「役者の手腕が問われるというか。小さな書店の一室だけで展開するので、自分というものが全面的に出てくる舞台になると思うんです。私としては、贅沢で大人な作品だなと」
5年ぶりの舞台に挑む広末涼子さん。演目は井上ひさしの名作『シャンハイムーン』。中国の作家であり思想家であった魯迅の「ある1カ月」を描いた戯曲だ。魯迅を狂言師の野村萬斎さんが演じ、広末さんはその妻・許広平を演じる。許広平はどんな女性かというと、在学中に講師だった魯迅と恋に落ち、魯迅の革命運動を助け、その死後は『魯迅全集』を編纂した、〝信念をつらぬく女性〟だ。
「魯迅という才人に、周囲の人たちが、良くも悪くも振り回されていく様子を、井上ひさしさんがとてもハートフルに描いた素敵な物語です。魯迅は、天才気質でカタブツでエゴイストだけど、愛おしいくらい幼く思える側面もあって、みんなに愛される魅力的な人なんです。許広平は、そんな彼を支え、志をともにする17歳年下の運動家。萬斎さんは、『魯迅にとって彼女は新しい時代の象徴だった』とおっしゃっていましたが、私は同時に、彼女にとても古風なものも感じるんです。もう1人の女性(魯迅の第一夫人・朱安)の存在を感じては、嫉妬心を抱くけれど耐えて忍ぶ。先進的である反面、どこか彼の3歩後ろを歩いているような。実は私、そういった古典的な女性像が結構好きなんです。現代では野暮ったいと思われるかもしれないけれど、そういった部分って、私も含めて、ほぼすべての女性が持ち合わせているんじゃないかと思うんです」
キュッと上がった口角、ヘーゼルの瞳。ふと、デビュー当時の「広末涼子」を思い出す。女優は昔からの夢でしたか?と聞くと「もちろんそうです」と彼女は言った。
「子どもの頃から女優さんになるのが夢でした。だから、仕事に対するスタンスは10代の頃から全然変わってないんです。映画でもドラマでも、女優というお仕事を通して、誰かに夢を与えたい、誰かの原動力になりたいなと。ただ、あまりにも忙しい日々の中、なぜ自分がこの仕事を選んだのかを見失っていた時期があったんです。それで20代の前半に2年ほどお休みをしたときに、昼間の連ドラや再放送のドラマを観るのがすごく楽しくなって(笑)、気づかされたんです。そうだ、私は観るのが好きだったからこの仕事をしたいと思ったんだと」
現在彼女は37歳。いつの頃からか、「演技派」という言葉が相応しい女優へと成長した。年齢を重ね、役の幅が広がったことで、「広末涼子」に囚われなくなったからだと彼女は言う。
「若い頃はメッセージ性や演じることの意義を考えてしまって、自分に枷を与えていたと思います。いまは、そういったこだわりはもうないんです。女優はただの素材。作品は監督さんのもの。ご自由におつかいください、という感じです(笑)」
プライベートでは3児の母。「1日36時間ほしい!」と思う毎日だけど、「お正月に節分、桃の節句、端午の節句、季節ごとの家族イベントを考えるのが楽しい!」と笑う。
「だから毎年1年があっという間なんです。35歳を過ぎるとさらに早くなるって言いますけど、ホントにそうだなって(笑)。つい先日も、20代の女優さんと話をしたときに、高校時代の話になって、『え、高校生ってこないだのことでしょ?』って言ったら、『4年も前です』って。『え、4年前ってついこないだじゃん』と思ってしまったのがおばちゃんだなーと(笑)。でも、やりたいことがたくさんあって、1年があっという間だと感じるのは、すごく幸せなこと。だから、ホントに生きるって眠たいなって日々思います」
ん?生きるのが「眠たい」??
「従姉妹のお姉ちゃんの名言なんです。お姉ちゃんにも3人子どもがいて。妹の結婚式に参加したときにお姉ちゃんと一緒に明け方まで飲んで、子どもたちの部活もあるからもう帰らなくちゃというときに、『楽しいって、眠たいね』と。深い言葉だなあって。人生にはリミットがある。それまでにやれることを精いっぱいやりたい。だから、生きるって眠たい(笑)」
ブラウス ¥39,000、ジャカードパンツ ¥68,000(共にアキラ ナカ | ハルミ ショールーム)/シューズ ¥91,000(ジャンヴィト ロッシ | ジャンヴィト ロッシ ジャパン)/ピアス ¥48,000、リング ¥34,000(共にアナザー フェザー | デューン)