「前へならえ。気をつけ」なんて号令をかけられ、律儀に直立して言いつけを守っている……そんなふうに思わせるごぼうが愛おしい。地味で無骨なところも好みだけれど、やっぱり特別だなと感嘆するのは包丁仕事との相性のよさ。切りかたひとつで違うものになるスーパーな能力を持っている。
五種類ほど挙げてみます。飾り切りとかそういう面倒な話ではなく、ごくふつうの方法だけれど、それらを自分の味に変えてしまうのがごぼうのすごさ。
【せん切り】
角の立ったマッチ棒のように切ると、ごぼうの食感がぐんと引き立つ。長さもマッチ棒くらいが食べやすい。合うのはやっぱり、きんぴらごぼう。にんじんとごぼうの長さと幅を揃えて切ると、見た目も味わいもアップ。ごま油で炒め、醤油、酒、みりん。仕上げに白ごまを振ります。
【乱切り】
ごぼうをまな板の上で回しながら、斜めに大きく切る。食べごたえがあるので、けんちん汁にぴったり。具材はごぼう、にんじん、だいこん、さつまいも、こんにゃく、油揚げなどを自在に組み合わせて。軽く押してちぎった木綿豆腐を入れても。調味料は薄口醤油、みりん、酒、ベースは昆布だし。ショートカットして、バリバリ割った昆布をそのまま入れてもOK!
【ささがき】
ごぼうを長いまま手に持ち、包丁の刃先を当てて鉛筆みたいに削ぐ。削っているときからすでに楽しいので、この作業が大好きです。炊き込みごはんには、ご飯にしっとり馴染むささがきごぼうがベスト。米、鶏ひき肉、ごぼう、にんじんのせん切り、油揚げの細切り、全部いっしょに入れて、醤油、酒、みりん、塩、水。むずかしく考えず、いっぺんに炊いちゃっても問題なし。
【拍子切り】
長さ5センチくらいに切ったごぼうを少し厚めに縦に切ると、拍子切り。面が広いので、ごぼうならではのがつんとした歯ごたえが楽しめる。私が長年つくっているのは、牛肉か豚肉、ごぼうのカレー炒め。調味料はごま油、醤油、酒、みりん、塩、カレー粉。お弁当のおかずにも最高ですが、冷めてもおいしいごぼうってやっぱり働き者だなあ、と感心する。
【叩く】
叩きごぼうと呼ばれています。ごぼうをまな板の上に置き、ビール瓶などでガツンゴツン。思い切って叩くと、ごぼうが「しょうがないなあ」みたいな感じで縦に割れる。割れ目を少し広げるようにして開くか、そのままでもいい。酢漬けにすると、おせち料理ふう。私は、これを素揚げするのが好きです。からりと揚がったら、熱いうちに塩をふって、おつまみにどうぞ。
いずれの場合も、切ったごぼうは水を張ったボウルに浸してあく抜きをするのがお約束。そうそう、皮の扱いも大事です。皮を「剝く」のではなく、包丁の背で「こそげる」。滋味としかいいようのない複雑な風味が薄い皮のすぐ下に眠っているので、そっと起こしてあげてくださいね。

