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貝の振る舞いが、人間界の価値を刺激する AKI INOMATAインタビュー@金沢21世紀美術館

貝の振る舞いが、人間界の価値を刺激する AKI INOMATAインタビュー@金沢21世紀美術館

金沢21世紀美術館では、現在AKI INOMATAの個展「アペルト16 AKI INOMATA Acting Shells」が開催されている。AKI INOMATAは、ミノムシやヤドカリ、ビーバーなど多様な生き物と共に作品を生み出すアーティスト。自然と人間の関係が問い直される昨今、その特異なアプローチが注目を集めている。今回は、貝をモチーフにした4つの作品からなるインスタレーションを展開。様々なアプローチによる貝とのコラボレーションが教えてくれることとは——?金沢にて、INOMATAさんにお話を聞いた。


AKI INOMATAインタビュー展示風景

紙幣の肖像を真珠に!?モノの価値と交換の意味を問い直す

——今回の展覧会は、タイトル「Acting Shells」の通り、貝をモチーフにした作品が集められていますね。

貝とコラボレーションした作品を4つ出品しています。メインとなる《貨幣の記憶》は、真珠貝の中に人の顔の形をした核を入れた作品です。真珠が作られるのと同じように貝が核に真珠層を重ねていくことで、肖像がパールの光沢に包まれます。人の顔は、エリザベス女王や毛沢東など実在の貨幣に印刷されている人の像で、五大貨幣と呼ばれるものから取りました。他に、記念紙幣として発行された0ユーロ札のカール・マルクス(『資本論』の著者)の像もあります。

AKI INOMATAインタビュー《貨幣の記憶 毛沢東》

——貝と貨幣を合わせようと思った理由は?

電子マネーや暗号資産など、価値はあるけれども物質としては存在しない通貨が注目を集めていて、貨幣制度が揺らいでいると感じていました。紙幣は交換材として機能しているだけですが、ご祝儀には新札を使うとか、どこかモノ性を宿していると思うんです。かつては貨幣自体に美しさといったモノとしての価値が求められていて、貝はお金の起源とされている原始貨幣にも使われていました。ですから、この作品は現在と昔の貨幣を掛け合わせたようなものだと思っています。

AKI INOMATAインタビュー《貨幣の記憶》映像とINOMATAさん

——映像では、この作品がひらひらと海中を漂っている様子が映っていますね。

人と生き物の要素が半々ずつくらいのこの作品が海に沈み、自然に帰っていく姿をイメージしました。そして何百年先に海底から化石として発掘された時に、人はどう思うだろう?と。例えば貝塚は、先史時代の人がそこに住み、貝を食べていたという歴史を伝えてくれます。同時に、貝の成長過程がわかる成長線(後述)を見ると、当時の海の環境もわかる。貝が人類史と自然環境の変化の両方を記録したアーカイブになり得るところが面白いですし、これからだって貝の方が私たちよりも時を超えて残っていくのかもしれません。

 

貝が歴史を記録するメディアになる

——アサリの作品《Lines-貝の成長線を聴く》も、成長線がモチーフになっていますね。

貝の成長線は貝殻の断面に見られる線で、木の年輪に似ています。これを観察すると、貝が一日ごとにどれくらい大きくなったかがわかる。この成長線を写した顕微鏡写真を作品にしたのが《Lines-貝の成長線を聴く》です。作品になっているのは、福島県相馬市で2011年7月と2015年7月に採集した二つのアサリの成長線。前者は震災により海中もかなり動き、多くのアサリが死滅した分、残った者が豊富な栄養分を得られたようで、震災後に大きく成長した後が見られます。一方、2015年の方は防潮堤の工事期間を経験しているので、形がいびつだったりして成長が悪かったことが記録されています。ここから、貝が工事のストレスによってあまり成長しなかったことが推測できます。

AKI INOMATAインタビュー《Lines-貝の成長線を聴く》

——貝もストレスを感じるんですね……。最近は、人間がしてきたことが自然環境に多大な影響を与えているという意見もあります。

一概にどちらが良くて悪いとは言えませんし、難しい問題です。ただ、東日本大震災直後は、たくさんの方が亡くなられて人間側の損失はものすごく大きかったわけで、自然現象とはいえ起きない方が良かったのにと非常にネガティブな気持ちでした。でも貝を観察することで、震災の別の側面を教えられるようでした。何百年かに一度のサイクルで起きる大きな自然現象との向き合い方について、生き物のふるまいが新しい発見や考えをもたらしてくれることもあるんです。

AKI INOMATAインタビュー《Lines-貝の成長線を聴く》部分

 

やどかりに「やど」をわたしてみる

——《やどかりに「やど」をわたしてみる》は、シェル(殻)そのものをINOMATAさんが作っていますね。

この殻は3Dプリンタで出力したもので、表の部分は世界各地の都市の形をしています。内側の方は、生きているヤドカリに実際に入ってもらわないといけないので、彼らとの実験を繰り返した結果、形を決めていきました。ペットボトルのキャップを「やど」にしているヤドカリがいると知り、シンプルな球形から始めたのですが、入ってくれなくて(笑)。ヤドカリもキャップと貝殻があれば、当然貝殻の方に行く。徐々に、貝が好きそうな螺旋形状やシェルの厚みなどがわかってきました。

AKI INOMATAインタビュー《やどかりに「やど」をわたしてみる》

——シェルを都市の形にしようと思った理由は?

もともとフランス大使館での展示がきっかけで生まれた作品だったので、国籍と人の関係はテーマにありました。人は生まれてからずっと同じ場所に住むとは限らないし、移動の中で色んな影響を受けて成長していきますよね。一方、出自や見た目といった判別しやすい要素でアイデンティファイしてしまうことも多い。その安易さへの反省も込めて、各地の都市を象ることにしました。展示する時は、水槽にヤドカリよりも多い数のやど(シェル)を入れています。多い時は一日に何回も引っ越すんですよ。

 

——《進化への考察 #1:菊石(アンモナイト)》もタコがシェルに出入りする様子を映した作品ですね。

これは、アンモナイトと思しきシェルにタコが時空を超えて出会う作品です。アンモナイトは6600万年前に絶滅し、今は化石しか残っていませんが、イカやタコの近縁種だと言われています。タコも進化の過程で貝殻を捨てたらしく、傷つきやすい体を晒している状態なんだそうです。そこで、タコに殻を与えてみようと。アンモナイトの形は化石をCTスキャンして復元しましたが、化石は欠損している部分も多いので、私の想像で形を決めたところもあります。映像のタコはこの殻をすごく気に入ってくれたので、ほっとしました。

AKI INOMATAインタビュー展示室外部に設置された映像作品《進化への考察 #1:菊石(アンモナイト)》は、特に夜がおすすめ

 

予測できない相手と共に、未知の世界を拓く

——生き物とのコラボレーションを続けられていますが、醍醐味はなんでしょうか?

コントロールできないことですね。基本的に意思疎通ができない相手ばかりなので、むしろ自分の方が影響を受けて変わっていくことを楽しんでいます。美術は人間が何かを表現するものですが、私の作品の場合は「誰が作ったか?」がはっきりしません。今回は展示していませんが、ビーバーが木の柱をかじって作った彫刻作品もあります。この場合、作者はビーバーと言えますが、柔らかい部分ばかりかじっていることがわかってくると、木の硬さがかじる部分を規定している≒木が作者だとも考えられます。こんなふうに主体が曖昧になっていくところも興味深いと思っています。

——金沢21世紀美術館で展示してみて、どうでしたか?

この美術館は周囲がすべてガラスになっていて、シースルーになっているところが気に入っています。建物に大勢の人が出入りする様子は、内と外で代謝を繰り返す細胞膜のようだし、夜は美術館が大きな水槽みたいに見えます。透明なシェルターと捉えると、今回展示した作品とも呼応するようです。

ヤドカリの「やど」を透明にしたのは、隠れている部分にちゃんと体があることを伝えたかったからなんです。内と外を仕切るものが透明になることで、従来の価値観が更新されたり、新たな出会いが生まれることもありますよね。皆さんもこの展覧会を通して、知らなかった貝の世界に触れてもらえたらうれしいです。

AKI INOMATAインタビュー

アペルト16 AKI INOMATA Acting Shells

会期: 開催中~2022年9月11日(日)
会場: 金沢21世紀美術館 長期インスタレーションルーム
住所: 石川県金沢市広坂1丁目2−1
休館日: 月曜(ただし、7月18日、8月15日は会場)、7月19日、8月16日
会場時間: 10:00~18:00

入場無料

公式サイトはこちら

柴原聡子

建築設計事務所や美術館勤務を経て、フリーランスの編集・企画・執筆・広報として活動。建築やアートにかかわる記事の執筆、印刷物やウェブサイトを制作するほか、展覧会やイベントの企画・広報も行う。企画した展覧会に「ファンタスマ――ケイト・ロードの標本室」、「スタジオ・ムンバイ 夏の家」など

Photo: Eisuke Asaoka

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