食べて、美味しいだけじゃない。そこで過ごす時間も含めて特別な体験を味わえるから、わざわざ訪れたくなる。行き届いた設えと店主の審美眼に触れられる、京都の3軒をピックアップ。#この1軒が京都旅の目的になる
京都「MUBE」日本の美を再認識。時空を超えた食体験ができる場
この1軒が旅の目的になる

フードマニアのおすすめコメント
「発酵マニアな友人たちの間で“知ってる?”と噂。四季折々の美しさが楽しめる自然いっぱいの庭も気になる」(エディター・石井愛子)
「空間・味・流れる時間。泉さんが作り上げた世界観に没入できます」(エディター・長瀬 緑)
日本の美を再認識
時空を超えた食体験ができる場
京都の料理店「じき宮ざわ」で料理長を長年勤めた泉貴友さんが、2025年8月に満を持して鷹峯三山の裾野、歴史と文化が交錯した土地、玄琢道に「MUBE(ムべ)」を構えた。


「大家さんから、この家を文化的に引き継いで欲しいとお話をいただいたんです。とても魅力的な物件ですが、築150年の歴史と、約400坪という大きさに身の丈に合わないのでは……と初めは断りました。そんな時、『kankakari』(京都・大徳寺近くのギャラリー)の鈴木良さんに相談したところ、前向きに後押ししてくださって〝それなら一緒にお店を作り上げよう〟となったんです。そこから店のイメージや設え、器に至る細部まで何度も話し合い、2年の歳月をかけて完成させました」
店で使われる器、椅子、シンク、照明は、15人の作家が「MUBE」のためにオリジナルで制作したもの。泉さんは、お店のテーマを〝手間と余白〟と語る。
「例えば皿の上ではシンプルだけど、実は手間ひまかけた料理。食べた人が、自分で考える〝余白〟があるものを提供したいと思っています。空間にも余白が欲しくて、客席の前には自然の景色が見える大きな窓を作りました。ただ、庭を眺めて料理を味わい、考える……そこに〝余白〟が生まれます」
料理には、泉さんの故郷・滋賀県長浜の伝統的な発酵技術を多用する。
「派手さはないけれど、滋味深く。美味しいだけでなく、体が喜ぶ〝養生〟の料理を目指しています」
準備期間中には、海外の多数のレストランを訪れ、料理人たちが日本の食文化に深く影響を受ける姿に触れ、発酵をはじめとする日本の伝統的な食文化の素晴らしさを再認識したという。店では、鱧の骨と麹で作った魚醤や、現代風にアレンジしたなれずしなど、想像を超えるサプライズのある一皿を提供する。
「滋賀・長浜をはじめ、日本の食材や人の素晴らしさを伝えたい。日本料理ではなく〝日本の料理〟として」

Photo_Yoshiko Watanabe Text_Midori Nagase


