとりが始まって、不思議の世界へカラリ、カポーン、チャポリ。猫のトタンが営む「みゃーこ湯」へ招き入れられる。
琵琶湖近く、滋賀の膳所と呼ばれる土地で約半世紀の間営業していた「都湯」と、2018年からそこを引き継ぐハラさん&トタンをモデルに生み出された猫の街の銭湯漫画。虚構と現実って別のもの?世界は並行しつつ反射によって絡まりあっているの?境界って誰が引いたの?哲学的ともいえる問いを背骨に、記憶と日常を鍵として世界を反転させる作者の手つきは鮮やかで、人間関係ならぬ猫関係も活写しながら平熱を保ち続ける語り口のバランスもお見事。猫漫画の歴史に深い爪痕を残すに違いない傑作を堪能したら、読み終えてなお続く作品の手触りが消えないうちに琵琶湖畔へ!地下60メートルを流れる天然地下水薪沸かしの湯を、サウナと水風呂を目指し、彼らとの再会を楽しみに「都湯」を訪ねたい。
『みゃーこ湯のトタンくん』(21) スケラッコ ミシマ社/¥1,650
Illustration: Toshikazu Hirai Selection&Text: Hikari Torisawa Edit: Tomoko Ogawa