9月29日、マリーン・セルが2021年春夏コレクションをムービーで発表する。そのリンクへと飛ぶQRコードやGINZA限定デザインを含むステッカーを、マリーン・セルが特別に製作。新作についての思い、ブランドの世界観、タフな時代における服づくりについても話を聞いた。
マリーン・セルにインタビュー。未来の私たちのための服

―新作ムービーの告知のためにステッカーを作ったのはなぜですか?
マリーン・セル(以下M) 世界的な広がりを持たせるためには、オンラインとオフラインの両方でさまざまなツールを用いる必要があります。ステッカーは街角でどこにでも見かけますし、誰でも自由に使うことができるのでいいな、と思ったんです。QRコードをスキャンすると、私たちのショーに招待されます。好奇心旺盛な人であれば誰でも参加ができるので、ファッションの民主化と言えるでしょう。さらに、何年経っても、ステッカーのQRコードをスキャンさえすれば私たちのムービーを鑑賞できるんです。
―ステッカーのデザインのポイントを教えてください。
M 今言えるのは、それぞれのアートワークがムービーのストーリーの一部を象徴している、ということだけです!
―ムービーは観てのお楽しみ、ということですね…ムービーをどんな人に観てもらいたいですか?
M すべての人です!私たちのことをすでに知ってくださっている方、名前を聞いたくらいでまだどんなブランドなのかよくわからない方、そして全然知らない、という方にも届くといいな、と思っています。ファッション好きではなくても、私たちの美学、ストーリー、コミュニケーション方法に興味を持ってくれるような方であれば、ぜひ観てもらいたいんです。
―今回のムービーはこれまで発表されたコレクションやキャンペーンムービー (写真1)と関連があるのでしょうか?
M 私たちは毎シーズン服や物語を改良、継続、進化させて終わりのない物語を紡いでいっています。ですから、このムービーは前回の続きと言えます。ショーの最後で次回を予告することもありますよ。
―SF小説『デューン/砂の惑星』の世界観をイメージしたという2020-21年秋冬はフューシャピンクの花柄のドレスを着た子どもたちがフィナーレを飾りましたよね(写真2)。リリースには「The sleeper must awaken」という名ゼリフとともに、「新世代が引き継ぐ」とありましたが、はたして…!?ところで、今年は新型コロナウイルス感染拡大に始まり、「Black Lives Matter」や異常気象など、数多くの問題が表面化して社会が激動しました。このことはものづくりに影響を与えていますか?
M マリーン・セルは「フューチャーウェア」というキーワードを掲げ、日常生活のニーズに応えようとしています。現在は私たちの未来に影響を与えますから、私たちが今経験しているパンデミックや深刻な問題の数々はもちろん次のショーのものづくりの一部となっていると思います。
―マリーンさん自身は「現在」をどのように捉えていますか?
M 私はかなり現実的で、そして前向きな人間なんです。今日、もっとも重要なのは私たちが生きている世界を受け入れ、対応し、生き抜くための解決策を見つけることだと思っています。前向きに捉えると、まったく新しい生活や消費を始めることができる機会ですし、やがてそれは当たり前となるはずです。
―現状を憂いているだけではいけませんね!今後の目標を教えてください。
M マリーン・セルの重要なキーワード「エコフューチャリズム」を多くの人に理解してもらいたいです。
―「エコフューチャリズム」とは何でしょうか?
M ものづくりにおいて「循環性」、温室効果ガスの排出量をゼロにする「気候中立」、変化する環境に対応する能力「レジリエンス」を試み、生態学的な変化を生み出すことです。そのために、リサイクルや素材の再生を行い、出張を減らし、ショーを開催し過ぎず、地元で生産するようにしています。さらに、謙虚であれ、という呼びかけや、地球の資源を搾取しないよう啓蒙することも。私たちは可能な限り環境を考慮し、賢明に対応する必要があります。コレクションの半分近くは使われなくなった製品をベースとしていますが、それを100%とするためにも、生分解性のある素材、リサイクルされた繊維、職人の技術を生かす努力がもっとも重要だと考えています。また、この精神にのっとった4つのラインを設けて私たちの製品によりアクセスしてもらいやすくしています。
―それぞれのラインについて教えてください。
M 今年新しくスタートさせたのは肌に直接触れる服のライン、「ボーダーライン」(写真3)です。これは、マリーン・セルのワードローブである実用的な「ホワイトライン」(写真4)に近い存在です。目標は、「ボーダーライン」の価格を下げ、ハイブリッドで再生された服をきっかけに誰もが私たちの「エコフューチャリスティック」な信念にアクセスできるようにすることです。
―残り2つは何でしょうか?
M シーズンテーマを色濃く反映した重要なラインであり、ブランドのアイデンティティがもっとも表現されている「ゴールドライン」(写真5)では、未来の服を作るために衣服の機能性を再定義し、再生とハイブリッド化を行っています。残る1つは思い切り自由な発想で作るクチュール「レッドライン」(写真6)です。職人技を生かした一点物からなる、最高級の特別なラインだと言えます。
―環境について真剣に考え、ファッションとしてできることを実践し、その精神を広めようとされていることがよくわかりました。マリーン・セルの服はデザイン面も大変魅力的ですから、きっとさらに多くの人を巻き込んだムーブメントを生み出すことができるはずです。まずはステッカーを貼って私たちも微力ながらマリーン・セルの精神を周囲にアピールしたいと思います!新作ムービーを拝見できるのを楽しみにしています。
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マリーン・セル
1991年フランス生まれ。2016年ラ・カンブル国立美術学校卒業。すぐにコレクションが有名店で販売されるなど、早くから注目の的に。17年LVMHプライズグランプリを獲得。