林遣都と仲野太賀がW主演を務めるドラマ『初恋の悪魔』(日本テレビ)。馬淵悠日(仲野太賀)が兄の死の謎に迫っていく一方、鹿浜鈴之介(林遣都)と摘木星砂(松岡茉優)の関係も次第に近づいていくが……。ドラマを愛するライター釣木文恵と漫画家オカヤイヅミが8話を振り返ります。(レビューはネタバレを含みます)→7話のレビュー
林遣都×仲野太賀『初恋の悪魔』8話。初恋の悪魔=署長? 伊藤英明がますます怪しい
たった4桁の数字に込められた物語
「なんというか自分にとっては、おかしな言い方ですが、雪松さんは初恋の人のようなものです」
馬淵悠日(仲野太賀)の兄・朝陽(毎熊克哉)を知る同僚・本城(神尾佑)が語る、在りし日の朝陽の発言だ。まさか、ここで「初恋」が登場するとは!森園(安田顕)たちの疑いが的中していたのだとしたら、初恋の悪魔=雪松署長(伊藤英明)ということになるだろうか。
8話は、朝陽の日々を悠日が辿る回だった。ようやく中身を確認することができた朝陽のスマートフォン。そこから見つけられたのは、空と蕎麦ばかり撮影し、トイレットペーパーを買ったりクリーニングを出したりする、平凡な男の姿。そして事件を通して関わった人たちと今も交流をもつ、よき刑事の姿。カレンダーに弟の誕生日を記録し、「弟のようになりたかった」と話す、兄の姿だ。
中学生の頃からずっと、暗証番号には「七転び八起き」を意味する7580を使っていた朝陽。朝陽と悠日が交互に「七転び八起き」と祈るようにつぶやきながらロックを解除するシーンは、静かに胸を打つ。朝陽は悲しいことがある日も、「七転び八起き」と念じながらスマートフォンを開き続けてきた。そんな兄のことを知った悠日が、同じように「七転び八起き」と繰り返す。たった4桁の数字、スマホの暗証番号というありふれたささやかな場所。そんなところに込められた物語。このドラマの魅力のひとつが凝縮された場面だった。
兄の軌跡を通じて、両親が単純に悠日にだけ冷淡というわけでもないとわかったのもよかった。なんだかほっとした。兄と弟の両方ともが傷ついていたという意味では決していい親ではないかもしれないけれど、悠日が兄に感じていたコンプレックスは、決して一方通行の矢印ではなかったのだ。
別れがたいふたりの星砂
8話も7話に引き続き、摘木星砂(松岡茉優)は星砂2(途中から現れた、ヘビ女と呼ばれる人格)だった。けれど、星砂1(もともとの星砂の人格)が、一瞬だけ帰ってきた。
悠日のカレーが引き金になったのか、宅配便を受け取り、サインをしようとしたその瞬間、星砂2が星砂1に変わった。カレーを食べ終えて悠日の家へと駆け出した星砂1は、ドアの前で、もう少しで悠日と会えるその直前で再び星砂2になってしまう。せめて一瞬だけでも、星砂1と悠日を会わせてあげたかった! なんて残酷なんだろう。
星砂1が鼻をすすりながら悠日のカレーを食べるシーンでは、同じく坂元裕二脚本の『カルテット』(TBS)にあった「泣きながらごはん食べたことがある人は、生きてゆけます」という言葉が浮かんだ。星砂1はまた帰ってこられるだろうか。
星砂2は、ずっと消極的だ。「私が死んでも代わりはいるもの」とばかりに「私が消えても摘木星砂さんは残りますよ」と鹿浜鈴之介(林遣都)に話す。7話でも「今のこれを思い出にはしないでください」「私たちには何も思い出はありません」と鈴之介に伝えていた星砂2。けれど、二人して同じケーキを買ってきてしまったこと、お互いにうまくいちごをフォークでつかまえられないこと、そして将来はお互いひとつの無人島に別々に住んで、週1くらいで会うという話。それを「楽しみだな」と笑い合う、こんな時間が思い出に残らないわけがない。
回を重ねるうち、どちらの星砂とも別れがたくなってきてしまった。いったいどうしたらいいのだろう。
事件の鍵を握るのは雪松の息子?
本城は悠日に「あんたのお兄さんは雪松に殺された」とはっきりと言った。朝陽は雪松を「初恋の人」と形容したけれど、本城は「刑事にとって上司は親」「あのときのあんたのお兄さんは、暗い森のなかで父親においていかれた子どもみたいなもんだったろう」と表現した。
朝陽にとって初恋の人であり、父親でもある雪松は、本当はいったいどんな人物で、何を抱えているのか。
8話ラストで悠日と小鳥琉夏(柄本佑)は雪松を尾行する。自宅前でコンビニに出かける息子(菅生新樹)に「いってらっしゃい」と声をかける雪松。それに対して息子の「ありがとね」という返事はまあなくもないけれど、ちょっと不思議な気もする。雪松の息子と3件の殺人事件には、もしかしたらなにか関わりがあるのかもしれない。
「いつだったか、初めて君がここに来た日に言ったな」
「この世には知らないほうがいいことがある」
鈴之介と悠日の会話だ。鈴之介は「知らないほうがいいことがある」と思っている。それでもいま、星砂2のために真実を知ろうとしている。悠日も兄と、そしてふたりの星砂のためにも、知ることをやめようとしない。真実はいったいどこにあるのだろう。
脚本: 坂元裕二
演出: 水田伸生、鈴木勇馬、塚本連平
出演: 林遣都、仲野太賀、松岡茉優、柄本佑 他
主題歌: SOIL&”PIMP”SESSIONS『初恋の悪魔』
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Writer 釣木文恵
ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。
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