ジャームッシュ独特の粋な間合いに惹かれる。尾崎世界観さんのマイベスト映画『ナイト・オン・ザ・プラネット』

ジャームッシュ独特の粋な間合いに惹かれる。尾崎世界観さんのマイベスト映画『ナイト・オン・ザ・プラネット』

何度も観返しているもの、生き方の指針になっているもの。面白い作品はたくさんあるけど、「マイ・ベスト」は?尾崎世界観さんに、愛してやまない一本を教えてもらいました。

ナイト・オン・ザ・プラネット

ジム・ジャームッシュ | 1991年 | アメリカ | 129分

ジャームッシュの粋な間の取り方は せっかちな僕にとっての憧れです

高校時代の大晦日、地元から一番近くにあった町屋のTSUTAYAで何気なく手に取ったのが『ナイト・オン・ザ・プラネット』でした。好きな映画は時期によって変わるけど、この作品はずっと好きなままです。実はクリープハイプというバンド名も、この映画の台詞からとりました。カート・コバーンに憧れていた時期で、ニルヴァーナの曲から「Creep」というネガティブなワードを入れることは決めていて、そこに組み合わせる単語を探していたんです。それで、劇中でヨーヨーという登場人物が話す「Hype!(イケてる)」というスラングの響きが気に入って。正反対の言葉を組み合わせたつもりだったんですけど、あとで調べてみたら「Hype」も本来ネガティブな意味だったんですよね(笑)。

ジャームッシュの作品の魅力は、台詞と台詞の間合いにあると思っています。登場人物が喋っている言葉よりも、前後の間の方が印象的です。静かだけど、台詞以外の音がちゃんと聞こえてくる気がして、そこに強く惹かれます。トム・ウェイツの音楽もいいですね。ポツポツと話す短い台詞の中にも含みがあって、お互いの心情がにじみ出る感じが好きです。この独特なテンポや空白は、自分の創作においても強い影響を及ぼしているかもしれません。いつも、せっかちなんですよ。沈黙には耐えられないし、飴も噛めそうだったらすぐ噛んでしまう。ジャームッシュの作品に出てくる人たちのように、粋な間合いで人と会話したい、と常に思っているんですけどね(笑)。

20代前半の頃は、テアトル新宿のオールナイト上映に頻繁に通っていました。もはや筋トレみたいに映画と向き合っていましたね。体はしんどいけど「それでこそ何かを吸収できるんだ!」と自分を信じ込ませて、眠い目をこすりながら気合で3本観ていました。夜の映画館の、あの独特な空気も好きです。同じ上映に来ていても、休憩時間になったら散り散りになって過ごして、戻って同じスクリーンを見上げて、休憩でまたバラバラになって…微妙に連帯感が生まれるけどつながってはいないという、あの不思議な感じ。縁があって、そのテアトル新宿ではここ何年か、僕が選んだ作品をオールナイトで上映するイベント「尾崎世界館」をやらせてもらっています。これまで上映した作品は、『スモーク』(95)、『Helpless』(96)、『お引越し』(93)、『ベイビー・ドライバー』(17)など。なかなか作品の上映許可が下りなかったり、公開当時のフィルムで劣化して字幕が読めなくなっていたり、毎回試行錯誤なのですが、今後も続けていきたいです。

映画も小説も、一度観ただけだとすべては覚えられないですよね。むしろ、ほとんど忘れてしまう。でも僕はあえてその最初の記憶だけで留めておきたいんです。「あのシーンどうだったっけ」と薄れていってしまうのもまた良くて。作品の内容ではなく、あの時自分はこういう気持ちだったとか、そういう感覚を思い出すための装置としても映画は大切だなと思います。

 


その他のマイ・ベストは

開始1分でボロ泣き⁉︎ 柄本佑さんのマイベスト映画『駅馬車』

十年、二十年後にまた観たい。中条あやみさんのマイベスト映画『ライフ・イズ・ビューティフル』

自分を肯定してくれるように思えた… 山内マリコさんのマイベスト映画『ふたりのベロニカ』

ナイト・オン・ザ・プラネット

ジム・ジャームッシュ | 1991年 | アメリカ | 129分

LA、NY、パリ、ローマ、ヘルシンキの5都市を舞台に、タクシー運転手と乗客とのドラマを描くジャームッシュの代表作。(バップ/DVD ¥1,800)

尾崎世界観
おざき・せかいかん

>> クリープハイプのヴォーカル&ギター。2016年に小説家デビュー。テアトル新宿で上映イベントを定期的に開催。

Photo: Takao Iwasawa (The VOICE MANAGEMENT_P.44-45, 52-53), Reiko Touyama (P.48_Erina Sone) Styling: Risa Ueda (HITOME_P.45) Hair&Make-up: Raishirou Yokoyama (Yolken_P.45), Satoshi Tanimoto (P.53) Text: Satoko Muroga (RCKT), Naoko Sasaki (P.45), Mako Matsuoka, Aya Shigenobu, Hikari Torisawa (P.52)

GINZA2019年8月号掲載

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