「社会を変えるのに大人になるまで待たなくていい」。環境活動家の露木しいなさんを突き動かしている言葉だ。
「10代でバリ島を脱プラスチックへと導いたことで知られるワイゼン姉妹が口にしていた『You don’t have to wait till be a grown up to make a change.』を日本語に訳したものです。彼女たちとは、世界一エコな学校と呼ばれるグリーンスクールバリで出会いました。水筒とマイバッグの持参は当たり前。授業でビーチの清掃を行うなど、あらゆる問題を改善するための座学と実践を繰り返す場でした。ワイゼン姉妹はすでに『バイバイ・プラスチックバッグ』という運動を始めていて、バリ島の条例を改正させるまでに発展。経験から生まれた彼女たちの言葉は圧倒的な説得力で、人生観が変わりました。もう一人、インドの貧困家庭の子どもに学校の制服を寄付できるようにブランドを立ち上げた同級生もいて。起業により国内の雇用も生んでいました。そんな中、私たちの生活の影響で、大好きな自然が壊されている現実を知り、胸を痛めているだけでなく、自ら活動しようと決心したのです。社会問題の解決に挑むクラスメイトが、私にはこの上なくかっこよく見えたから」
大学進学を機に帰国。キャンパスでもマイボトルとエコバッグを携帯。気候変動にまつわるトピックスをSNSに投稿していた。すると、同世代の友達から予想外の反応をもらう。
「いつしか、環境活動家だねと周囲から言われるようになっていたんです。バリ時代はこれが標準だったので戸惑いました。その呼び名とは裏腹に、大学では知識のインプットだけで動けていない自分にジレンマを抱くように。『大学は待ってくれるけど気候変動は待ってくれない』と母を説得。休学中の現在は、グリーンスクールバリでの経験やいま地球上で起こっていること、私たちに何ができるのかといった講演を小中高生に向けて続けています」
2019年から2023年4月までに訪ねたのは220校、およそ3万2000人にリアルな声を届けている。
「難しい話題だからこそ未来を担う子どもたちに聞いてほしくて。気候変動をストップさせる具体策だけではなく、社会問題に取り組む友人に憧れて活動を始めた私自身のエピソードも話します。そんな動機でかまわないと知ったら、行動に移すハードルが下がるでしょう。それに大切なのは、楽しみながら取り組んでいること。義務感は一切ない。『TikTokを見ないとならない』とチェックする人はいませんよね?それと同じ。私にとって環境活動は、ワクワクすることなのだと伝えています」
そして、いま、15歳から着手していたプロジェクトの正式デビューが控えている。天然成分で作った口紅だ。
「唇に塗った口紅は知らない間に食べています。だから、カラダに入っても大丈夫な素材で、ゴミを増やさないよう使い切りやすいミニサイズのリフィル式で作りました。そもそも、肌が敏感な妹のために始めたものですが、生産するにあたって、化粧品がユーザーに届くまでにさまざまな犠牲が払われている事実を知りました。たとえば、オーガニックコスメの原料を調達するために森林伐採をしていること。成分が皮膚にもたらす反応を見るための動物実験。そして、廃棄された容器のほとんどが埋め立て処理されている問題も。だから、人(妹)だけではなく、地球にもやさしいものづくりを徹底しました」
流通に向けて識者に意見を仰ぐなかで、ハードルの高さを思い知った。
「コロナ禍で大きく売上が落ちた口紅から参入するのは正気の沙汰ではない、97%失敗すると止められました。でも、環境破壊に加担しないチョイスをひとつでも増やしたくて、3%成功するならいいじゃないのと思って決行!」
製作費はクラウドファンディングで賄う。2カ月間かからないうちになんと、目標の1000万円を軽く超えた。
「支援してくださった皆さんから、『素敵なお金の使い方を提供してくださり、ありがとうございます』と温かいメッセージも頂戴しました。そんな風に共感していただけて本当にうれしい。この口紅が選ばれることで自然への負荷が少しでも減ることを願っています。そうして、いつか『環境活動家』という肩書きがこの世からなくなるほど地球を思いやる行為がスタンダードになってほしい。その日まで走り続けます」