里芋のみづから滑る正午かな 櫂未知子
俳句には里いもを詠んだ句がたくさんあるはず。なぜなら、俳句の場合、いもといえば里いもを指すから。期待して探すと、やっぱりたくさん見つかる。思わず膝を打ったのが、冒頭の一句。皮をむいた里いもがつるんと光ってぬめりをまとう情景が目に浮かび、いっぺんで覚えてしまった。
地味だけれど、日本の秋のスターは里いも。中秋の名月になぞらえて里いもをお供えする芋名月の習慣もあります。日本に渡来したのは縄文時代といわれる通り、古来から日本人の暮らしに根差した根菜だから、俳句と縁が深いのもむべなるかな。季語「芋の秋」は、里いもの収穫時期のこと。親いも。子いも。団子いも。衣被ぎ。白いも。いもがら。里いも田楽……いろんな言葉もある。
ころんと小さい。でも、そうとう豊か。
やっぱり食べなきゃ里いも。
では、どんなふうに?
A子さんが、ちょっと不安げに言いました。
「煮っころがししか思いつかなくて。小さい頃、祖母がよくつくってくれていたから」
私の実家でも同じだった。里いもといえば、醤油味。ときどき、油揚げといっしょに煮染めてあった。とにかく、いつも茶色だったな。
でも、茶色くなくても構わない。私は、里いもが出回ると、まずそのまま味わいたくて、蒸籠で蒸しただけの白いのをアチチと指を焼きながら皮をむき、ほんのちょびっとだけ塩をつけ、そのまま食べるのが大好き。ああ、また里いもがおいしい季節が巡ってきたんだなあ。しみじみする。
そこから先は、茶色からの脱却を図ります。たとえば、梅干しとの相性もなかなか。
おニューな表情で現れる里いもの梅肉和えはいかがですか。
【材料】
里いも4〜5個
梅干し2個
かつおぶし(ちぎって細かくしたもの)大さじ1
ごま油大さじ1
白ごま小さじ1
塩ひとつまみ
【つくりかた】
①小鍋に湯を沸かして塩小さじ1(分量外)を加え、皮をむいた里いもをゆでる(時間はかかるけれど、ぐんと甘みが増すので、皮つきのまま蒸すのもおすすめ)。
②竹串を刺してスッと通るくらい柔らかくなったら、ザルに上げる。
③包丁で叩いてなめらかにした梅肉、かつおぶし、ごま油を混ぜ合わせる。
④乱切りにした里いも、❸の梅肉ペーストをボウルに入れ、フォークの背などでざっくり粗く潰しながら混ぜる。途中で塩をひとつまみ入れ、味を調える。
⑤うつわに盛り、白ごまをふる。
とてもシンプルだけれど、一番のポイントは〝ざっくり潰す〟ところ。全部潰してしまわず、ごろっとした部分を残しておきたい。とろんとなめらかだったり、嚙んだら勝手に潰れたり、里いもはアンバランスな舌触りも味わいのうち。私は、じゃがいもと里いもをミックスすることもあります。
本当はかなり自由で破天荒なイモなんですよ。