M もう一つ『A LONG VACATION』を語る上でとても大切なことがあります。制作準備中に松本隆さんの妹さんが亡くなられて。松本さんが仕事を断ろうとしたところ、大滝さんが「君の詞じゃないとダメだ」と松本さんが戻ってくるのを待った。その後、想い出はモノクローム色を点けてくれ、と書かれたのが『君は天然色』。
W 生と死を意識しているからこそ、あんなすばらしい詞が書ける。何気ない歌にも実は深いメッセージが込められているんですよね。
M 若松さんは昔、小説『風立ちぬ』の作者・堀辰雄さんが入院していた高原の病院を見に行かれたことがあるそうですね。
W 堀さんのファンだったので詳しく知りたくて行ったのですが、つくづく命の儚さを感じました。昨年亡くなられた、なかにし礼さんも戦時中に満州で大変な苦労をされて。そういう背景を知って昭和のヒット曲、弘田三枝子の『人形の家』や黛ジュンの『天使の誘惑』を聴くと歌詞の意味が全く違って聞こえてくる。
M それを知ると聖子さんの曲もまた違う解釈ができますね。ところで世界的なシティポップ・ブーム。1984年発表の竹内まりやさんの『プラスティック・ラヴ』や1979年末発売の松原みきさんの『真夜中のドア~Stay With Me』がネットで大ヒットしていて。
W いい曲は時代も国境も超えちゃうからね。80年代のあたたかみのあるサウンドとメロディアスでイメージのはっきりした曲は、無機質に近い今の時代と逆だからこそ支持されるのがよくわかります。大滝さんのレコードを買いに海外からたくさんの人が来るのも同じ理由だよね。
M この春からいよいよ大滝さんもサブスクが解禁されるので、ますますグローバルな評価がアップしそうです。ちなみに今回の40周年記念盤には大滝さんのレアトラックCDが含まれるセットもあるのですが。ズバリ! 聖子さんの未発表曲はあるのでしょうか??
W ない。ないよー。
M そうですか……以前お話しした『白いパラソル』の別バージョンや『秘密の花園』のメロディ違いの噂も聞いたことがあります。
W 確かにそういうのはあるかもなぁー。色々検討していく上でやめたバージョンはおっしゃる通り存在します。普通は作家とアーティストがOKすれば出せるけど、どうだろうね。
M いつかまた若松さんに、新旧のソニーミュージックのアーティストを集合させて聖子さんのアルバムを作って欲しいです。レアトラックスや大滝さんの曲も入れて。夢でもしそのアルバムに逢えたら、素敵なことどころかファン号泣です。
W もちろんチャンスがあれば是非。まだまだ音楽で革命を起こしますよ!!
M 大滝さんや松本さんや聖子さんが一つになってレコードを作れたのは、情熱溢れる若松さんがいたからこそ。さて次回は連載のVol.10。ロングヒットした伝説の両A面シングル『ガラスの林檎』と『SWEET MEMORIES』について。お楽しみに!
参考文献
「平凡Special 僕らの80年代 1985」(マガジンハウス)
「平凡Special 僕らの80年代 1982」(マガジンハウス)
「大滝詠一 作品集 Vol.1」(ソニーミュージック・レコーズ)
「大滝詠一 Talks About Niagara Complete Edition」(ミュージック・マガジン)
朝日新聞 1985年12月18日 夕刊
「夢で逢えたら 松田聖子」(ワニブックス)