食べて、美味しいだけじゃない。そこで過ごす時間も含めて特別な体験を味わえるから、わざわざ訪れたくなる。行き届いた設えと店主の審美眼に触れられる、京都の3軒をピックアップ。#この1軒が京都旅の目的になる
京都「cookknoll」子どもの頃に感じたあの“ときめき”を、もう一度
この1軒が旅の目的になる

フードマニアのおすすめコメント
「メニューを思い浮かべるだけで、気持ちがときめく。このお店のために、京都旅を決めます」(スタイリスト・清水奈緒美)
「何を食べても幸せになれる。全てが素晴らしいネオファミレス」(大学教員・N.Y.)
子どもの頃に感じた
あの“ときめき”を、もう一度
カクカクとんがったknoll型の外観。扉を開けるまでの時間に胸が躍る。足を踏み入れると、そのドキドキする気持ちを裏切らない空間が広がっている。インテリア、カトラリー、メニュー表とどこを切り取っても絵になる、まるで映画のワンシーンに登場しそうなお店が〝小さなファミリーレストラン〟「cookknoll(クックノール)」だ。そこには店主・飯田勇人さんの幼少期の原風景が色濃く反映されている。



「ファミレスは、非日常のご馳走だけじゃなくて、〝ワクワクする雰囲気〟そのものが好きだった。料理がしたいというより、あの感覚を自分で作りたかったのかもしれません」(勇人さん)
共に店を切り盛りする妻・帆波さんが語る、二人がイメージする〝ファミレス〟は、どんな世代も集える、家族で営む洋食レストラン。イメージするチェーン店のそれとは違い、営む人の温度感や好きなものが伝わる、〝個人の趣味が出ている場所〟なのだ。そんな二人、実は大阪・堺市出身。

「場所は決めず全国を旅しながら物件を探していました。京都は好きなお店がたくさんあり、だからこそ参入するのが怖くて避けていたくらいです」(帆波さん)
自分たちが入る隙がないと思うほどに好きだった京都で、心惹かれる物件は見つかった。
「『kit』のオーナー椹木知佳子さんには内装の部分でいろいろと相談に乗っていただきました。『田中美穂植物店』に植栽をお願いし、知人の紹介で出会った『monoya』には什器をお願いしました」(帆波さん)
そうして京都の人たちに助けられながら、二人の好きを具現化したお店が完成した。そして二人にとってなくてはならない存在が「建物も内装も一番好き」とリスペクトする、出身地でもある堺の喫茶店「向丘三丁目」。上の写真にもあるカリフォルニアウインディは、こちらの名物を受け継いだものだ。
「90代の店主夫婦は、私たちをすごく応援してくれているんです。お店の器やグラス、時には大きな寸胴鍋も〝持っていき〜〟って。親戚のように見守ってくれています」(帆波さん)
ただおしゃれなだけではない、お店のそこかしこに感じる温かみ、その理由がここにあった。さらに、忘れてはいけないのが、みんなが口をそろえて絶賛する多幸感あふれる料理の数々。聞けば、勇人さんはもともと料理人ではない。ではなぜ?それは、料理好きの父親によって育まれた幼少期からの食体験によるものだった。帆波さん曰く勇人さんは「“食”への探究心が並外れている」という。
「義父の料理好きは本物で、今ではお店の精肉の仕入れを担当してくれています。本当は、義父も飲食店をやりたかったはずですが、家業があって夢は実現しなかった。だから私たちが店を構えた時には、自分のことのように喜んでくれました。かつてカフェを営みたかった私の母も、大阪から手伝いに通ってくれています」(帆波さん)
ファミリーヒストリーも見え隠れする、いろんな想いが詰まった、ここはまさに真のファミリーレストランなのだ。
Photo_Yoshiki Okamoto Text_Midori Nagase



