写真家・川島小鳥が撮影した少女のポートレートが、約10年もの間、銀杏BOYZのジャケットを飾り続けているのをご存知だろうか。実際には使用されなかった2000枚以上の未公開写真から再編集を重ね、この冬、1冊の本となって発売されることに。CDジャケットのような四角い形をしたその写真集は、ページをめくるたび、さまざまな表情の女の子がこちらを見つめている。ときに笑顔で、ときに不安そうで、ときに退屈そうで。自分もこんな恋をしてきたのかもしれない、と心がざわめく瞬間さえある。川島小鳥が撮影する少女たちが放つ、不思議な魅力とは何なのか。そのうちの一人、台湾の女優ヤオ・アイニンとの対談を通じ、尋ねてみた。
【対談】川島小鳥(写真家)×ヤオ・アイニン(女優)- 川島小鳥が撮影する少女たちが放つ、不思議な魅力とは何なのか。
銀杏BOYZのジャケットの写真は、いつもどのように決めているんですか?
川島小鳥(以下、川島):CDジャケットは普通、予めリリースの時期が決まっていて、そのテーマに沿って写真を撮り下ろすことが多いと思うんですけど、銀杏BOYZのジャケットの決め方は少し変わっています。CDがいつ出るかわからないから、出ると決まったときに僕がストックしていた写真を送って、峯田君に好きなものを選んでもらうスタイルなんです。はじめて僕の写真をジャケットに使ってもらったのが2007年の『あいどんわなだい』。それからずっと、リリースのたびに僕が撮ってきた女の子の写真を選んでもらっていて、今年で約10年経ちました。
銀杏BOYZシングル『あいどんわなだい』のジャケット(2007年)
銀杏BOYZシングル『生きたい』のジャケット(2016年)
銀杏BOYZの『ひかりの中に立っていてね』でジャケットに登場したヤオ・アイニンさん。川島小鳥さんが台湾でヤオさんを撮るようになったきっかけを教えてください。
川島:初めてピピちゃん(ヤオ)を台湾で撮影したのは4年前です。台湾に住む友人から「可愛い子がいるからぜひ撮影してほしい」と紹介してもらって、出会いました。その後、作品制作も兼ねて僕が1年くらい台湾に語学留学をしていた時期に、ピピちゃんの地元の高雄で再会。その日撮影した写真が、銀杏BOYZのジャケットになりました。
川島小鳥さんが、ヤオさんの地元・高雄で撮影した写真
川島:あの日、高雄で撮影した写真は特別でした。撮り始めたときに、自分でもなんとなく「今日は銀杏のジャケットになる写真が撮れそう」って思ったんです。後日、アルバム『光のなかに立っていてね』のジャケットを決めることになって、峯田君にいろいろな写真を見せたとき、即答で「これがいい!」という答えが返ってきたんです。しかも、女の子が両手で覗き込むポーズは、峯田君がもともとジャケットにできたらいいなって考えていたポーズだったらしくて、びっくりしました。
ヤオさんは、自分の写真が銀杏BOYZのジャケットになったと聞いたとき、どんな気持ちでしたか?
ヤオ・アイニン(以下、ヤオ):台湾でも銀杏BOYZは人気で、日本で初めて自分の写真が出たのが銀杏BOYZのジャケットだと聞いたときは、素直に嬉しかったです。日本語の歌詞がわからないから、日本語を勉強して、銀杏BOYZの音楽をもっともっと知りたいと思いました。
川島:お花畑の写真を見たときに、峯田君から「小鳥君はピピちゃんに出会えて本当によかったね。世界が広がったね」って言われたんです。その通りかもしれません。僕のミューズです!
取材の移動中も、気づけば川島さんがカメラを構えて撮影が始まっている
川島小鳥さんの写真集『ファーストアルバム』には15年間で撮り溜めた少女たちのポートレートが収録されていますが、読んでみていかがでしたか?
ヤオ:これまでの小鳥さんの作品は、『未来ちゃん』も『明星』もテーマがとてもはっきりしていて、みんなをハッピーに楽しませようとしている気がしたけど、今回はぐっとプライベートな作品だと思いました。小鳥さんの持っている寂しい気持ちとか、素の部分がたくさん入っているように感じたんです。
全編台湾で撮影された写真集『明星』(2015年)。同作で第40回木村伊兵衛賞を受賞
川島小鳥さんの代表作である『未来ちゃん』(2011年)。佐渡に住む一人の女の子を追いかけた作品
川島:すごい! その通り。今回の写真集に入れる写真は、一枚一枚、何度も迷いながら選んだんですけど、今までだったら入れなかったような写真も多くセレクトしました。僕の写真をよく知る人にとっては、新鮮な内容になっているように思います。“かわいい女の子を撮る川島小鳥”は、これで一旦ひと区切りになるのかもしれません。
ヤオ:小鳥さんの写真はいつもやさしくて、光があって、あたたかい気持ちになるんです。見るたびに、自分もやさしい人でありたいなあって思います。
川島さんの写真集『ファーストアルバム』内でヤオ・アイニンさんがお気に入りの写真
川島さんはどのように被写体を決めているのでしょうか?
川島:うーん。悩んでいたり、定まっていない子でしょうか。完成前の人。そういう人に魅力を感じることが多いです。ピピちゃんも、撮っていたときにちょうど女優になろうか、デザインの勉強を続けようか迷っていたときだったんですよね。
ヤオさんは将来、どんな女性になっていたいですか?
ヤオ:憧れているのは、樹木希林さん。わたしの大好きなおばあちゃんが、樹木希林さんに似ていているんです。おばあちゃんになっても、可愛くて、芯のある女性でいたいです。今は女優として、まずは台湾と日本で頑張っていきたいです。
川島小鳥
1980年生まれ。早稲田大学第一文学部仏文科卒業。写真集に『BABY BABY』『未来ちゃん』『明星』など。第42回講談社出版文化賞写真賞、第40回木村伊兵衛写真賞を受賞。12月7日、最新作『ファーストアルバム』を発売。12月15日より、池袋パルコにて、同作品の発売を記念した写真展『ファーストアルバム』~銀杏BOYZ と川島小鳥と池袋パルコ~が開催中。来年1月21日より、福井県金津創作の森にて大型写真展『川島小鳥展 境界線で遊ぶ』を開催予定。
ヤオ・アイニン
1990年台湾生まれ。2014年、台湾映画『共犯』で女優としてデビュー。2015年より日本での活動をスタートし、CMやMV、雑誌で活躍中。銀杏BOYZのCDジャケット、ツアービジュアルに度々登場。2017年2月4日より、日本映画初主演となる『恋愛奇譚集』の公開が控えている。
写真集『ファーストアルバム』
川島小鳥/著
スペースシャワーネットワーク 2100 円+税
すべての銀杏BOYZ &GIRLZ へ贈る、川島小鳥の銀杏BOYZトリビュート写真集。2007 年発売の『あいどんわなだい』から 最新シングル『生きたい』に至るまで、これまで銀杏 BOYZのCDジャケットを飾った少女たちが織り成す10年分の愛と夢。実際には使用されなかった 2000 枚以上の未公開写真から、再編集を行い、眠っていた少女たちのポートレートが、時を超え、瑞々しく蘇ります。峯田和伸氏の寄稿文も収録。