〈シャネル〉が2025/26年クルーズ コレクション発表の場としたのは、イタリアはコモ湖を臨むホテル「ヴィラ デステ」。エネルギッシュでありながら静謐なルックの数々が湖畔を彩った。ショーのティザーフィルムは映画監督ソフィア・コッポラが手がけ、夢見心地のエレガンスを表現。
〈シャネル〉が描くイタリアの湖畔の安らぎ
2025/26年クルーズ コレクションを「ヴィラ デステ」で発表

ショーは真っ白でリラクシーなガウンスタイルで幕を開けた。その脇には、イタリアの陽光を存分に受けてきらめくコモ湖。ローマ時代から避暑地として愛される湖畔に佇むホテル「ヴィラ デステ」は、数多くの映画のロケーションともなってきた。歴史に溢れ、壮麗で、けれどあたたかみがありおおらかな空間。バロック風のアーチで覆われたコリドーや、目の前に湖が広がるスペースが今回のランウェイ。招待客は一列に並んで座ったりせず、テラスに用意された丸テーブルでくつろぎながらモデルを追う。
ルックのカラーリングは、湖畔の一日の色合いを描くかのよう。明るく爽やかなホワイトに、太陽のゴールド。鮮烈なピンクや赤が差し込まれ、日暮れの不思議な空を映したようなパープル混じりのピースも登場。終盤は漆黒のドレスが踊り、優雅で奔放な夢を完成させた。
〈シャネル〉とイタリアの手仕事との関係の深さも、本コレクションでは垣間見られた。美しい絹織物を生み出す「マンテロ」に、靴工房の「ロヴェダ」、糸を製造する「ヴィマール」。歴史と伝統と職人の想いが細部に詰まり、クルーズ コレクションをさらに特別なものにする。
〈シャネル〉とシネマの縁は深く、メゾンの魅力はスクリーンの上で何度もはためいてきた。今回のクルーズ コレクションにあたって、映画監督のソフィア・コッポラがティザームービーを撮影。数十秒のなかに、コモ湖という土地の香りや、バカンスの高揚と安らぎが詰まっている。
彼女がキャリアにおいて特にインスパイアされてきたのが、ヴィスコンティのオムニバス作品『ボッカチオ'70』内の『仕事中』だという。〈シャネル〉のスーツで床に寝転がるロミー・シュナイダーは、コッポラのスタイルアイコンであり続けている。
「私が好んでやまないスタイルが凝縮されているんです。彼女のワードローブが本当に欲しいくらい。洗練されたスタイルをカジュアルに見せるその演出……例えば、完璧なシャネルのスーツで床に寝転がったり、風呂上がりの濡れた髪でゴールドのラメドレスをさっと羽織ったり……もう最高のシーンですよね」(コッポラ)
リラックスとエレガンスとが同居する「ヴィラ デステ」には、メゾンの世界観を共有するゲストも集った。
映画、歴史、そしてイタリアのクラフツマンシップ。〈シャネル〉というエスプリの根幹をなす要素が出合う土地で披露されたコレクションは、軽やかで甘い。その揺るぎない輝きが、新たなワンシーンを描き出していく。
Photo_©︎CHANEL Text_Motoko KUROKI