私たちに作品が届くまでの裏側を知りたい!映像制作に携わるたくさんのスタッフの例とその役割は、スクロールした先の「ドラマのお仕事INDEX」を参考に。その中から、話題のドラマを手掛けるいくつかの分野のプロフェッショナルに取材。興味津々の現場について教えてもらった。#ドラマ制作に関わる職人たち
ドラマ制作に関わる職人たち〜お仕事紹介編〜
プロデューサーに聞く、
テレビドラマができるまで
数々の話題作を制作してきたプロデューサーの佐野亜裕美さんによれば、テレビドラマの企画のはじまり方には、現状大まかに3パターンがある。
「原作があるか、俳優が先に決まっているか、監督やプロデューサーがゼロから立ち上げるか。いずれのケースでもプロデューサーが企画書を書き、それを局内の編成の部署が選定します。判断材料はさまざまです。地上波放送ドラマとしての判断以外にも、民放であれば、商業的なメリットももちろん検討されます。プロデューサーは、いかに企画が面白いかだけでなく、配信やグッズ販売などの2次展開まで含め、どういうビジネスの可能性があるかもプレゼンするケースが増えました」
佐野さんが主戦場にしているゴールデンプライム帯の民放ドラマの場合、企画が通る時期は放送の1年〜1年半ほど前だそう。
「その時点で、まず脚本家や監督を決定し、スケジュールを押さえます。次いで決めるのは、各部署のヘッドにあたるスタッフ。部署の分け方もチームによりますが、例えば『エルピス−希望、あるいは災い−』の時は大きく3つ、プロデューサーや監督のいる制作演出部、撮影監督が率いる技術部、美術プロデューサーが率いる美術部に分かれていて。まず撮影監督にオファーし、その方と共に他のスタッフの布陣を詰めていきました」
あわせて、プロデューサーは脚本家と共に脚本開発を行う。
「あくまで自分の場合ですが、組む脚本家によってどう関わるかは変わります。例えば『カルテット』の坂元裕二さんは書きたいものがはっきりされているので、私はそれを実現するための調整やリサーチに徹することが多い。一方で、『エルピス〜』の渡辺あやさんは先にプロットを固めることをしないので、各話で事件がどう展開するか、私が大枠のラフをつくって密にやりとりしながら書き進めていただきました。脚本への取り組み方はさまざまなので、才能を最大限に発揮できるよう奉仕したいという思いがあります」
その後キャスト側の都合もふまえつつ、おおよそ放送の半年前にスタッフ全体の撮影期間中のスケジュールを確保し、2〜3カ月前にクランクインするのが一般的だとか。
「それまでに衣装やロケ地、スマホ画面に何を表示するかに至るまで、あらゆる細かい打ち合わせをギリギリまで重ねます。いざ撮影が始まると、並行して進むのが、編集やVFXなどのポストプロダクション。作品の質を高めるには、放送開始までにクランクアップし、ポスプロになるべく時間をかけるのが理想的ですが、なかなかそうはいかないのが実情です。各話の完成は、私が所属している関西テレビの場合、放送1週間前くらい。同時配信に間に合わせるため、比較的余裕をもっていますが、局ごとに納期は異なるようです」
最後にドラマの制作現場において今後やっていきたいことも聞いてみた。
「ドラマは総合芸術ですし、関わる全員が等しく"作品の奴隷"だと私自身は思っていて。一人一人が『もっとこうしたら面白くなるのに』という意見をもち、ディスカッションできる環境であれば、自ずと楽しいものが生まれるはず。ただ日本の経済が縮小していく中でドラマの制作費も下がっていて、やりがい搾取を避けるために予算を確保したい。そこで掲げた課題は、いかに韓国やアメリカのドラマのように、グローバルヒットを目指すか。それには先行投資が必要です。別にスケールが大きい物語を望んでいるのではありません。作品規模は今までと同じでも、スタッフが人間的な生活を送りながら、丁寧にものづくりできる環境を整えたいというか。言葉にすると当たり前のことすぎてイヤになるけど(苦笑)、実現させるべく動いています」
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佐野亜裕美
さの・あゆみ>> テレビプロデューサー。『カルテット』『大豆田とわ子と三人の元夫』『17才の帝国』『エルピス—希望、あるいは災い—』等を担当。
Text&Edit_Milli Kawaguchi