きっぷのいいおかみさんから7歳の少女まで、あらゆる役を演じる俳優の安藤玉恵さん。荒川区・尾久の商店街にあるとんかつ屋「どん平」で生まれ育った安藤さんが、初の著書『とんかつ屋のたまちゃん』を上梓。本には、個性あふれる家族や親戚、魅力的な商店街の人々のことが書かれています。周りの人たちとの交流によって得たもの、両親から受け継いだものについて聞きました。
安藤玉恵、初の著書『とんかつ屋のたまちゃん』に込めた思い 【前編】
「物語の力で苦しさを乗り越える」母との関係で見つけた方法

繰り返し友達に話してきた
鉄板エピソードたち
──『とんかつ屋のたまちゃん』は、登場するご家族や親戚、商店街の人たちが、みなさん魅力的でした。あとがきではWEB連載として依頼が来たところを、まとめて書いたら本になったと書かれていましたね。
長文のエッセイ連載の依頼は初めてで何もわからなかったし、毎月あるという締め切りが怖かったんです。家族や周りの人たちのことなら書けるかな?と思って、とにかくバーッと一気に書いて「こんな感じでどうですか?」と編集者さんにお渡ししたのが今本になっているものの7割くらいです。そこから少し加筆して、完成しました。
──すごい勢いで書かれたんですね!商店街の人びととのちょっとした会話や、その時にご自身が思ったことなどが細やかに描かれていて、その場にいるかのような臨場感で読んだところがいくつもありました。具体的なエピソードは、書いていくうちに思い出したものですか?
そう思いますでしょ?違うんですよ。まだ両親が生きていた頃から、演劇の友だちが実家の「どん平」によく食べに来てくれて。そのたびに、スナックにも連れて行ったりしてこの本に書かれていたような話を繰り返ししていたんです。「焼き鳥屋さんとこういうことがあって」とか、「お寿司屋さんが面白くて」とか。
──安藤さんにとっては何度も話してきた定番のエピソードがたくさんあって、それを書き出したというわけですね。
そう。友だちみんな、「スナックニュー木の実」(※作中にも登場する尾久のスナック。安藤さんは幼い頃からおばあちゃんに連れられて通っていた)がすごく好きで。連れていくと、「今の時代にこんな場所があるの!?」と驚いて、夢中になるんです。今も写真を見せたいくらい!このお店でカラオケを歌うと、歌っているところが録画されていて、歌い終わったらその録画をみんなで観るという鑑賞タイムがあるんですよ。
──面白いです(笑)。
20代の頃の演劇仲間にとってはそれが相当面白かったみたいで。だから20年以上前から私は本当に何度も、家族の話や、商店街の人たちの話をしてきました。

Photo_Kanta Torihata Styling_Kei(salon de GAUCHO) Hair&Make-up_Eriko Yamamoto Text_Fumie Tsuruki