ますます活気づく韓国のブラックミュージック。その人気は海を飛び越え、日本をはじめとするアジア全体、そしてヨーロッパやアメリカ全土にまで広がりを見せている。その中でも特別な存在感を放つR&Bアーティスト、DEANに話を聞いてみた。
ミレニアル世代の心を動かしたヒット曲『Instagram』。DEANに創作の秘密を訊ねた

唯一無二のシルキーヴォイス、サウンドとヴィジュアルの両面から漂う無国籍なムード、常に新しい音を生み出す独創性。DEANが生み出す音楽はいつだってエポックメイキングだ。歌唱力、オリジナリティ、ファッション性、クリエイティビティのすべてを兼ね揃えた時代の寵児。欧米のビッグネームとの相次ぐコラボレーションでも音楽ファンを驚かせ続けている。
2018年12月某日某所。ライブ出演のため日本を訪れていたDEANと会った。実は私は2年前にも一度DEANにインタビューをしている。その時は彼を日本のリスナーに紹介する意味合いもあったため、音楽的バックグラウンドなど表面的な話を多めに聞いた。だから今回はもう少しDEANのアーティストとしての本質を引き出すべく、大ヒット曲『Instagram』や最近リリースされた新曲『カゲロウ(dayfly)』の制作過程など細かい部分を掘り下げてみることにしたのだ。
この2年でアーティストとしてさらなる発展を遂げたDEAN。華やかに見えるその姿の裏には、一体どんな本音が隠されているのか。この間に芽生えた心境の変化、それに伴う音楽性の変化、そして自分自身や音楽に真っ直ぐ向き合うDEANというひとりの人間の内面を探ってみた。
──2016年に続き、今回は2度目の来日ライブでしたね。前回もすごい人気でしたが、あれからさらに知名度も上がり、ファンもかなり増えました。実際に日本のファンの反応やライブの様子など、前回と何か違いは感じましたか?
うーん、特に違いは感じなかったですね。だけど前回よりもたくさんのファンが来てくれて、おかげですごく楽しいライブになったと思います。ファンと会えることは、いつも同じくらい嬉しいです。
──今回はミート&グリートも実施しましたよね。普段はファンと直接コミュニケーションする機会がなかなかないと思いますが、どうでしたか?
コミュニケーションと呼べるほどじっくり会話はできなかったけど、短い会話をする中でおもしろい質問をしてくれたり、プレゼントをくれるファンもいて、特別な時間になりました。ファンの皆さんにとっても良い思い出にしてほしくて、僕もフレンドリーに接しました。
──おもしろい質問って、例えば?
うーん……何だったっけ?(笑)
──あはは。(笑)
間違いなくその場ではおもしろいと思って笑ったり慌てたりしたんだけど、今こうやって急に思い出そうとすると出てこないですね。(笑)
──では、続いて、今からちょうど1年前にリリースされたシングル『Instagram』について聞きたいです。この曲は、インスタグラムを見て憂鬱になる気持ちを表現したんですよね。
はい。
──インスタグラムをはじめ、SNSというのは自己表現やコミュニケーションなどの面で、それがなかった時代に比べたら可能性を大きく広げたツールです。一方でそれによって苦しい思いをする人が多いのも事実です。実際にDEANさんはインスタグラムについてどう感じていますか?
僕もインスタグラムを見ると挫折感というか、「あの人はああなのに、なんで僕はこうなんだろう」って落ち込むことが多いんですよ。一方では、アーティストとしてのイメージを直観的に見せられるものでもあって。面倒な部分もあるけど、趣味として楽しくもあり、アーティストとして有効なツールでもあり、複合的なものだと思います。トータルで言えば、好きです。
──歌詞の中でSNSについて言及した曲は他にもいくつかあるけど、これをメインテーマに掲げた曲というのはありそうでなかったと思います。このテーマで曲を作ろうと思ったきっかけは?
僕が好きな昔のアーティストたちを見てみると、その時代ならではのもの……例えば小説とか曲とか、その時代背景を表すようなものが作品に込められてるなって思って。地球が2800年まで存在しているか分からないけど、これを作ったのが2017年、今は2018年ですが、今この時代に最も大きな影響を与えているメディアがインスタグラムだと思うんです。21世紀の社会と密接に繋がっているもので、今の時代背景を最もよく表すことができるキーワードとして魅力的だと思いました。
──特にDEANさんのファンはインスタグラム世代のど真ん中が多いので、大きな共感を呼んだでしょうね。実際にファンや周辺の人たちから共感の声は届きました?
えーっと、はい(笑)。
──はい(笑) 。DEANさんは元々フューチャービートで名を馳せて、どちらかと言うとアップテンポでキャッチーな曲が多かったです。バラードの場合も、切なさや悲しさを出すのではなく『D (Half Moon)』や『Limbo』のようにメジャーコードで美しく奏でていましたよね。
はい、その通りですね。
──でも『Instagram』は、マイナーコードで切ない雰囲気の曲です。そういう音楽性の変化ってあえて狙ったんですか?それとも自然にそうなった?
狙いました。多くの人々がDEANというアーティストに対して、とても華やかで、かっこよくて、ファンシーなイメージを抱いてますよね。でもそのイメージって、僕が子供の頃から持ってる元々の性格とはかなりギャップがあるんですよ。だからもっと自分らしい姿を音楽で表現したくなったんです。マイナーコードになったのも、その結果のひとつですね。
──メロディやリズムも、それまでの欧米風なものに比べると、どことなく韓国っぽいですよね。
そうですね。前まではアメリカっぽいものとかポップな感じがかっこいいって思ってたけど、今の世界のマーケットを見渡してみると、むしろ韓国っぽさを出したほうがいいんじゃないか、それって自分にしかできないんじゃないかって思うようになったんです。僕は欧米の音楽からたくさん影響を受けたけど、そこに韓国的なエッセンスを加えてみたい、それこそが自分にできることなんじゃないかって。
──うーん、なるほど。そういう意図で起こした変化だったんですね。11月にはニューシングル『カゲロウ(dayfly)』がリリースされました。
はい。
──アイドルグループ「f(x)」の元メンバーであるソルリさんを起用しました。とても意外な人選だったため韓国ではかなり話題になりましたが、彼女を起用することはDEANさん自身が思いついたんですか?
はい、そうです。他にも何人か候補はいたんですけど、いろいろ考えた末にソルリさんに決めました。
──そうなんですね。彼女の新しい魅力を大衆に知らせる曲になりましたよね。
わあ、ありがとうございます!
──この曲にはRad Museumさんもフィーチャリングしていますよね。DEANさんと同じく「clubeskimo」と「you.will.knovv」両方のクルーに所属しているそうですが、どう知り合って、一緒に音楽をやるようになったんですか?
ソウルのホンデでやってた展示会に行った時、すごくかっこいい絵を見つけたんですよ。それで「この作家と会ってみたい!」って思って連絡してみたんですけど、その作家がまさにRad Museumなんです。
──へぇ~!
その頃はイラストレーターとかデザイナーとして活動してたんです。それでデザインの依頼をしたのが始まりで、そこから仲良くなりました。そのうち彼が音楽もやりたがってることが分かって、試しに一緒に作業をしてみたんです。そしたらすごい才能で! それ以来一緒にやるようになりました。音楽を始めてから時間がそんなに経ってないのに、本当にすごい才能の持ち主ですよ。
──そういう経緯だったんですね。ちなみにそのホンデで見たRad Museumさんの絵は、どういった作品だったんですか?
イラストだったんですけど、本当に独特で。その人にしか描けない独特なアートでした。うーん、絵のことを言葉で説明するのは難しいですね(笑)。とにかく見た瞬間に「わあ、かっこいい!これを描いた人と一緒に仕事がしたい!」って思ったんですよ。
──DEANさんは、アートや写真に関心が高いですよね。インスタグラムも芸術的な感じだし。どういったアートが特に好きですか?古典的な美術なのか、現代アートなのか、絵、写真、彫刻、いろいろあると思うんですけど。
アートに関しては全般的に関心がありますね。難しいものかどうかではなく、そのアーティストが表現したいものを形にした作品が好きです。「この作家は何を表現しようとしたのかな?」って考えるのが楽しいです。どんな種類のアートであっても、その作家がどんな考えでそれを作り上げたのか、自分なりに推理したり想像したりすることが好きなんです。
──さすがアーティスティックですね! ではまた『하루살이(カゲロウ)』の話に戻ります。この曲はDEANさんのほかに2xxx!、marldn、No Identityと計4人がプロデュースに参加していますが、どういう役割分担なのか知りたいです。
えーっと、秘密です。(笑)
──ええっ!(笑)
あはは(笑)。なんて説明したらいいのかな?各自の役割はもちろんあるんですけど。you.will.knovvという集団そのものの話になるんですが、姿もほとんど見せず、秘密裏に活動しているクルーなので、内部の詳しいことは秘密なんです。
──それじゃあ仕方ないですね(笑)。では、プロデューサーはいつもどういった基準で起用するんですか?
視野というか、視点が僕と似ている人を常に探しています。プロデューサーに限らず、アーティストであっても、フォトグラファーやビデオディレクターであっても同じです。you.will.knovvを一緒にやってる仲間たちもそうですが、キャリア以前に僕と同じヴィジョンを持ってることが重要です。
──この曲にはさらにもうひとり重要人物が関わっています。グラミー賞にノミネートされたカナダ人アーティストのDaniel Caesarがバッキング・ボーカルで参加してますよね。一緒にやったきっかけは?
彼が韓国に来た時、一緒にセッションしようって話になったんですよ。それでいろいろ一緒に作ってみたんですけど、その時の素材を編集してこの曲で使ったら良さそうだなって思ってDanielに聞いてみたんです。「使っていい?」「もちろん!」みたいな感じで。だからこれといった特別な背景は……。
普段からもそうだけど、僕が一緒にやるアーティストたちって、大きな意味があるというよりは音楽仲間同士で楽しんで作るといった感じです。リラックスした雰囲気の中で一緒に楽しく作って、いいものが出たら使うというか。
──楽しくセッションする中で、自然といいものが生まれるんですね。
そうなんです。
──この曲に限らず、DEANさんは欧米のアーティストとのコラボが多いですよね。2017年にはThe InternetのSydとも『love』という曲で共演しました。曲の後半で雰囲気がガラッと変わるところで、ピッチを歪ませる部分が個人的に大好きなんです。こういうのはやっぱりDEANさんのアイディアが大きいんですか?
はい、そうです。
──実験的なサウンドを積極的に取り入れるところ、本当にリスペクトです!
ありがとうございます!
──こういう新しいことを、いつも意図的にやってるんですか?
はい、常に新しいことをやりたいって思ってます。ちょっと病的なくらいに(笑)。
──(笑)。では最後に、次のアルバム『130 mood : RVNG』について聞きたいのですが。
はい。
──先行リリースされた『Instagram』と『하루살이(カゲロウ)』の2曲とも、「自分の内面と向き合う」という共通のテーマを感じました。もしかしてアルバム全体もそういう方向性になるのでしょうか?
あ~、これどこまで言っていいかな。ちょっと考えてもいいですか?
──はい。
えーと、はい。おっしゃる通り、どちらも自分の内面について語った曲です。アルバムを映画に例えるなら、この2曲は予告編のようなものだと思ってください。実は『하루살이(カゲロウ)』が僕の内面と向き合った曲だと理解してもらうことは、僕が最も望んでいたことなんです。だからそう感じてくれて本当にありがたいです。
だからアルバム全体が内面的なものになるし、ひとりの人間として語ったというか、僕自身の話が込められています。僕が今の26歳という年齢になるまでに感じてきた様々なことを表現するアルバムになると思います。これ以上話すとネタバレになっちゃうので、今はまだこのくらいで。
──やはり自分の内面に向き合った作品になるんですね。
でもおもしろいなと思ったのが、さっき話した2曲って、どっちも僕の個人的な話を書いた曲じゃないですか。なのにすごくたくさんの人たちから共感されたから、本当に驚いたんですよ。だから実は自分自身の話を語ることって、社会全体に繋がっていくんだなって思うようになったんです。
──あ~、確かにそうなのかもしれませんね。ところでアルバムはいつ頃出る予定ですか?
うーん、来年…来年には……(笑)。
──あはは(笑)。来年のいつ頃ですか?上半期?
いや、上半期ではないです。
──じゃあ下半期?
それも何とも言えないです(笑)。
──では、とにかく来年ということで(笑)。
はい(笑)。
──フルアルバムですか?
はい、フルアルバムです。
──DEANさんの内面的な話が込められた1枚になると分かっただけでも、とても貴重な機会でした。アルバム楽しみに待ってます。今日はどうもありがとうございました!
ありがとうございました!
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DEAN
韓国、ソウル出身。韓国とアメリカの両ミュージックシーンで注目されているR&Bアーティスト兼シンガーソングライター。16歳の時に音楽キャリアをスタートさせ、コリアンラッパーのKeith Apeとも活動を行った。そして、18歳からはシンガーとしての活動も始めたのち、EXOなどK-POPシーンのトップで活躍するアーティストたちの楽曲提供を行いソングメイカーとしても成功をおさめている。2018年11月に約11ヶ月ぶりにニュー・シングル『カゲロウ(dayfly)』をリリース。現在、初のアルバム・リリースに大きな期待が集まっている。
Interview & Text: Sakiko Torii (BLOOMINT MUSIC) Photo:Kaori Akita Text: Edit:Karin Ohira