私たちに作品が届くまでの裏側を知りたい!映像制作に携わるたくさんのスタッフの例とその役割のリストはこちら〜お仕事紹介編〜今回は、話題のドラマを手掛ける編集のプロフェッショナルに取材、興味津々の現場について教えてもらった。#ドラマ制作に関わる職人たち
ドラマ制作に関わる職人たち〜編集編〜
編集
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お話を聞いた人:普嶋信一
ふしま・しんいち>> 編集技師。映画『舟を編む』で日本アカデミー賞最優秀編集賞受賞。担当ドラマに『深夜食堂』『パンとスープとネコ日和』や、NHK BSで放送された『団地のふたり』が。
「テンポがいい」は危険!?
作品ごとのリズムに乗って、感情重視でショットをつなぐ
編集歴40年を迎えるベテランでいて、意外なほど物腰が柔らかい普嶋信一さん。
「普段は映画業界で働いているので、ドラマを手掛ける時は、組んだことのある映画監督の作品に声をかけていただく感じです。映画『かもめ食堂』の荻上直子監督や『マザーウォーター』の松本佳奈監督だとか」
ちょうど取り組んでいたのは、松本監督が演出するドラマ『団地のふたり』。主人公は小泉今日子さんが演じる野枝と、小林聡美さんが扮する奈津子。50代で独身、実家暮らしの幼馴染二人が、生まれ育った団地で繰り広げるユーモラスな友情譚だ。
「3月に松本さんからお声がかかり、台本を送っていただきました。それをパラパラ読み、まずは作品特有の“平均速度”を考えます。『団地のふたり』の場合、のんびりとした時速40キロのイメージでした。同時に、映像素材に触れる新鮮さが薄れないよう、あまり台本を読み込みすぎないように気をつけてもいて。やっぱり“最初の視聴者”でありたいので」
クランクインすると、すぐに映像素材が普嶋さんのもとに届きはじめる。
「テレビドラマは尺が決まっているので、本当は時速40キロが理想でも、アクセルを踏んで48キロで行かざるをえないことも。すると編集は小刻みになり、自ずとテンポがよくなります。これには落とし穴があって。脚本家が込めた意図、監督の狙い、俳優がセリフを言い終わった後の表情など、大切なものが削がれてしまう可能性もあるんです。そうなっていないか、流れをチェックする時に最も気をつけるポイントです」
感情が一貫して伝わる編集を。それが普嶋さんのモットーだ。
「“アクションがつながる”という言い方を耳にしたことがあるかもしれないですが、僕はあんまりそこを気にしない。演じられた感情が途切れてさえいなければいい。特定のショットについて複数テイクがある場合、感情が一番出ているものを選びます」
あれこれ試し、この編集ならばと思えた時点で、監督に確認してもらう。
「監督のチェックはいつもドキドキします。いまだに『全然違う』と叱られる夢を見るくらい(笑)。『団地のふたり』は幸い、いい感じで進んでいますけどね」
仕事をしていて最も高揚するのは、劇中の世界に引き込まれる時だという。
「編集室で一人、映像と向き合っていると、不意に野枝と奈津子が散歩しているところや、団地の部屋でおしゃべりしている横に居合わせているような感覚になることがあって。『この人たち、なんかまたヘンなこと言ってるなぁ』なんて笑っていると、アシスタントに話しかけられ、スッと現実に引き戻される。後から振り返ると、僕はそのシーンに入り込んでいたんだなって。この現象が起きるのは、やっぱりいい作品の時。自分でも気づかないうちに通り過ぎていく、楽しく貴重な瞬間です」
Photo_Kanta Torihata(portrait) Text&Edit_Milli Kawaguchi