ロンドン、ヴィクトリア&アルバート博物館で開催中の『クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ』展。過去最大規模の回顧展に足を踏み入れた山田由梨と点子の姿を気鋭の映像作家、UMMMI.がドキュメントします。
『クリスチャン・ディオール、 夢のクチュリエ』を訪れて
3人の才女が体験した
クリスチャン・ディオールの世界
20世紀を代表するクチュリエ、クリスチャン・ディオールと、彼に続いたアーティスティック ディレクター6名の足跡をたどる回顧展がロンドン、ヴィクトリア&アルバート博物館(V&A)で開催中だ。昨年、パリの装飾芸術美術館で公開された展示内容を、V&Aが独自に再編した本展。ディオールが愛したイギリス文化に焦点を当てた「DIOR IN BRITAIN」も加わり、11のセクションを通してメゾンのサヴォワールフェールを探る。日本から本展を訪れたのは、劇団「贅沢貧乏」を主宰する山田由梨。ロンドン在住の点子と、今回の撮影を担当したUMMMI.もV&Aに集合。3人の才女によるルポルタージュとともに、ディオールの夢見る世界に触れてほしい。
山田由梨 at
Victoria & Albert Museum
1852年に開館したヴィクトリア&アルバート博物館は、芸術とデザインを専門分野とし、貴重な衣装を多数収蔵する。
伝説的な「バー」スーツに焦点を当てたセクション。写真は1997年春夏 オートクチュール コレクションより、ジョン・ガリアーノが手がけた「バー」スーツ。
ディオールと英国の相愛関係を紹介する「DIOR IN BRITAIN」。イギリスのマーガレット王女が21歳の誕生祝いに着用したドレスも特別に展示されている。
ディオールが愛した18世紀の衣装や、母マドレーヌが着用したベル・エポックのドレスが展示され、ディオールが装飾芸術によって影響を受けてきたことが垣間見られる。
クリスチャン・ディオールがメゾンを指揮した1957年までにデザインされた10の特徴的ルックが一堂に。
歴代のアーティスティック ディレクターに絶えずインスピレーションを与えてきた、多様な国の文化と旅。「THE TRAVELS」では、メキシコ、日本、エジプト、中国、インドの5カ国に焦点を当て、各国からインスパイアされたコレクションピースが展示されている。スクリーンに映るのは2017年に東京・ハウス オブ ディオール ギンザのオープンを祝して行われたマリア・グラツィア・キウリによるオートクチュール コレクション。
1957年のクリスチャン・ディオール逝去後に続いた6名のアーティスティック ディレクターの作品を展示。各人のポートレイトとともに、それぞれの個性が感じとれる。
アトリエのトワルが天井まで設置された真っ白なインスタレーション空間。美しいフォルムが際立つドレスの無垢な姿に目を奪われる。
最後を飾るのは豪華絢爛な「THE BALLROOM」。イギリスの大邸宅を想わせる内装に、70年にわたるフォーマルやイブニングウェアが展示され、オートクチュールを手がけるアトリエの驚くべき手腕が体感できる。時間の移ろいとともに変化する天井や壁面が、華やかな空間を幻想的に演出。
ディオールという人のこと
文・山田由梨
ラグジュアリーブランドにはなかなか手を出せないし、ましてやディオールのファッションなんてとても遠い存在な気がする、と思っていたロンドン行きの飛行機。正直、ディオールは香水やコスメティックのブランドという印象の方が強いくらいだった。この展示はクリスチャン・ディオールの生涯に沿いながら、ブランドの歴史を回顧していく作りになっていたのだが、「そうかディオールさんという人がいたんだよな」とそんな当たり前のことを再認識する始末。
しかし、ディオールというあまりに有名で高貴なブランド名を、ひとりの人物として考えてみた時に、その人がどういう人で、どういう想いで服を作っていたのかということに俄然興味がわいてきた。会場にずらりと並ぶウエストがキュっとしまった美しいドレスたちはどれも一輪の花のようでひとつひとつが特別な存在感を放っている。実際、ムッシュ ディオールは女性を花に見立てることが多かったようで、女性の次に花が美しいんだとも言っていたそう。
11ある展示ルームのうちのひとつ「THE GARDEN」は、花をモチーフにしたドレスが集まっており、ひときわ華やかだった。花の刺繡や飾りはどれも手作業で繊細に作られていて、特に色鮮やかに染められた羽毛を花びらに見立ててドレスに縫い付けているデザインにはあまりの細かさに見入ってしまった。
幼少期から花に囲まれて育てられた彼は、庭の手入れをすることが好きでクリエイションの合間にもそうして息抜きをしていたよう。シャイで人前に進んで出るタイプではなかったという繊細な人柄が、ひとつひとつのデザインから見てとれる。花の手入れもそうだが、料理にも凝っていたらしくレシピ本まで出していたんだとか。なんだかそんな話に想いを馳せていると、もしかしたらムッシュ ディオールは、男性としてドレスをデザインしていたというより花や女性の美しさに自らが憧れながら作っていたんじゃないかなという気がしてきた。そう思いながらあらためて展示を見回すと、ドレスも〝ディオール〟も少し身近に、愛らしく思えるのだった。
UMMMI.と点子が体験するディオール ビューティの世界はこちら。
YURI ジャケット ¥620,000、ハイネックニット ¥175,000、スカート ¥530,000、イヤリング ¥71,000、ネックレス ¥200,000、シューズ ヒール8cm ¥104,000
TENKO ブラウス ¥270,000、ハイネックニット ¥150,000、パンツ ¥195,000*すべて予定価格、ブレスレット*参考商品(以上ディオール | クリスチャン ディオール)/その他*スタイリスト私物
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山田由梨
1992年生まれ。劇団「贅沢貧乏」主宰。脚本家、演出家、俳優。現代の社会問題を、ポップで軽やかな手法で浮き彫りにする演劇作品を数多く発表し、2017年『フィクション・シティー』が演劇界の“芥川賞”と称される岸田國士戯曲賞にノミネート。今年9月、東京芸術劇場にて新作公演が控える。