SEARCH GINZA ID

松田聖子の80年代伝説 Vol.4 新作家陣と新たな松田聖子像を見せた3rdアルバム『Silhouette』 

松田聖子の80年代伝説 Vol.4 新作家陣と新たな松田聖子像を見せた3rdアルバム『Silhouette』 

昭和から令和へと変わってもトップアイドルとして輝き続ける松田聖子さん。カセットテープ1本から彼女を発見し育てた名プロデューサー・若松宗雄さんが、24曲連続チャート1位という輝かしい伝説を残した80年代の松田聖子さんのシングルと名作アルバムを語る連載。80年代カルチャーで育ったライター・水原空気がインタビュー。

第4回目は、松本隆さんや財津和夫さんとの出会いで新たな可能性をきらめかせた3rdアルバム『Silhouette』について。前回の記事「Vol.3 地味だった日本の冬をおしゃれな季節に変えた2ndアルバム『North Wind』」も合わせてチェック。


ライター水原(以下M) 『Silhouette』の前に。まずは1980年末に紅白歌合戦に初出演され、レコード大賞で新人賞を獲得されたお話から。1年目から大活躍でした。

若松さん(以下W) 紅白や新人賞は本当に名誉なことで嬉しかったです。ただそれ以上に、松田聖子という存在が話題になる注目度が半端じゃなくて。

M 年明けすぐに、紅白の衣装がワイドショーをにぎわしたり。なんといっても聖子さんは「日本で雑誌にもっとも頻繁に登場した人」。ヘアスタイル含め、社会現象化していましたからね。

W それだけに忙しさもすごくて、今だから言えますが、当時よく過労で倒れていたんです。急に人気が出て、プロダクション側も昔からお世話になっている方を断るわけにもいかない。私は、福岡から聖子を連れてきて事務所に紹介した立場ですから、マネージャーと本人の間に入って、スケジュールに余裕を持たせてもらえるように、しょっちゅうお願いしていました。

M やっぱりアイドルって過酷なんですね?

W 正直、当時の芸能界ではそれが一般的なところもあって。どんなに若くても大変だったと思います。でも少しずつ余裕も作ってもらえたし、レコーディングのときはいつも明るく元気でね。

M そしてデビュー2年目。『Silhouette』の曲について。4thシングルの『チェリーブラッサム』は今もコンサートで一番盛り上がる曲です。前向きな歌詞に何度励まされたことか。

W 歌詞にもサウンドにも、メッセージがしっかりありますからね。ただ、当初この曲をレコーディングするのを聖子が嫌がりまして。それまでのシングル3枚を作曲してくださった小田裕一郎さんが曲線的なメロディなのに対し、初めてお仕事する財津和夫さんのメロディは直線的。それで最初、違和感を感じたんでしょう。結局初めて歌入れが2日間にわたって。でもね、違和感を感じるのも才能なんです。自分の軸がしっかりあるからこそ、主張も生まれる。結局、これは絶対に売れるからと私が説得して。そこから先がまた聖子の才能なんですが、パッと明るく切り替えて気持ちが固まると、もう迷わない。引きずらないんです。

M 人の意見は聞くものだと、その後聖子さんも発言されています。

W そういう素直な感性ですよね。

M 『チェリーブラッサム』はヴィヴァルディの『四季』をイメージして、若松さんがオファーされたと聞いたことがあります。

W 私がヴィヴァルディを好きだったので、財津さんにお話しして。明るい春に向けて未来が開けていくようなイメージで。

M 冒頭からのストリングスとロックサウンドの融合。若松さんは、プロデューサーになる前の営業時代に、クラシックやジャズ、歌謡曲、ニューミュージックと、あらゆる音楽を聴きこんでいたそうですね。

W 営業所の倉庫の隅にステレオがあって、休日出勤しては、ずっとサンプル盤を聴いていました。するとね、売れる曲ってどのジャンルでもわかるんです。例えば私がいいと思った洋楽のシングル(1971年発売マシュマッカーン『霧の中の二人』、後に40万枚の大ヒット)をジュークボックスの会社に持って行ったら、まだ火もついていないのに100枚オーダーしてくださったことも。*ジュークボックス 中にシングルレコードが何種類も入っており、コインを入れるとリクエストした曲が流れる機械。70~80年代に大流行しカフェなどに置かれていた。

M 大衆の心の琴線に触れる楽曲ですよね。

W そう。歌は「印象」が大切なんです。なんだかすごい! 心地いい! というね。

M  5枚目のシングル『夏の扉』も大ヒットしました。

W 曲は財津さん。この曲も大村雅朗さんのロックテイストのアレンジが最高で。サウンドの奥にメッセージがある。

M はじける初夏の景色が一瞬で目に浮かびます。イントロのシンセと間奏の今剛さんのギターもいいですよね(今さんは宇多田ヒカルや井上陽水、矢沢永吉、福山雅治などもサポートする名ギタリスト)。

W あとサビの歌詞ですよね。財津さんのシンプルなメロディに作詞家の三浦徳子さんが「フレッシュ!」という言葉を3回つけて。

M 一音に文字がたくさん乗るのは、ビートルズの『HELP!』なんかが有名ですが、洋楽的なアプローチで斬新でした。

W それでポップさが爆発し。この曲は聖子も大好きでスムーズに録音できました。

M 髪を切った女の子の気持ちや、横断歩道でのやりとりなど、今聴いてもかわいい歌詞で、GINZA読者にもぜひカラオケで歌ってほしい(笑)。

 

80年代歌謡曲の定番!
ぜひカラオケのレパートリーに

M 『Sailing』や『あ・な・たの手紙』も、しっとりした女子のダイアリー的な曲で、財津和夫さんの詞と曲、両方が光ります。

W 財津さんは無口なんだけどすごく洞察力のある人で、引き出しが多いんです。自分も大ファンで。このときは詞も同時に依頼したのですが、聖子との相性も良く、非常にうまくいきました。

M このアルバムには、前作の『SQUALL』や『North Wind』と通じる『~オレンジの香り~Summer Beach』と、新境地とも呼べる楽曲が同時に並んでいます。

W 『ナイーブ~傷つきやすい午後~』なんかは作曲の小田裕一郎さんが歌唱指導してくださって、抑えめのウィスパーヴォイスが新鮮でしたし、『白い貝のブローチ』では、初めて松本隆さんに詞を書いていただきました。

M 松本さんはインタビューで、この一曲は、きっと若松さんなりのテストだったのかなと回顧されています。

W 確かに、既に大人気だった松本さんにアルバムの一曲をお願いするのは、唐突だったかもしれません。でもすぐに松本さんの詞は聖子の声とマッチして、とてもいい色合いが生まれることがわかったんです。

M それがその後のタッグのスタートだったんですね。ちなみに”シルエット”というキーワードは『白い貝のブローチ』の中に登場しています。

W そうでした。帯の「扉をあけたら、もうひとりの私…聖子」というキャッチは私が付けたものですが、2面性というか、聖子の新しい魅力がこのアルバムで引き出せたと思います。

M 当時の歌謡界でよく言われていた2年目のジンクス(デビュー年に売れた新人は翌年ヒットが出ない)は気にされていましたか?

W それは無かったですね。最近私のYouTubeでも、みなさんが「聖子さんの曲にずっと励まされています」と書いてくださるんですが、私自身は最善の仕上げで世に送り出したら、また次という感じで作品作りに集中していて。でも今改めて聴き返すと、自分でもいい曲ばかりだなと思いますね。

M シングル『チェリーブラッサム』のB面『少しずつ春』も、のびやかなヴォーカルが心地いい曲です。

W 確かにいい曲なんです。ただデビューした1年目の曲調を受けついでいるので。何事も過去の成功をなぞり始めると新鮮さがなくなっていく。だからあえてアーチスト本人もためらうような新しさを優先しました。

M 常に冒険が必要なんですね。

W そう。冒険の先に、新鮮な色合いが生まれるんです。

M なんだか『チェリーブラッサム』の歌詞にも通じていますね。キャンバスに自由な線、自由な色を描いていく。YouTubeで若松さんがお話しされている中で「売れるとは」という回も興味深かったです。

W 普段の生活や社会は、たくさんの決まりごとの中で成立しているけれど、芸ごとは、枠からはみ出すからこそ魅力を放つ。聖子の場合は、やはり歌ですよね。音楽的なセオリーにのっとったものではなく、あの勢いとニュアンスは、彼女独自の感性で生み出されるものですから。

M 唯一無二だと思います。

W そうすると不思議とみなさんの心に焼き付く。これは生き方の話でもあるのですが、人生って枠にとらわれすぎるとダメじゃないですか。自由で遊びがないと。ガチガチの正論ではダメだし協調性も大切ですが、少しはみ出したほうが楽しいし、新しいものが生まれる。

M チェリーブラッサム哲学!!

W あと歌はね、明るい部分だけでもダメで影が必要なんです。光と影があって初めて輝く。

M それで『Silhouette』なんですね。聖子さんの歌は明るいイメージが強いですが影もありますからね。次回は大滝詠一さんと組んだ歴史的名作アルバム『風立ちぬ』について!!

Silhouette|松田聖子|

*参考文献  平凡Special1985 僕らの80年代

Profile

若松宗雄/音楽プロデューサー わかまつ・むねお

一本のテープを頼りに松田聖子を発掘。芸能界デビューを頑なに反対する父親を約2年かけて説得。1980年4月1日に松田聖子をシングル『裸足の季節』でデビューさせ80年代の伝説的な活躍を支えた。レコード会社CBSソニーではキャンディーズ、松田聖子、PUFFY等を手がけ、その後ソニーミュージックアーティスツの社長、会長を経て、現在はエスプロレコーズの代表に。Twitter@waka_mune322、YouTube「若松宗雄チャンネル」も人気。

Text: Kuki Mizuhara Photo: Hiromi Kurokawa

#Share it!

#Share it!

FOLLOW US

GINZA公式アカウント

PICK UP

MAGAZINE

2020年11月号
2020年10月12日発売

GINZA2020年11月号

No.281 / 2020年10月12日発売 / 予価850円(税込み)

This Issue:
本のおしゃれ虫になる
GINZA読書案内

本を読む人
おすすめ187冊

...続きを読む

BUY NOW

今すぐネットで購入

MAGAZINE HOUSE amazon

1年間定期購読
(17% OFF)